ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

330話「ローラの治療とマークの教育」



「ローラ、入るぞ。……何をやってるんだお前は?」


 マークに指導をした後、俺はその足で妹ローラのいる部屋へと向かった。ノックをして部屋に入ると、そこにいたのは仰向けになってベッドに身を預けているローラの姿だ。


 それだけならば、俺も何も変に感じることはなかっただろうが、問題は彼女のその姿が一糸纏わぬ生まれたての赤子のように何一つ服を着ていなかったことにある。


 同じ部屋にいたローラの世話役の女性が申し訳なさそうな顔をする。おそらくはローラの奇行を止められなかったことに対する不甲斐なさを感じているのだろう。


 改めて、俺はローラの姿を見る。血の繋がった実の妹であるため彼女の肌を見たところで何とも思わないが、くすみのない透き通るような白い肌はまさに白き雪のようで、まるで一つの芸術作品を体現しているかのような雰囲気だ。胸は少々小ぶりだが形が良く、まだ成長期であるためこれから大きくなることだろう。


 年を重ねることで段々と女性特有の丸みを帯びた体つきに変貌していく様は、家族として成長著しく喜ばしいことではあるのだが、その歪んだ感情は相変わらずで彼女の将来に一抹の不安を覚える。


「お兄さまにすべてを捧げ――あいたっ」

「アホなことをやってないで、さっさと今日の治療を終わらせるぞ」

「うぅ~、お兄さま無体が過ぎます」


 そんな妹の奇行を諫めるべく、俺はローラの額を小突く。それが痛かったらしく、涙を浮かべながら抗議の声を上げているが、そんなことは俺の知ったことではない。


 さっさと今日の治療を終わらせたかった俺は、昨日と同じくローラの胸に手を当て魔力を送り込む。現状この方法による治療しか思いつかないが、これをやらねば妹の病状が悪化することは想像に難くないため、仕方なくやる。治療中ローラが妙に艶のある声を出そうともだ。


「じゃあ、今日はここまでだ。それと、これを身に着けておけ」

「これは」


 俺はストレージからある首飾りを取り出す。それは以前俺が作った【浄化のアミュレット】という腕輪を首飾り型の装身具として改良したものであり、体内に悪いものがあれば浄化してくれるという優れものである。効果自体は大したことはないものの、ないよりはあった方がいいということで、彼女に渡しておく。


 それを見た瞬間、ローラは何を勘違いしたのか、頬を染め首飾りを胸に抱きながら俺に礼を言った。


「ありがとうございます。一生の宝物にします!!」

「ただの治療器具だ。そんなものを宝にする必要はない」

「いいえ、わたくしにとって初めてロランお兄さまから頂いたプレゼントです。終生の宝とするのは当然のことです!!」


 そういえば、物としてローラに何かを贈るのは初めてだったな。これは、何か送るべきなのだろうか? ……いいや、やめておこう。それがきっかけでさらに兄離れが遅れてしまっては婚期が遠のくどころか存在そのもの自体が危ぶまれることになるからな。


 いつまでもすっぽんぽんでいるローラにいい加減服を着ろと注意をし、俺はローラの部屋を後にする。俺の見立てでは、このまま毎日俺が治療を続けれていれば数か月で確実に完治にまで持っていけそうな気がしている。それまでの我慢だと自分に言い聞かせつつ、俺は出掛けることにする。


「兄さま、どちらへいかれるのですか?」


 そこへちょうど執務を終えたマークがやってきたため、このあとの予定を確認したところ。特に予定はないということだったので、弟を連れ立ってマルベルト領の視察へと出掛けた。


 まずは、屋敷から最も近いローグ村を訪れた。以前訪れた時よりも活気に満ちており、特に顕著なのが宿の数が増えたことだ。


 その理由というのも、クッキーが影響している。シェルズ王国王都ティタンザニアと迷宮都市オラルガンドに次いで俺が三番目に広めた土地であり、周辺の領地からわざわざクッキーを求める来訪客が増えていた。


 それを受けてランドールはローグ村の大幅な開発を進め、他領からやって来た者が泊まるための施設の増設や、周辺の街道整備など内政に大きく力を入れたようで、今ではちょっとした観光スポットに変貌している。


 だが、これが継続的に続くわけではなく、一年以内には落ち着くと俺は睨んでいるため、収益を落とさないようにするためにはもう一手何かが必要だと考えている。


「マーク。さっき俺が言ったことを覚えているな」

「はい。このままでは安定した領地の収益は見込めないと」

「では、次期当主としてどうすべきだと考える」


 すれ違う村人たちから頭を下げられつつ、俺は弟に問い掛ける。流行り病から村人たちを救ったことで、俺に対する信頼が回復してしまったことは誤算だったが、すでに当主自らの手によって追放されているため、村人たちがどれだけ俺の帰還を望んだところで、父ランドールがその意図を汲むことはない。汲んだら死んじゃうしね。


 そんなことを考えていると、俺の質問の答えを出すことができず唸っているマークの姿があった。俺と二つしか違わないまだ子供といってもいいマークにわからないのも無理はなく、ちょっと無茶振りが過ぎたことを内心思っていると、はっとした表情を浮かべたかと思ったら一言ぽつりと呟いた。


「そうか、新しい目玉となる何かを売り出せばいいのですね」

「まあ、そうだな。で、何を売り出す?」

「うーん、うーん。お、お酒とかですか?」


 子供ながらの頭で考えた結果、マークは一つの答えを捻り出した。結果的には俺とは違う考え方だったが、マークの出した答えも一つの正解だ。中世ヨーロッパ程度の文明力しかないこの世界で、各領地で特産品を売り出すとなればどういったものを扱うかは限られてくる。その中でも比較的難易度の高い部類に入るが成功すれば安定した収益を見込める酒にマークは着目したらしい。


「うん。まあ、それもありといえばありだが、酒を造るノウハウはあるのか? 麦で作るとなればクッキーとの兼ね合いもあるし、それに加えて労働力が圧倒的に足りない。はっきり言って現状では実現は困難だな」

「うぅ……」


 俺が問題点を指摘してやると、俯きながら小さくなっている。だが、マークは一つだけ重要な点を見落としている。それは、あくまでも俺抜きならという注釈が付くということだ。


 俺という反則級の人間が参加すれば話は変わってくる。それに、マークにはこの領地を継いでもらうという面倒事を押し付けてしまった。であるならば、マークがランドールから当主の座を受け継いだ時少しでも運用しやすいように整えてやることが、弟に対してできる俺の返礼ではないだろうか。


 だが、実際酒を量産するとなれば、それこそ俺が指摘した通り人手が足りない。このマルベルト領は国境に近いだけあって領地は広大だが、領民の数はそれほど多くはない。多く見積もっても精々が五百人ほどで村自体も四つほどしかない。


「そうか。村が無ければ作ればいいじゃないか」

「兄さま?」

「よし、マーク。一度屋敷に戻るぞ」

「え? あ、はい」


 あることを思いついた俺は、さっそくそれを実行するため、ランドールの許可を得に屋敷へと戻ることにした。

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