ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

346話「新たな仲間と報告」



「さて、薬草も採取したことだし、里に戻るか」

「ええ、そうね」


 いろいろと邪魔が入ってしまったが、これでようやく目的の薬草を手に入れたことだし、さっそくエルフの里に戻ろうとしたのだが、それを呼び止める奴がいた。言わずもがな、アルラウネである。


「ま、待ってちょうだい!」

「なんだ?」

「わ、私も連れてい行ってほしいの」

「は?」


 最初言われて瞬間何を言っているのか理解できなかったが、時間が経過するにつれてアルラウネの言葉の意味を理解する。あろうことか、俺についていきたいと言い出したのだ。


 だが、そんなことを言われて“はいそうですか。じゃあ一緒に行きましょう”などという風にはならないし、何よりも、こいつを仲間にして何か特になるようなことがあるのだろうか? はっきり言ってない。寧ろ、連れて行くと余計なトラブルになりかねない。


「だが断る。お前を連れて行くメリットがない」

「夜の相手をするわ」

「必要ない」

「植物の管理ができるわ」

「お前じゃなくても、他にできる奴がいる」


 俺の言葉の通り、現時点でアルラウネを仲間にしたとしても奴にできることは代わりが効く仕事ばかりで、すでに他の者がやっていることなのだ。だから、アルラウネを仲間に加えてもさせる仕事がないのである。


 そういった意味では、オクトパスやマンティコアの二体も似たような状況にあり、さらにもう一体を加えることに抵抗感を抱いている。つまりは俺の個人的な感情からもアルラウネを仲間にしたくはないという結論に至っているのだ。


 だが、何としても俺についていきたいアルラウネは、自分を連れて行くとこういったことができると必死に自己アピールをするものの、そのどれもに魅力を感じないため、俺が首を縦に振ることはない。だが、ここで初めて俺の琴線に触れる提案が出てくる。


「蜜とか出せるけど」

「ほう、なら出してみろ」

「わかったわ。でろーん」

「うわっ、汚いっ!」


 試しに出させてみると、ダラダラと涎を垂らし始めたため、思わず距離を取ってしまう。見た目的にアウトだったが、試しにその涎を掬って舐めてみると、確かに花の蜜のような風味と甘味がした。だが、どうしたものか。


 確かに、現状で言えば砂糖などの生産量はクッキーなどにリソースを割かれており、他のことに手を回すほど余裕がない。収穫量を増やそうにもそれを管理するための人員も確保しなければならず、その人員を管理する者も雇わなければならないというあっちを立てればこっちが立たずといった状況にある。


 本人の自己申告だが、植物の管理ができるということと自身が甘味製造機であるというのならば、お試しとして一定の土地を管理させつつ花の蜜を生産させるというのもいいのかもしれない。


 そういったことを考えていると、自分の唾液を舐める俺に興奮したのかだらしのない顔をしていたので、とりあえず一発ぶん殴っておいた。


「でだ。付いていきたいということだが、いいのか?」

「問題ないわよ」

「そうだ。お前がいなくなったらこの薬草が生えないとかはないだろうな?」

「それは大丈夫。まあ、管理してたのは私だから多少は自生する数が減っちゃうとは思うけど、元々私が手を加えなくても自力で生きていけるだろうし」

「もう一つ確認だ。俺は人使いが荒いが、お前を相当こき使うかもしれんぞ?」

「美少年に上から指図される私……嗚呼、いい」

「……」


 ワンちゃん諦めてくれないかと思い多少話を盛ってみたが、逆効果だったようで、自分の世界に入り込みトリップし始めた。こいつもナガルティーニャ寄りの臭いがする。やはり近くに置くのはまずいかとも考えたが、その時は物理的な制裁を加えればいいだけの話だ。尤も、こいつにとってはそれもご褒美になるやもしれんがな。


 話が纏まったところで、俺はアルラウネと契約を交わすことにした。これで召喚術を使っていつでもアルラウネを呼び出すことができる。


「じゃあ、ひとまずは俺が呼ぶまで戻っていろ」

「はい、ご主人様。ところで、ご主人様の下僕になった記念にご褒美のチューをいただきた――」

「【送還】」


 予想通りというべきかなんというべきか、契約が完了するとすぐに己の欲を見たさんと俺にセクハラをかましてきたため、即座に送還してやった。これからは必要なとき以外は出さないようにした方が賢明だろう。


 新たな仲間が増えたことに喜ぶべきか、それとも厄介な奴を仲間にしてしまったと憂うべきかはわからないが、改めて俺とルルミーレはエルフの里へと帰還することにしたのであった。


「森が騒がしいと思えば、そのようなことが起きていたとは……」


 エルフの里へと戻った俺とルルミーレは、事の顛末を報告するため、長老の家へと立ち寄った。報告の内容を聞いて信じられないといった様子だったが、俺たちが嘘をついていないことがわかると、労いと感謝の言葉を述べた。


「まずはご苦労であった。此度のこと、我らの間でもどうしたものかと頭を悩ませていた問題であったため、元凶を退けてくれたこと一族を代表して感謝する」

「その言葉、素直に受け取っておく。それでなんだが、薬草はこれであっているか?」


 長老の言葉を素直に受け入れ、いよいよ本題の薬草を見せる。これで違っていればまた取りに戻らねばならないところだが、幸いなことにそうならずに済んだ。こちらで調べてもそれらしい薬草がなかったことと、実際解析した結果も“あらゆる病に効果があるという伝承がある薬草”という記載もあったことから間違いないことはわかっていたが、一応知っている人間からそうだという言葉を聞くまでは不安なものなのだ。


「それで間違いない。さっそく、薬師に頼み薬を作らせるとしよう」

「すまないが頼んだ」


 薬草の確認が取れたことで入手した薬草を長老に託し、俺たちはその場を後にする。長老の話では明日の朝には完成しているとのことなので、その日はルルミーレの家に戻ってゆっくりと過ごすことになったのだが、そこでも新たな厄介事に巻き込まれることになるのだった。

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