ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
326話「結局のところこうなってしまうのか」
「俺は信じないぞ。お前みたいなガキが世界に四人しかいないSSランクの冒険者だなんて!」
堰を切ったように俺に食って掛かって来たのは、ヘザーの仲間であるシルヴァスだった。別に信じてもらう必要もないし、何を信じて何を信じないかは人それぞれだから問題はない。だが、元々冒険者は血の気が多い生き物であるということを失念してしまっていることをこの時の俺は忘れていた。
「別に信じたくないならそれでも構わない。例えば、お前が仮に神の化身だと言い張ってもそれを信じるかは人それぞれだ。ちなみに、俺は神という存在がいることは信じているが、崇めたりもしないし、会いたくもないがな」
神を例え話としてシルヴァスに説明するも、この手のタイプは人の話を聞かないという性質があるようで、とんでもないことを言い出し始める。
「そんなことはどうでもいい! 俺と勝負しろ!!」
「はあ、なんでそうなる?」
意味がわからない。なぜそんなことをする必要があるというのだろうか? だが、周囲はそんなことを思っていなかったようで、突然の喧嘩にざわめき立っている。
「おお、DランクのシルヴァスとSSランクの冒険者様が戦うってよ!」
「どっちが勝つんだ?」
「んなもん聞くまでもないだろう」
「今回は賭けにならんな」
こういった勝負事は日常茶飯事なのか、すぐさま賭けの話になっていたが、今回は実力差がありすぎるということで賭け自体は行われなかったようだ。
「騒々しい、何事じゃ?」
先ほどまでの静寂が嘘のように騒いでいる冒険者たちの声を聞きつけ、ギルドマスターのイグールが現れる。そこにいる俺を見つけた瞬間、大体の事情を把握したようでイグールが一瞬申し訳なさそうな顔をする。そこに、事情説明のために彼に近寄った男性のギルド職員が耳打ちで説明すると、あからさまな溜息を吐きつつ、俺に話し掛けてくる。
「ローランド殿、事情は職員から聞いた。心苦しいのじゃが、彼奴との勝負を受けてやってはくれないかのう?」
「俺にまったくメリットのない話だな。そんなことをして俺に何の得がある?」
「少なくとも、今後軽はずみな行動でお前さんにちょっかいを出そうとする人間はいなくなるじゃろ? それだけでも今回の勝負を受ける利点はあると思うのじゃが」
「……」
よく考えてみると、確かにイグールの言葉にも一理ある。このまま俺の実力が伝わらずに他の冒険者が絡んできた場合、返り討ちにした冒険者たちが他の冒険者に自分の失態を吹聴することはしないはずだろうから、俺を侮って襲ってくる冒険者を何度か相手にすることになるだろう。それは、俺としても望んではいない。
だが、大多数の冒険者がいる今の状況でシルヴァスとの勝負をすれば、少なくともこの場にいる冒険者の口からこの場にいない他の冒険者へと情報が伝わり、余計なことをしてきそうな冒険者に釘を刺すことができるのではという結論に至った。
しかしながら、それはそれとしてまた別の厄介事も増えそうな予感がしてならないのだが、どのみち面倒事がやってくるのであれば、あらかじめその状況に陥るのを潰せる選択肢を取るべきではないだろうか。
「いいだろう。この勝負受けてやる」
「では、立ち合いはわし自らが執り行うことにしよう。こちらから提案しておいて知らぬ存ぜぬでは礼を失するからのう」
「律儀なことで」
おそらくは、面倒なことをさせてしまうせめてもの罪滅ぼしとしてギルドマスターである自分が立会人を買って出てくれたのだろうが、できることならばこうなる前に冒険者たちに説明できなかったのだろうかと考えてしまうのは俺の身勝手な我が儘なのだろうか?
とにかく、シルヴァスとの勝負のため、俺はギルドの裏手にある修練場へと移動する。当然ながら、滅多にないイベントということで他の冒険者も続々と修練場へ移動をする。
「で、勝負の方法は?」
「当然これだ」
俺の問いにシルヴァスは腰に下げていた剣を抜き、剣先をこちらに向けてきた。ということは、実戦形式の模擬戦をご所望のようだ。
まあ、冒険者の勝負といえば模擬戦か力比べくらいなものなので、特に驚きはしない。ここで料理対決とか言われたら、それはそれで面白いがな。
「では、勝負の内容はお互いの持ち武器による模擬戦とする。両者準備はよいか?」
「俺は問題ない」
「俺もだ」
勝負の内容が決まると、すぐにイグールが確認を取ってくる。問題ないため、これに頷きシルヴァスもまた同じように首肯する。
お互いに一定の距離を取り、シルヴァスが剣を構える。一方の俺はといえば、特に何も持たずに手ぶらで突っ立っているだけだ。それを不審に思ったシルヴァスが、訝し気に聞いてきた。
「どうした? なぜ、武器を構えない」
「お前程度の力で俺に武器を持たせようとは自信過剰も甚だしい。お前の目の前にいるのは、最強の冒険者だということを理解すべきだ」
「なら、そのまま俺に切り殺されるといい」
「それでは、試合……開始!!」
俺の言葉を聞いて両者とも準備が整ったと判断したイグールが、試合開始の合図を出す。それと同時にシルヴァスが一気に距離を詰めると、剣を振り上げ襲い掛かってきた。
「これで終わりだぁー!」
「よっと」
「な、なんだと?」
「やれやれ、そんな大振りな攻撃が当たるとでも思っているのか? そんな攻撃駆け出し冒険者ですら当たりはしない」
「ならこれならばどうだ!!」
そのまま、一気に攻勢へと転じたシルヴァスは横薙ぎ払い、突き、逆袈裟斬りといった基本的な剣術の型で攻め立ててくる。構え自体はスタンダードなものだが、いかんせん動きが遅すぎるため、俺ならば相手の繰り出す攻撃を目で見てから避けることができてしまう。実際、試合が始まってまだ数十秒だが、シルヴァスが繰り出してきた攻撃は一発も俺を捕らえてはいない。
そこから、俺が反撃に転じることはなく、ひたすらシルヴァスが一方的に攻撃を仕掛ける試合運びが続いた。そのあまりに単調な光景に途中から不満の声を漏らす冒険者も出始めていた。
「おい、攻撃しろよ!」
「なんで、避けてばっかなんだ?」
「攻撃しないと勝てねぇだろうが!」
口々に文句を言っているのはCランク以下の冒険者ばかりで、それ以上のランクの冒険者は固唾を呑んで俺たちの試合を観察していた。Bランク以上の冒険者ともなれば、幾つもの死線を掻い潜ってきている猛者ばかりであり、特に相手の強さを気取る点においては、Cランク以下の冒険者たちとは比べ物にならない。
そんな連中の目から見ても、この戦いは異質なものであり、こうまで実力に差があり過ぎてしまうと試合にすらならないといういいお手本であった。実際俺がやっていることはシルヴァスの攻撃をただ避けているだけだが、攻撃している彼からすればこちらの動きがすべて読まれており、どんな攻撃をしても無駄だという無言の圧力にも似たプレッシャーを感じていることだろう。そして、そんな状況をBランク以上の冒険者たちは的確に理解しており、口々に冷静な感想を漏らす。
「ありゃあ、ダメだな。シルヴァスの攻撃が完全に読まれとる」
「余程のことがない限りは、あの坊主が攻撃を受けることはねぇだろうな」
「しかも、シルヴァスの攻撃を見てからぎりぎりで避けてる。俺がシルヴァスの立場だったら、やり辛くて先に戦う気力を折られちまうぜ」
「あんなのにどうやって勝てっていうんだよ……」
さらにシルヴァスが攻撃を続けること三十分が経過する。徐々に体力が削られ、肩で息をするシルヴァスに対し、俺は涼しい顔で彼を見据える。そんな状態でも彼の闘志は衰えておらず、こちらに鋭い視線を向けてくる。
「これでわかっただろ。いい加減諦めて降参したらどうだ?」
「まだだ。俺はまだ負けていない! 一度たりともお前の攻撃を食らった覚えはない!!」
「何故、俺が武器を持たずにただお前の攻撃をただ避けているのか。もうそろそろそのことに気付くべきじゃないのか?」
「……」
一見すると、実力差を見せつけるためのパフォーマンスとして行っているものだと思うだろうが、実際のところはそんな表面的な理由などではない。ただ純粋なたった一つの理由からそうしているだけなのだ。その理由とは――。
「わからないといった様子だな。ごく単純な理由だ」
俺はそう言うと、右手をシルヴァスの前に突き出し、魔法を発動するかのような仕草を取る。その行動に身構えるシルヴァスだったが、その突き出した手を引っ込め、誰もいない場所に向かってただ手を横薙ぎに薙ぎ払った。その瞬間、圧倒的なパラメータから繰り出されるそれは衝撃波となって伝播し、その振動が地面へとぶつかった結果、大音声の爆発音とともに俺が薙ぎ払った一帯に土埃が巻き起こる。
突然の出来事に、シルヴァスを始めとする他の冒険者たちが唖然とする中、おさまっていく土埃から現れたのは、底が見えない巨大な亀裂だった。それを見た全員が絶句する中、俺はシルヴァスにこう告げてやった。
「俺が武器を持たなかった理由はたった一つ。お前を殺さないようにするためというただ一点だ。あんな力で武器が振るわれたらどうなるかは、なんとなく想像できるだろ?」
「……」
俺の衝撃的な告白に言葉も出ない様子のシルヴァスだったが、そんな彼に俺は今一度降参することを促した。
「もう一度だけ聞いてやる。降参しろ」
「……参った」
「そこまで、勝者ローランド!」
呆気ない幕切れだったが、その結果に辿り着くまでにはいろいろな思惑があり、試合内容としては薄味だが、実際のところは中身のあるものであったということを一部の冒険者たちは感じ取っていた。かくいう、対戦相手のシルヴァスが何かを感じ取ったことは言うまでもない。
こうして、いつものテンプレも終わり、これで厄介事も終わりかと思ったが、まだ終わっていなかったことをこのあと俺は思い知ることになる。
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