ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
333話「経過報告と人員の確保」
「うーん、確かにこれは美味いな」
葡萄栽培の成功を確認した俺とマークは、再び屋敷へと舞い戻った。すぐさまランドールにその成果を報告しつつ、出来上がった葡萄を試食してもらった。あとは葡萄を栽培と酒造りをするための人手を確保することができれば、すぐにでもマルベルトの特産のラインナップを増やすことが可能となる。そこで俺はランドールにある提案をする。
「何? 村の女を貸してほしいと?」
「ああ」
「ふむ。お前もそういうことに興味が出てきたのは喜ぶべきことだが、中には所帯を持っている者もいる。そういった者を相手にさせるのはやめておけ」
「……何を言っているんだ?」
いくら元領主の息子とはいえ、そんな無体なことをするはずがない。確かに、そういったことについては体の成長もあってようやく体が反応するようにはなってきてはいる。だが、そういったことに興味があるのかというと話は別だ。
それに、マルベルト領はいずれマークのものとなる予定だ。次期当主であるマークを差し置いて俺が領民をどうこうすることなどありはしない。尤も、清廉潔白を求められる領主になるからにはそんなことを弟にさせるつもりはない。もし、そうなったら……わかるな弟よ?
「ブルブルブルブル」
「どうしたマーク?」
「い、いえ。何でもありません」
俺の雰囲気を敏感に察知したマークが、体を震わせながらランドールに返答する。俺と目が合うと、首を横にブルブルと振る仕草をする。
とにかく、葡萄栽培は成功したので、次のステップとしては葡萄を管理することとそれと並行して酒造りをするための人手を確保することだ。俺の計画としては、葡萄栽培は奴隷などの外的人員に任せることにして、酒造りはマルベルト領の人間……特に女衆にやってもらいたいと考えている。酒造りといっても、細かい作業や専門的な知識を求めているわけではなく、ワインを作る過程の葡萄を足で潰す行為を行ってもらいたいということだ。
地球でもヨーロッパなどで盛んに行われているワイン造りだが、そのほとんどが機械を用いたワイン造りが主流となっている。しかしながら、昔ながらの作り方で作っている伝統的なワインもあり、その製造過程でワインを原料となる葡萄を足で潰す作業が存在し、その作業はほとんど女性によって行われている。理由としては、男性よりも女性の足で作った方が味の深いワインが出来上がるというような科学的なものもあるようだが、むさい男よりも華のある女性が作ったワインの方がいいというのが本音なのだろう。
そういった理由から、葡萄を潰す作業については村の女衆の手を借りられないだろうかと現当主であるランドールに持ち掛けたのだ。最初は妙な勘違いをしていた彼も、俺からの説明を受けて納得したようで、本人たちの了承を得られるのであれば問題ないということであっさりと許可が下りた。俺的には面倒な説得がないから有難いのだが、いくら息子とてそこまで俺を信用してもいいのだろうか? などという疑問が浮かんだが、本人に聞いてみたところ、大きな笑い声と共にこんな返事をいただいた。
「もしお前が我が領地に危害を及ぼすのなら、こんな回りくどいやり方ではなく自分の手でやった方が早いだろう。それに、わざわざ何年もかけて俺に追い出される工作をやっていたお前が、今更この領地に何か良からぬことをする意味がない。あるとすれば、我々にとって利益となることをやるくらいだ。お前としても、マークに当主の座を肩代わりしてもらった負い目もあるだろうし、此度のことはその罪滅ぼしといったところなのだろう」
「……」
さすがは父親というべきか、俺の思惑を見事に見抜いた。まあ、そこまで理解してくれているのであれば、ある程度の無茶な要求をしたところで許容してくれるだろう。それがわかっただけでも良しとしよう。
ランドールに一通りの途中経過を報告し、俺は再びマークを伴って瞬間移動である場所へと転移した。
マークと共にやって来たのは、シェルズ王国の王都ティタンザニアであり、かつてコンメル商会で人員を確保すべく何度か訪れた奴隷商会だった。中に入ると、相変わらずいかにも胡散臭そうな男がこちらに気付き、明らかにゴマすり目的で揉み手をしながらこちらに近づいてきた。
「これはこれはローランド様、よくぞおいでくださいやした。このドンドレ再びあなた様にお会いできたこと、光栄に思いやす」
「世辞はいい。さっさと交渉に移ろう」
「世辞などではございやせんが、かしこまりやした。それで、本日はどういった商品をお求めで?」
俺がすぐに取引をしたいことを悟ったドンドレが、すぐに商談へと入ってくれる。そこで、俺は手短にこちらの要求を伝えた。
「かく」
「……なるほど、畑仕事を任せたい人員を探しておられると。男の奴隷を三、女の奴隷を七程度の割合で見繕ってほしいということですな。かしこまりやした。すぐに条件に合う奴隷を連れてまいりやす」
「な、なんでそれで理解できるんですか……」
「プロ……でございやすから」
マークの呆れとも驚愕とも取れる呟きに自信満々なしたり顔で答えたドンドレは、すぐに俺の言った条件に見合う奴隷を用意するべく、バックヤードへと向かって行った。今回は畑仕事とという割かし重労働な内容の仕事を頼むため、体力のある男の奴隷の契約をすることにした。今まで女奴隷ばかりだったのは、反抗的な態度を取られることが少なく、こちらの指示したことを素直に聞いてくれる従順さがあったという理由からだ。
もちろん、俺が男であり見目の良い女を求めてという理由もある程度はあったのだろうが、一番の理由としてはこちらの指示通りに動いてくれる人員を求めていたというのが本当のところである。
そんなことを考えていると、ドンドレが数十人の奴隷を引き連れて戻ってきた。奴隷の比率も懲りたの指示した通り、女性奴隷十一人に対し、男性奴隷が三人という絶妙な人数だ。その男性も素行が悪そうなタイプではなく、落ち着いた雰囲気を持った大人な感じの男性だが、体つきはある程度しっかりしており、これならば畑仕事を任せても大丈夫だということがよくわかった。
念のため、奴隷たちの能力を調べたが、特に怪しい情報はなく極々一般的な人物ばかりで、問題はなかった。
「いかがでございやしょう? 男の方は肉体労働ということで十代後半から二十代前半、女の方も下は十代前半から上は三十代と開きはありやすが、全員が村落出身で畑仕事に従事していた者ばかりでございやす。今回のローランド様の目的に即した者ばかりを集めておりますれば――」
「問題ない。全員貰おう」
「ありがとうごぜぇやす。さすがはローランド様」
「世辞はいい。契約者はこいつ、マークにしてくれ。俺の弟だ」
「に、兄さま!?」
ドンドレのおべっかをいなしつつ、契約の手続きを進める。当然だが、契約者は俺ではなくマークにするつもりだ。今回についてはマルベルト領に関する契約であるため、常にマルベルト領にいるであろうマークの方が適任だ。
いつものようにつつがなく契約を終わらせ、ドンドレに見送られながら奴隷商会を後にする。そのまま十数人の奴隷を引き連れ、まずはコンメル商会へと向かいマチャドに事情を説明する。そして、契約した奴隷たちの身なりを整えたのち、そのまま瞬間移動でマルベルト領へと舞い戻った。
ちなみに、俺が瞬間移動を使うことを知られたくなかったので、奴隷たちには眠りの魔法で眠ってもらったことを付け加えておく。
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