ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
341話「戦いの終結」
“グオオオオオオオ”
辺り一帯からモンスターたちの咆哮が響き渡る。すでに近くにいるモンスターたちがエクシードの影響下にあり、暴走が始まっているらしい。
「ちぃ、【フレイムボム】」
手遅れだとわかってはいたが、ささやかな抵抗として効果が発動したエクシードに向けて魔法を放つ。だが、その魔法が効果を発動することはなく見えない壁によって阻まれた。俺の破壊工作を奴が黙って見ているはずもなく、なにかしらの手段を用いて俺の魔法を無効化したようだ。
「おやおや、乱暴な少年だ。いきなりエクシードを破壊しようとは、不届き千万ですよ」
「薄らハゲに言われたくはない」
「ぐふっ、貴様というやつはいちいち癇に障る奴だ」
どうやら、男の精神をさらに抉ったようで、苦しくもないのに胸を押さえながら悶絶している。本当に気にしているようだな。
そんなやり取りをしている間も暴走したモンスターが迫ってきており、俺たちのいる場所もそろそろ危なくなってきていた。だが、それはそれとして、まずはやっておかなければならないことがあるため、それを実行に移す。
「とりあえず、前回のように逃げられたら鬱陶しいからな。【ディメンジョンロック】」
「?」
俺は時空属性の魔法である空間を固定する魔法を使用する。これによって特定の座標を指定して移動するといった類の魔法や魔道具の効果を無効化することができるのだ。これで奴が何かしらの転移系能力を使って転移するということを未然に防ぐことができた。
一方で、俺が何をしたのかわかっていないのか怪訝な表情を浮かべてはいるが、すぐに元の陰湿な顔を張り付け、勝ち誇った顔で宣い出す。
「さあ、どうするのですか。このままだと逃げることも戦うこともできなくなり、モンスターの大群に押しつぶされてしまいますよ」
「モンスターはさしたる問題はない。とりあえず、お前をここから逃がさず仕留めれば任務達成だ」
「そんなことが許されるとでも?」
「なら、精々抵抗してみることだ。ルルミーレ、下がっていろ。……いくぞ、【ストーンレイン】」
舌戦が一通り終わったところで、俺はルルミーレを安全な場所に下がるよう指示する。彼女も今から激しい戦いが起こることを予想したようで、「わかったわ」と一言残した後ですぐに下がって行った。それを見届けた俺は、物理系に特化した魔法を使用する。上空にバスケットボール大くらいの岩が数十個出現し、それがすべて男に向かって襲い掛かる。俺の睨んだ通り、奴が使った魔法を無効化する手段は、魔力に対して有効なものではあるものの物理的な干渉に関してはその限りではないようで、小さく舌打ちをすると、男もまた魔法で対処し始めた。
「小賢しいですね。【ホーリージャベリンマルチプル】」
男が魔法を使用すると、光の槍が出現する。それは飛来する岩をいとも簡単に貫き、男に届くことなくすべて砕かれてしまう。であればと、俺は次の手段を講じることにする。
「なら、次はこいつだ。【セイレーンウェーブ】」
次に俺が使った魔法は水属性の魔法で、小規模の津波を発生させる魔法だ。小規模といってもその波の高さは三メートルほどもあり、人間一人など簡単に押し流してしまうほどに強力なものではある。そんな魔法も頭の中で想像しているため、呪文を唱えなくても魔法は発動するが、雰囲気作りのために一応魔法名は言うことにしている。
男は突然現れた津波に目を見開いて驚きながらも、すぐに対処するべく魔法を唱える。
「ち、【ホーリーウォール】」
男が唱えた魔法の効力により、男の眼前に光の壁が出現する。自身の魔法によって迫りくる津波から逃れることができた男は、得意気にこちらを馬鹿にしたような顔を浮かべる。だが、俺の狙いは男よりも別のところにあった。
男の魔法は確かに男の安全を確保することに成功していたが、暴走したモンスターやエクシードに対しては何の対策も講じられていないため、その影響をもろに受けてしまう。小規模とはいえ母なる海の力は伊達ではなく、モンスターたちが押し流されていく。エクシードもその大きさ故に押し流されることはなかったものの、水浸しになることは避けられなかった。
それを見た男は、先ほどまでの得意顔とは打って変わって苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべ、俺の狙いが自分ではなくそれ以外のその他だということに今になって気付いたのである。
「やはりあなたは小賢しい。実に実に小賢しいですね」
「それは何よりだ」
「今度はこちらの番です。大人しく死になさい。【ホーリーレーザー】」
「それは勘弁願いたい。【プラントウォール】」
光属性の極太のレーザーが木の根を利用した分厚い壁に激突する。途中まで拮抗していた二つの魔法だったが、男の放った魔法の方に軍配が上がったようで、俺の作った壁をいとも簡単に貫いた。だが、、ただ真っすぐ飛んでくるレーザーを避けることなど、今の俺にとっては造作もないことであるため、男の魔法が届く前に余裕をもって回避する。
「【ホーリーレーザー】」
「【アイスウォール】」
俺が攻撃を避けたことによって有効な攻撃方法だと思ったのか、立て続けにレーザーを放ってきた。それに対処する形で、今度は氷の壁を作り出す。先ほどと同じく、氷の壁に穴を開けることに成功したものの、氷という物質に阻まれ、俺のところにレーザーが届く前にその威力が弱まってしまい、そのまま消失する結果となる。
それでも、男の攻撃の手を休めずレーザーを連発してきたため、今度は物理的に回避することに専念する。今の俺と男の戦いを第三者が見れば、一見すると男が優勢だ。だが、実際のところ追い詰められているのは男の方であった。
「いい加減大人しく死んでくれませんかねぇ」
「それはできない相談だ」
腹立たしいという態度をぶつけるかのように、こちらに向かって悪態をつく男の言葉を俺は軽く受け流す。そして、魔法による攻撃をその身軽な体を使って回避する攻防が繰り広げられる。その攻防は終始男が優勢だった。だが、徐々にその均衡が崩れてきている。いくら魔法使いといえど男の魔力には限度があり、それは化け物となった俺ですら当て嵌る。増してや相手が使っているのは殺傷能力がある攻撃魔法であり、その消費魔力は通常の魔法よりも高いのは至極当然だ。
男の攻撃頻度が落ちていき、その顔には汗が滲んでいる。そして、とうとう男からの攻撃が来なくなった。
「はあ、はあ……。お、おのれ、ちょこまかと」
「さて、そろそろこちらから反撃といこうか。【アクアミスト】」
攻撃が止んだタイミングを見計らい、俺は攻撃に転じる。まずは、周囲に霧を発生させ周囲の湿度を上昇させる。この魔法自体に殺傷能力はないが、この後放つ魔法の効果を何倍にも引き上げてくれるため、俺は敢えてこの魔法を使った。そして、準備が整ったところで俺は一つの魔法を唱える。
「これで終わりだ。【エレクトロレイン】」
「ぎゃあああああああああああ」
空から大量に小さな雷が降り注ぐ、その威力はかなりのものでその攻撃を受けた男がこれ以上ないほどの絶叫を上げる。事前に発動していたアクアミストの魔法の効果も相まってエレクトロレインの威力は高まっており、某ゲームで言えば“こうかはばつぐんだ”状態である。そして、その影響は何も男だけが受けているわけではない。周囲にいたモンスターとエクシードにもその攻撃が命中する。
水に濡れた状態での雷攻撃は凄まじく、俺の攻撃を受けたモンスターたちは卒倒し、機械であるエクシードは黒い煙を吐き出しながら小規模の爆発を起こした。できる限り森に影響が出ないよう考慮して戦ったが、それでも男と俺の戦いの爪痕はしっかりと残ってしまっていた。
とにかく、これで決着がついたと思い倒れている男に近づくと、顔だけを起こしながらふとことから何かを取り出した。
「こ、このままではやられる。一度撤退しなければ」
「また転移で逃げるか。だが、無駄なことだ」
「ば、馬鹿な!? 転移が発動しない……だと!?」
「既にこの辺り一帯の空間は掌握している。転移系の能力はすべて無効化される」
「最初に使った魔法の狙いはこれですか」
長いようで短い男との勝負が終わり、尋問タイムがスタートした。
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