ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

339話「ピンク色なのになぜかコメディになる」



「んっ、んぅ……」

「あら、目が覚めちゃったのね」


 里のすべてのエルフが寝静まった頃合いに、不穏な気配を察知して目が覚めた。俺が目を覚ましたことに意外そうな声を出す人物がいた。言わずもがなルルミーレである。


 今俺が滞在している場所を思えば、彼女がこの場にいることに何ら不思議ではない。問題は、彼女が半裸の状態でいることだ。周囲に視線を向けつつ状況を把握すると、別段何者かの襲撃を受けたわけでもないことから、ルルミーレが半裸なのは自分の意志で服を脱いだということになる。そして、さらに不可解なのが俺を逃がすまいとしているのか、彼女が俺に馬乗りになっていることだ。


(ああ、なるほどそういうことか)


 昨日の彼女の問いを思い出し、俺はそれで何となく察した。どうやら、ルルミーレは俺に夜這いを仕掛けてきたらしい。どうやら、昨日の問いは人間である俺が特異な体型をしている自分に興味があるかどうかの確認がしたかったようで、自分の体に興味ありと考えた彼女の暴走によるものだった。


 確かに、最近になってそういったことに興味が出始めてきているのは否定しないが、どれだけ見目がよかろうと知り合って間もない女といきなりそういったことをするほど節操がない男ではない。


 だがしかし……そう、だがしかしである。艶めかしい女体を前にして何も感じていないといえば嘘になり、このまま欲望のままに彼女とそういう行為を行うというのも悪くはない。


 平均よりも高いタッパーと、女性として均整の取れた体つきに相反する二つの巨大な乳房は、下から眺めることでさらにその大きさが際立っている。前世の言葉を借りるのであれば“セ〇クスをするために生まれてきた女”である。


 男としてこれほどの女を好きにできる状況にあれば、大抵の男がその欲望のまま突っ走ってしまうだろうが、目的を忘れてはいけない。俺がエルフの里にやってきたのは愛する家族の病気を治すための薬を求めてきたのだ。決して、女に現を抜かす邪な目的でこんなジャングルの奥地まで来たわけではない。


「何の真似だ?」

「あたしのこの格好を見れば、わかるでしょ?」

「どいてくれないか。これじゃあ、眠れない」

「それよりも、あたしといいことしましょう」


 そう言うと、ルルミーレが両手を頭の後ろに組みながら上体を逸らす。それだけで、ただでさえ大きな胸がさらに強調される。その姿は、彼女がエルフであるが故なのかはたまた彼女自身の魅力なのかはわからないが、まさに妖艶なサキュバスの如くだ。


 男としてこれほどの美女に迫られることは男冥利に尽きるが、彼女は一つ大事なことを見落としている。それは、すべての男がそういった行為に積極的なのかと言われればそうではないということだ。


「今すぐ俺から降りるんだ。でないと、後悔することになるぞ」

「なら、後悔させてみれば? 他でもないあなた自身の手で」

「そうか、ならそうしよう」


 ルルミーレの了承も得たということで、俺はさっそくそれを実行する。……なに、彼女とヤるのかだって? そんなわけがない。彼女にはちょっとお灸を据えるだけである。


 まず、彼女の声が第三者に聞こえないよう、家の周囲全体に音を遮断する結界を展開する。これでルルミーレがいくら叫ぼうともその声が外に漏れることはない。続いて俺に馬乗りになって発情した雌の顔になっているお馬鹿さんを見据え、俺はある程度の力を籠めつつその手を彼女のある部分に叩きつけた。


「あいたいっ! ええ、そういうのがいいの!? あいたいっ!」

「この、この、この、この」


 何をしているのかと問われれば、彼女のぷっくらと膨らんだお腹に往復ビンタをかましているところだ。元々スレンダーな体型が標準のエルフだが、ルルミーレの場合、その体つきはお世辞にもスラっとしているとは言えない。寧ろ肉づきが良く、ぽっちゃりと表現するのが妥当であり、腹周りの肉もその体型に準ずるほど出っ張っている。しかしながら、エルフとしての種族性なのか、平均女性よりも高い身長に助けられていることもあって、辛うじてぽっちゃりしているという言い方ができる程度の肉体となっているのだ。


 それに加え、出っ張ているといっても相撲取りのようなお腹でもなければ、子供を身籠っているわけでもないため、妊婦のようなお腹でもない。叩けばちょうどいい塩梅の音が出る程度のお腹なのだ。


「おら、これ以上お腹を叩かれたくなければ、さっさと俺の上から降りろ」

「そ、そういうわけにはいかないわ。あたしのことを女として見てくれる男に出会えたんですもの。この程度の攻撃であたしの意志を刈り取れると思ったら大間違い――あいたぁーい! つ、抓るのは反則ぅー!!」


 俺の忠告を聞かず、頑なに俺から降りようとしなかったため、ルルミーレのぷにぷにの腹を抓ってやった。途端、痛みの度合いが増したことによって、俺に馬乗りになった状態で踊り狂うかのように激痛に耐えていた。それでも俺から降りようとしない根性は見上げたものだが、実際被害を受けている俺としては堪ったものではない。


 このままではらちが明かないと判断し、ルルミーレの胸を揉み潰してやろうかとも考えたが、それはさすがにセクハラとなってしまうだろうし、何より俺が欲望に負けてしまう可能性が否めなかったため、寸でのところで押し留まった。


 最終的に彼女のわき腹から側腹部にかけての部分を擽ることによって、ようやく耐え切れなくなり、俺から崩れ落ちるかのようにルルミーレを突き放すことに成功したのであった。


「はあ、はあ、はあ、はあ」


 まるで事後のような荒い息遣いをするルルミーレだが、その実はお腹に激痛とくすぐったさを与えたことによるダメージによるものであるため、事情を知っている俺からすれば呆れた視線を向けるだけだ。


 床に四つん這いになりながら片手で腹をさすり赤くなった腹部を労わっている。だが、元を正せばルルミーレが俺に夜這いを掛けようとしたことがそもそもの原因であり、馬乗りになった状態の時も、俺の「降りろ」という要求を無視した結果によるところが大きい。とどのつまり、今回の事態を招いたのは彼女の自業自得であり、俺に何の落ち度もないということだ。


 今回の一連の状況を第三者が見たら、「女の子にそんなことをするなんて」などと言われてしまうかもしれないが、逆にこういった目に遭わないと自分の仕出かしたことの愚かさを理解しないとすれば、今回の一件については彼女にとってもいい薬となったのではないだろうか。“人の嫌がることをすると、とんでもないしっぺ返しを食らう”まさに因果応報である。


 ちなみに言っておくが、俺にそういった嗜虐的な嗜好は一切ない。……大事なことなのでもう一度言うが、俺にそういった趣味はない。至ってノーマルな人間である。


 しばらく、ルルミーレが痛みとくすぐったさにのたうち回った後、痛みが引いたところで涙目になりながら俺に抗議の声を上げた。


「ローランド君も容赦ないわね」

「人が寝ているところを襲い掛かろうとしてきたんだ。本来なら殺されても文句は言えんぞ。まあ、なかなかいいものを見せてもらったから、今日のところはそれで手打ちにするとしてだ。何故夜這いなどという馬鹿な真似をしようと思ったのか、その理由を聞かせてもらうぞ」

「……じゃない」

「は?」

「しょうがないじゃない!! もう我慢の限界だったんだもの!!」


 俺が夜這いの理由を尋ねると、堰を切ったように叫び声にも似た悲痛な返答が返ってくる。そして、詳しい話を聞けばルルミーレは憤慨しつつも話してくれた。


「エルフっていうのはね、二十歳を過ぎると体の成長が止まって、そこから大体数百年も同じ姿で居続けるの。それでエルフは二十年に一度子供を作る機会が巡ってくるんだけど、それ以外の期間に子作りをしても子供はできない。それとは別に、体の成長が止まってから十年に一度の周期でエルフは発情期に似た状態になってしまうから、その時はその周期に合わせて気に入った相手と結婚することが多いんだけど、あたしの場合見た目がこんなだから誰も相手にしてくれなくて。そんな状態がもう五十年以上も続いてるのよ……」

「なるほど」

「五十年よ、五十年!! いくらエルフが長命種族といっても、五十年もなにもないと我慢できなくなるのよ。その弊害であたしはいつでも発情期ってわけ。ということで、説明はこれくらいにしてそろそろあたしの相手をお願いできるかしら?」

「なんでそうなる。そして、また迫ってこようとするな。また抓られたいか?」


 説明を終えたルルミーレが、「事情はわかったでしょ? だから、お願い」だと言わんばかりに鼻息荒く迫ってきていたため、また腹を抓ることを宣言することで彼女を牽制する。


 それから、何度かヤるヤらないという押問答が続いたが、途中俺が面倒臭くなり睡眠魔法を使って彼女を眠らせることで決着がついた。といっても、彼女の欲求を解消できたわけではなく一時的に先延ばししたに過ぎないため、これはおいおいどうにかしていかなければならないと頭を悩ませる羽目になるのであった。

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