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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

335話「村に指示をする」



「これはこれはロラン様。本日は一体どのようなご用件ですかな?」


 葡萄栽培場に必要な諸々の施設を整えた俺は、一度ローグ村へと足を運んだ。ワイン製造の生産工程の一部を村の女衆に一任するべく、村長に話を持ち掛けるためだ。


 ワインを作るための工程の一つに原材料である葡萄を潰す工程がある。昔ながらのやり方として足で踏みつぶす方法があるのだが、今回はその作業を女衆にやってもらうことにしたのだ。


「実は新しい事業を始めようと思ってな。そのためにこの村の女に協力を仰ぎたい」

「はて、一体どのようなことをなさるのですか?」

「酒造りだ。とにかく、若い女衆を集めてくれ」

「……かしこまりました」


 半信半疑の村長だったが、とりあえず俺の言った通りすぐに若い女衆を集めてくれた。集まった女たちの年代は、最も若い女で十代前半、最年長で三十代といったところだ。その女たちも、一体自分たちが何の目的で集められたかわからず、頭に?マークを浮かべていた。そんな雰囲気の中、俺が困惑している女たちに向かって具体的な内容を説明する。


「お前たちが、なぜ集められたのか疑問に思っているだろう。何のことはない。お前たちにある仕事をやってもらいたい。もちろん強制ではないし、それに見合った給金を支払うと約束しよう。どうだろうか?」


 俺の説明を聞いても要領を得ないという顔をしており、どうしたものかと考えていると、女たちの中でも比較的年を取った二十代後半から三十代の女性たちから質問が飛んでくる。やはり、ある程度人生経験がある分しっかりとしているようだ。


「ロラン様、それはどういった仕事でしょうか?」

「マルベルト家は新しく酒造りに着手することになった。お前たちには、その酒造りの工程の一つをやってもらいたい」

「どうして、集められたのが女なのでしょうか?」

「では聞こう。男前が作った料理と不細工な男が作った料理。お前たちならどっちの料理が食べたい? 仮に料理自体の美味さがどちらも同じ場合、当然見目の良い男の料理を選ぶだろう。では今回の場合で言うなら、むさ苦しい男が作った酒と、華やかな女が作った酒ならばどちらの酒を飲みたいと考える? そういうことだ」


 俺の説明を聞いて女衆たちがまんざらでもない顔を浮かべる。どうやら、俺の説明を聞いて納得してくれたようだ。彼女たちが納得したところで、具体的な酒造りの工程を教えることにする。


 特に難しい工程はなく、大きな桶が一杯になるくらいに葡萄を入れ、それをただ足を使って踏みつぶすだけというものだ。ただし、清潔さを重視するためしっかりと水で足の汚れを落とし、衛生面にも気を付けた状態を保つ必要がある。


 ある程度踏みつぶしたところで、それを透過性の高い布などで濾し取り、それを壺に一時的に保存する。十日程度ほどそれを放置したのち、それらを樽に移し替えさらに熟成させると完成だ。難しい工程などはないが、ある程度の時間が掛かるというのがネックだが、すぐに生産できてしまうというのも需要と供給の兼ね合いが難しいため、最初の内は一定数の生産量に留めておくことにする。


 百聞は一見に如かずという言葉の通り、桶に葡萄を入れ実際女たちにそれを踏みつぶしてもらった。最初は半信半疑だった彼女たちも段々と作業に慣れ、最終的に雑談を交えながらでも作業ができるくらいにはなっていた。


 彼女たちに潰してもらった葡萄の果汁を、あらかじめ用意しておいた壺の口に清潔な薄めの布を当てつつ入れていく。こうすることで葡萄の皮や種などの不純物や潰しきれなかった果肉も取り除くことができる。


 そして、濾し取った葡萄の果汁をすべて壺に入れ蓋をする。この状態で十日程度発酵させるのだが、待っている時間が面倒だったため、時間短縮のため時空属性の魔法を使って壺の中身を十日分進めた。これで発酵が進みある程度ワインとして完成しているはずだが、これをさらに樽に移し、そのまま放置して熟成させるのだが、問題は熟成のための期間だ。


 ワイン製造における熟成の期間は短いものでも二、三年、場合によっては二十年や三十年という長期間熟成させる品種もあり、それだけ手間が掛かる。俺が現当主ランドールが亡くなる前に酒造りに着手しようと考えたのはこの熟成期間の長さがあるからだ。


 以前気になったのでこの世界のワインについて調べてみると、葡萄の果汁から発酵するという手順までは行っているものの、肝心の熟成についてはあまり年数を掛けていないようで、精々が一月から二月程度といったところらしい。しかもその期間というのも、酒造りを行っている土地から王都などの主要都市に届けられるまでの期間であり、実際は発酵が完了するとすぐに出荷してしまうとのことだ。


 葡萄の品種や状態によって熟成の期間が異なり、中には月単位の短い期間での熟成も可能なのかもしれないだろうが、それでも年単位での熟成が望ましい。


「まあ、とりあえず三年分やってみるか。……時よ進め。【タイムアクセラレーター】」


 とりあえずスタンダードな熟成期間として三年を選択し、時空属性の魔法を使って三年分の時を進める。ちなみに、詠唱や呪文を言わなくても発動できるが、こういうのは雰囲気が大事なのである。


 壺の中身が変化していき、三年分の時が経過する。さっそく試飲と行きたいところだが、当方未だ成人という身であるため、酒は飲めない。十三歳でも各領地や国によって飲んでもいい国とダメな国と様々だが、未成年の飲酒が禁止されているのは体の成長を阻害してしまうというちゃんとした理由がある。そのため、俺が酒を飲むつもりはなく、代わりに誰かに飲んでもらうことになるのだが……。


「村長、酒は飲めるか?」

「そりゃあもう大好物ですじゃ」

「そうか、なら一つ試してみてくれ」


 そう言いながら、俺はストレージから木製のカップにワインを注ぎそれを村長に差し出す。ちなみに、村長は俺が魔法を使えるということを知っているため、さっきまで葡萄の果汁だったものがどうして酒に変化しているのかという疑問を投げ掛けてはこない。マークも同様に俺がやることに間違いはないという盲目的な信頼と、俺に不可能なことはないという理由から、村長と同じく疑問を浮かぶことすらしなかった。すべては俺のやることだからということらしい。


「では遠慮なく。んぐんぐんぐ……ぷはぁー、こりゃあ最高じゃ! こんな酒今まで飲んだことがないぞい!!」


 試飲のためさっそく村長に酒の入ったカップを手渡すと、ぐびぐびと一気に煽るように飲み始める。時刻は夕方に差し掛かってはいるものの、まだまだ日が落ちないうちから飲んでもいいのかとも思ったが、試飲してもらっている以上そんなことは言えない。


 そんな村長はといえば、丁寧口調も忘れ試飲した酒を絶賛した。村長の様子から出来た酒が問題ないことを確認すると、具体的な作業内容についての打ち合わせを行うこととした。


 まず、葡萄の収穫時期に合わせて女衆に手伝ってもらい、熟成までの一連の作業を行ってもらう。熟成期間に応じて値段を決定するパターンを考えつつ、ひとまずは試験的に酒造りを継続して行っていくこととする。


 葡萄のみならずほとんどの作物は一年に一回しか収穫できない。だが、それだと収穫できる量にも限りが出てしまうため、俺は反則技を使い葡萄畑周辺の土の質を向上させる魔法を使って、三か月に一度のペースで葡萄が収穫できるようにした。


 熟成期間についても、熟成させる樽を加工して短期間で十分な熟成が可能となる特殊な設備を駆使して行ってもらうことで、短い期間での酒造りができるようにしていくことを目標とすることを目論んでいる。


「とりあえず、時期が来たら知らせるようにするからそのつもりで」

「かしこまりました」


 こうして、マルベルト領で新たな事業が開始するのであった。

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