ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
343話「悪役の末路」
「おらおらおらおらおらおらおらおら」
「よっ、ほっ、はっ、へっ、そいっ、ちょいっ、てっ、りっ、たっ、まっ、たっ、べっ、るっ」
ガジェットとの肉弾戦が開始して数分が経過する。猛烈な相手の攻撃を俺は一つ一つ確実に躱していく。最初は余裕綽々だったガジェットも自分の攻撃が確実に躱されているという事実に気付き始め、今では焦りの表情へと変貌を遂げている。
確かにガジェットの能力は常人と比べてみてもかなりのもので、下手をすればSSランクの冒険者に匹敵するだろう。しかしながら、SSランクのモンスターをワンパンする俺からすれば力不足が否めないのだ。はっきり言って、脅威とはなり得ない。
だが、化け物を自称している俺でも、相手を殺傷する目的のために繰り出された攻撃を受ければ蚊に刺された程度には痛いし、その衝撃も体に伝わるため、わざわざ相手の攻撃を受けてやる義理はない。
「な、何故だ! 何故攻撃が当たらん!?」
「もう十分に理解できているのではないか? お前の攻撃が俺に当たらない理由が」
「ば、馬鹿な。俺よりもお前の方が強いというのか!?」
「それ以外に理由があるのなら、後学のために聞かせてもらいたいぞ」
「くっ、かくなる上は……」
俺の実力を見誤り喧嘩を吹っかけてきたことを悔いるガジェットだったが、もう既に手を出してしまっている以上後戻りはできない。俺から逃れるためにはここで俺を倒す他ないが、彼我の実力差を知った今ではそれも叶わないことだと理解できているだろう。
ならばそういった人間が最後に取る手段とはどのようなものなのか? 答えは単純明快。後遺症が残る切り札的なものを使った特攻である。
「これはステロイド強化剤といって、人間が持つ秘めた力を引き出してくれるものだ」
「ふーん、それを取り出してどうするんだ?」
「それはもちろん。こうする。んぐっ……はああああああああ」
ガジェットが取り出したのは、見るからに前世で見たことがあるカプセル型の薬だった。奴の説明では能力を引き上げてくれるとのことだが、そんなとんでも効果をもたらすものがノーリスクで使えるとは到底思えない。それが証拠に、ガジェットの体がみるみると巨大化していき、ムキムキなゴリマッチョへと変貌する。
元々、体格は良かったガジェットだが、ステロイド強化剤の効力によってそれこそ見た目は浅黒い色をした某アメコミの巨人を彷彿とさせる。
「ハ〇クかよ」
「ハハハハハハッ、待たせたな小僧。この形態になってしまったからには、前ほど優しくはないぞ」
「やれやれ、上がったのは体のデカさと無駄口だけのようだな」
「ならば見せてやろう。この俺の圧倒的なパワーというものを、なっ」
そう言うが早いか、先ほどとは比べ物にならないほどのスピードで俺に肉薄し、その巨大な拳を突き立ててくる。それに対処するように両腕をクロスした状態で奴の攻撃を受け止めることに成功したが、その攻撃力と勢いは凄まじく、俺の体が宙へと投げ出される。
それだけには留まらず、宙に投げ出された体は後方へと吹き飛び、遮蔽物である木々をなぎ倒し、それが十本を越えたところでようやく勢いが止まった。
「ハハハハハハッ、どうだ小僧! これがステロイド強化剤の力だ!!」
両腕を広げ、その圧倒的な力を誇示するかのようにガジェットは高笑いする。奴が自負するだけのことはあり、その攻撃は確かに俺を捉えていた。だが、言い換えればそれだけの話である。
「やれやれ、少しは期待したんだが。ただ吹っ飛ばすだけの攻撃じゃないか、ダメージはまったくないぞ」
「なん……だと?」
「今度はこちらの番だな。手加減してやるから、死ぬんじゃないぞ?」
「ぐはっ」
少しは期待した俺だったが、さすがに俺レベルの使い手がそうゴロゴロといる訳もなく、結果的にかすり傷一つ付けることはできなかった。結果の見えた戦いを長引かせるほどつまらないものはないため、俺はガジェットの懐に飛び込みおでこに向けて指を弾いた。デコピンである。
衝撃が俺の指から伝達し、それは物理的エネルギーへと変換される。その力量はかなりのもので、三メートルを優に超えるガジェットの体をいとも簡単に吹き飛ばした。先ほどの俺と同じく遮蔽物である木々をなぎ倒していく。その数が十、二十、三十といった具合に勢いが衰えることなくその数を増やしていく。そして、ガジェットが地に足を付けることができたのは、なぎ倒された木々の数が五十を超えた時であった。
「ぐ、ぐぅ」
「おいおい、これ以上の手加減のしようがないっていうのに。しょうがないな、小指一本でやるしかないか」
「ま、魔法使いではなかったのか……」
俺が声を掛けると、ガジェットが呻き声を上げながら問い掛けてくる。ダメージはかなりのもので、動くことさえできない様子だ。
「俺がなぜ肉弾戦で戦わないのか教えてやろう。手加減ができないからだ」
「ば、化け物が……」
「それは俺が一番よく理解している」
実に呆気ない幕切れだったが、ガジェットとの戦いはこれで決着がついた。そう思い、そのまま踵を返して歩き出したその時、突如として背中に衝撃が走る。そのまま吹っ飛ばされる状態のまま後方に目を向けると、狂乱状態となったガジェットの姿があった。どうやら、持っていたステロイド強化剤をすべて使用したようで、ただでさえ膨れ上がった筋肉がまるで爆発寸前の風船のようにパンパンの状態となっていた。
咄嗟に、風魔法で体勢を立て直し、もはやまともな自我を保てていないガジェットを見据える。そして、更なる追撃を加えようと俺に向かって突進してきている奴に向かって俺は拳を突き出した。
「必殺マ〇シリーズ【マ〇殴り】!」
「ぐがっ、ぐげごっ、がごげぎっ」
先ほどのデコピンなど比べ物にならないほどに力が籠った攻撃が、ガジェットの胴体に突き刺さる。宣言通り小指を立てた状態で突きを放つ光景は、なんとも滑稽だが、その威力は尋常ではない。そんな様子を見ていると、ある漫画の登場人物が残したこんなセリフを思い出す。
“一点に凝縮された力というものは、無駄な破壊をしない”
その言葉が正しいと証明するかのように、ガジェットの胴体にバスケットボール大の風穴を開ける。その攻撃を二つ三つと突き立ててやれば、その穴の数も同じように増える。
そして、最終的にその小指での攻撃を顔面にぶち込んだことで、ガジェットの頭部が爆散する結果となり、そこで完全に勝負が決着する。こうして、静寂が再び蘇りシャンガルディア大森林での戦いに終止符が打たれた。
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