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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

347話「帰還と姦しい二人の女」



「ローランド君、あたしも一緒に連れって行ってほしいの! お願い、何でもするから」

「いいぞ」

「うぇっ!? いいの?」


 薬草を手に入れた翌日の朝、ルルミーレが開口一番そんなことを言ってきた。俺はその願いに即答で答える。


 元々、ルルミーレの境遇を聞いた時、エルフの里での用事が終われば誘おうかとは考えていたので、彼女から言ってきてくれたことで俺的には手間が省ける形となった。


 ちなみに、言うまでもないことだが、昨日の夜また性懲りもなくルルミーレが夜這いを掛けてきたため、ストレージに入れておいた布団で簀巻きにして放置するという一幕があった。そして、今ルルミーレは簀巻きになった状態で俺に話し掛けてきている。何ともシュールな光景だ。


 とにかく、これでアルラウネに続いてルルミーレが仲間になることになったのだが、果たして長老が許可してくれるかどうかである。


「うむ、ルルミーレのためにもそれがいいだろう。道中気をつけてな」

「長老様、ありがとうございます!」

「……」


 などという俺の心配は杞憂に終わり、快く送り出してくれた。昨日依頼しておいた薬も完成しており、できた分の薬をすべてもらい受けることになった。これでローラの病気を治すことができる。


「ローランド殿、改めて今回の件誠に感謝する。何かまた薬のことで困ったことがあれば、力になることを約束しよう」

「その時は頼らせてもらう」


 そう言って、長老と握手を交わし、俺たちは一度ルルミーレの家に戻った。


 それから、ルルミーレの荷物を纏める作業をしたのち、何かやり残したことはないか確認すると、早々にエルフの里を出発する。


「誰も見送りに来ないな」

「まあ、こればっかりはしょうがないわよ」


 ルルミーレも自分が置かれていた境遇を理解しているらしく、少し寂し気ではあったが、里の人間が誰も見送りに来ないことに不満はない様子だった。


 そこからしばらく森を突き進み、エルフの里から一定の距離が離れたところで、改めてルルミーレに人間の住む街についての説明をしておく。


「いいか、人間の街での注意点をいくつか言っておく」

「ええ」

「まず、お前は美しい」

「うぇっ!? こ、こんなところで求愛なんて。せめて夜まで待ってくれても……」

「お前は何を言っている?」


 両手を頬に当てながらもじもじとする気持ちの悪いルルミーレの頭にチョップを落として再起動したあと、改めて詳しい説明をする。先ほどの俺の美しいという言葉は本当で、世間一般的にエルフという種族は例に漏れず美形しかいない。そして、その美しさは人間の価値観に当てはめた時、トップクラスに美しいと評されるほどの美貌を持っている。


 現在は表立ってエルフをどうこうするということは減っているものの、中には無理矢理に連れ去り奴隷として売買されるケースもあり、ただそこに存在しているだけで犯罪に巻き込まれる可能性があるのだ。


 元々、エルフが人間の生活圏に現れること自体が珍しく、ルルミーレたちに出会う以前に俺が知っているエルフの知り合いはリリエールとダークエルフのララミールのみであり、それ以外だとハーフエルフのナガルティーニャとリアナくらいのものだ。ってか、今思い出したが、あのロリババアってハーフエルフだったな。キャラが強烈過ぎて忘れていた。


「人間から見たお前は物凄い美人だ。当然そんな美人が公衆で現れるとなると、いろいろと面倒事に巻き込まれやすくなる」

「なるほどね」

「そして、ただでさえ美人なのにその凶悪なまでにデカい乳がお前にはある。天は二物を与えずという言葉を真っ向から否定する神をも恐れぬ所業だ」

「褒められてるのか非難されてるのかよくわからないわね」

「両方だ。とにかく、お前が人間の住む街に行けば、間違いなく余計なちょっかいを出して来る奴がいるということだけは覚えておけ。ということで、ここが人間の住む都市シェルズ王国王都ティタンザニアだ」

「ファッ!?」


 人間のいる場所での注意喚起を行いながら、俺はルルミーレと共に瞬間移動で王都の屋敷の庭まで転移する。いきなり森の中から大きな屋敷まで移動したことに驚きを隠せないルルミーレだったが、元来た道を時間を掛けて戻ることに意味を見い出せなかったため、彼女と共に王都へ瞬間移動したのだ。


 突然風景が変化したことできょろきょろと辺りを見回している彼女を見ていると、どこからともなく気配が現れる。


「ご主人様、お帰りなさいですのん」

「モチャか。よく気付いたな」

「常にご主人様の気配は探ってますのん」


 それは面倒そうだなと心の中で感想を漏らしながら、戻ったことと少し出掛けてくる旨をソバスに伝えるよう彼女に頼み、俺はルルミーレを伴って商業ギルドへと向かった。


 一応貴族モードをオンにしてギルドマスターのリリエールとの面会を求めると、すぐに応接室へと通される。そして、すぐにリリエールがやってくるとルルミーレを見て出てきた第一声が以下の通りであった。


「げっ、デカ乳」

「あら、まな板じゃない」

「誰がまな板か! エルフの中ではこれが通常サイズだ! お前がおかしいんだよ!!」

「ということだ。あとはよろしく頼んだ」

「ローランド様? それはいくらなんでも説明を省き過ぎですよ。最初から説明してください!」

「ち、ダメだったか」


 面倒な説明を省きつつ、さり気なくルルミーレを彼女に押し付けながらフェードアウトしようと考えていたのだが、世の中そうそう上手くはいかないようだ。


 仕方がないので、俺がエルフの里へ行ったことやそこで起こった出来事を説明し、最終的にルルミーレを連れて行く運びになったことを言ってやると、目を見開いて驚いていた。


「まさか、そのようなことが起こっていたとは。それにしてもルルミーレ。あなたまた大きくなったんじゃない?」

「そうね。以前よりも胸がきつくなったわね」

「おのれぃ、乳だけ無駄に成長し腐ってからに……。ふんっ」

「きゃあ、な、何するのよ!?」

「うるさいっ、半分寄こせ!」

「そんなことできるわけないじゃないの!」


 俺の説明が終わると、すぐに二人が話し始めた。元々、この二人が遠縁の親戚同士であるということはルルミーレから聞いていたため、昔からの顔馴染みであることは知っていた。だからこそここに連れてきたというのもあるのだが、どうやらリリエールは自分の胸にコンプレックスがあるようで、何を思ったかルルミーレの胸をいきなり鷲掴みにした。


 女性というものは三人寄れば姦しいとはよく言うが、二人でも十分に姦しいということがよくわかる構図だ。一方は巨大な乳房を鷲掴み、もう一方は相手の頬を抓って対抗している。


 一見すると仲のいいほんわかとした一幕のようだが、それを強制的に見せられる側としては堪ったものではない。


 しばらく好きにさせていたのだが、あまりにもそれが長く続いたため、最終的に二人の頭にチョップを落として痛み分けとした。それについて抗議の声を上げていたが、そんなことは俺の知ったことではない。


「とにかく、そういうことだからルルミーレの面倒を見てやれ」

「ちょ、ちょっと! まさか置いていく気じゃないでしょうね!?」

「ローランド様、いきなり過ぎますよ!!」

「ち、無理だったか」


 あわよくば親戚のリリエールにすべてを押し付けて俺は知らんふりを決め込もうと思ったが、さすがにそうは問屋が卸してくれないようで、二人から猛烈な抗議を受ける。


 俺としても、こちら側からエルフの里から連れだす形となっているため、さすがにリリエールにすべてを押し付けるのはいかがなものかとは思うので、たまには様子を見るつもりではいた。


 とりあえず、エルフの里で作ってもらった薬をローラに渡すべく、その間だけでもルルミーレのことをリリエールに託し、俺はその足でマルベルト領の屋敷へと帰還した。

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