ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
336話「いざ行かんエルフの里へ」
マルベルト領で酒造りを開始してから数日が経過する。当面としては原材料となる葡萄の生産量を増やすべく、新しく引き入れた奴隷たちに作業を行ってもらっており、成果としては申し分ない収穫量が見込めそうだ。
あれから、さらに葡萄栽培場の規模を拡大し、奴隷たちもこの数日で作業にも慣れ始めてきており、あとは収穫が可能になるまで待てばいいというだけになっている。
さて、マルベルトの新事業は順調ではあるものの、一つ忘れてはならないことがある。それは、我が妹ローラについてだ。
本を正せば、俺がなぜ追放されたマルベルト領に戻ってくることになってしまったのかといえば、ローラが急病で倒れてしまったからである。弟マークからの救難信号を受け取り、急ぎマルベルトへ戻って来たことで一命を取り留めたローラだが、その容体といえば現状何も変化がない。
俺が直接光属性の魔力を送り込むことで、彼女の体内に潜む病魔を抑え込んではいるが、このままでは俺がいないと生きていけない体となってしまう。
「わたくしはそれでもいいです。というよりも、元々わたくしのすべてはロランお兄さまのもの――ふぐっ」
「うん、ローラ。少し黙ろうか」
などと寝言をほざく元気はあるものの、毎日俺が魔力を送らなければ途端に具合が悪くなってしまうらしく、そうなるとずっと俺がマルベルトに入りびたりになってしまう。この地から追放されるためにいろいろと画策をしてきたにもかかわらず、こんな結果になるのは俺としても不本意であり、実際に追放処分を言い渡したマルベルト家の現当主であり我が父でもあるランドールとしても複雑な心境であることは想像に難くない。
どうしたものかといろいろと悩んでいたところ、かつてマルベルト家の書庫で情報を集めていた時に見た書物の内容を思い出す。それは、シェルズ王国の隣国セコンド王国に隣接する国ブロコリー共和国のどこかの国にはエルフの集落が存在するというものだ。
そもそもエルフというのは“森の民”や“森精霊”という別称で呼ばれることもあり、まさに森と共に生きている種族といっても過言ではない。尤も、リリエールやララミールのように中には都会に興味を持つ者たちもいるため、一概にはそうとは言い切れない。
そんなエルフだが、古の時代から森と共に生きているだけあってその知識の量はかなりのものがあり、特に薬学においてはこの世界随一との呼び声が高い。“エルフでもバカを治す薬は作れない”などというこちらの世界のことわざがあることを考えれば、エルフがどれだけ薬学に精通しているのかがわかるだろう。
「というわけで、ちょっとエルフの里に行ってくる」
「どういうわけですか? 今に始まったことではないですが、ロラン兄さまは言動が突拍子過ぎます」
そんなこんなで事情をマークに言うと、呆れたような表情が返ってくる。だが、それもいつものこととばかりに受け流し、俺は手短にマークに説明をする。
「実は“かくしか”でな」
「なるほど、ローラの病気の治療薬を探すためにエルフの里に赴いて調査をするのですね。確かに、薬学に通じているエルフであれば、ローラの病気を治す薬を知っているかもしれません」
「……」
伝わらないと知りつつ例の省略言葉を使ったのだが、なぜかすべてを理解したマーク。俺としても面倒な説明をする手間が省けるので有難いといえば有難いが、お前の頭の中はどうなっているんだ? なぜたった四文字の言葉がその意味を持っていると理解できた?
マークの言動に小一時間ほど問い詰めたい衝動に駆られながらも、今は優先すべきことがあるということで、俺はマークに見送られながらさっそくエルフの里へと向かうのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ここがエルフの里がある森か。なんというか、ジャングルだな」
シェルズ王国からセコンド王国を越えブロコリー共和国の南西部の奥地にある【シャンガルディア大森林】と呼ばれる大規模な森が存在する。俺が明言した通り見た目は鬱蒼と木々が覆い茂るジャングルにしか見えないのだが、その実情は見た目とは裏腹にこの世界でも有数の危険地帯である。
何が危険なのかといえば、一度は入ると二度と出てこれないという噂が飛び交うほどに森のみが広がっており、ただそれだけではなく、この森は異常な成長を続けていた。
先ほどは剥き出しの地面だった場所にまるで早送りのように何かの植物が発芽し、瞬く間に成長し周囲一帯を緑に染め上げた。その時間は数十秒も掛っておらず、まさに異常なまでの成長速度である。
調べてみると、その原因となっているのが空気中と地面に含まれている異常なまでの魔力が原因だった。シャンガルディア大森林に漂う魔力が植物の成長を促しているようで、何ということはないただの植物が瞬く間に根を生やしてしまうほどの異常性を秘めていたのだ。
さらに当然のことだが、このシャンガルディア大森林にも独自の生態系を持ったモンスターが跋扈しており、その危険度は最低でもBランクのモンスターという魔界ほどではないにしろ人間が住まう土地から見て魔の巣窟であるということは間違いなかった。
しかしながら、その分得られる森の恩恵は計り知れず、毎年命知らずな冒険者たちがギルドの忠告を無視して森に押し入り、二度と姿を見せることなく行方不明になる出来事が頻繁に起こっている場所でもある。
「グ、グルルルル……」
「ん? 犬……いや狼か」
そんな森の様子を入り口付近から観察していると、森の奥からモンスターが這い出して来るのが見える。何者かによって致命傷を負わされている様子で、その動きは鈍い。モンスターの正体を調べるべく超解析で鑑定してみた。それは【シャンガルディアウルフ】という名の狼型モンスターで、通常種のウルフがシャンガルディア大森林の生態系に合わせるように独自の進化を遂げた姿のモンスターだ。
群れで行動し、その統率力は並の冒険者では歯が立たず、その危険度もAランクと侮れない。だが、個々の能力はBランクということもあってこのシャンガルディア大森林においてはBランクでありながらも最弱と位置付けられているモンスターだ。
それでも、Bランクのモンスターがこうも簡単に瀕死に追いやられるという点から見ても、この森が魔の巣窟と呼ばれているのが良く理解できるだろう。ちなみに、何故俺がここまでこの森に詳しいのかというと、この森にやってくる前にある街に寄ったのだが、そこの冒険者ギルドでこの森のことを聞いたからである。いつも通りアレの確認を兼ねての行動だったことは言うまでもない。……ん? アレはどうだったかって? おっぱい眼鏡も後輩女の子もハゲ親父もいなかったよ。てやんでぃ!!
などと考え事をしていると、いつの間にかシャンガルディアウルフが力尽きており、動かなくなっていた。南無である。
「傷口から見て鋭利な刃物か何かでやられている。カマキリでもいるのか?」
息絶えたウルフを調べてみると、胴体側面部分に鎌か何かで切られたような跡があり、それが致命傷となる直接の原因となっているようだった。それ以外には目立った外傷などはないため、その傷が原因で間違いないだろう。
一応、Bランクのモンスターであるため、ウルフの死骸をストレージに回収し、分離解体のスキルを使って素材に変えておく。
「さて、探索開始を行きますか」
ぽつりと呟いた俺は、そのままシャンガルディア大森林の攻略へと移行することにした。
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