ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

325話「冒険者ギルドでひと騒動?」



「来たぞ……」

「アレが噂の……」

「まだガキじゃねぇか……」


 ダンジョンから冒険者ギルドへと戻ってくると、そこは異様な光景に包まれていた。さり気なさを装ってはいるものの、その視線は明らかに俺の方を向いており、こちらを窺う気配がびんびんと伝わってくる。


 俺が冒険者ギルドからダンジョンに向かっている間に何か起こったのだろうと判断し、向こうから話し掛けてこなければ特に気にすることはないので、早々に受付カウンターへと向かう。


「い、いら、いらっしゃいませぇー。どど、どういったご用件でしょうか?」

「……依頼の報告に来た。これとこれとこれとこれとこれとこれとこれとこれだ。依頼に指定されている素材はここで出してもいいのか?」

「は、はい。ただいま確認いたしますので、こちらに出していただいてもよろしいでしょうか」

「この広さだと、素材が乗らないんだが」


 担当してくれたのは、二十代の受付嬢だったのだが、どこか応対する態度がたどたどしく、何かを気にしている様子だった。しかし、依頼の報告をしなければならないので、彼女の個人的な何かがあったのだろうと邪推をして、達成した依頼のアイテムを受付カウンターへと置いていく。


「お、おい。ありゃあ……」

「ああ、魔法鞄だ。それもかなりの大容量のな……」

「てことは、本物ってことか……?」

「いや、魔法鞄が本物だからといって奴が……ンク冒険者とは限らない」


 俺が依頼の報告を行っている最中、いつも以上にひそひそ声がしている気がする。何かあったのだろうかと思いつつ、受付カウンターを埋め尽くすほどの素材が陳列される。その様子にてんてこ舞いとなった受付嬢が、他の職員にも応援を要請することでギルド内が慌しくなる。


 受付カウンターに積まれていく素材の量が増えていくにつれて、ギルド内にいた冒険者たちのざわめきも大きくなっていき、別の意味で何か活気づいている様子だ。


 そんな中、俺に近づいてくる複数の気配に気付いたが、相手側から何かアクションを起こさない限りは知らないふりを貫き通すことにする。だが、そんな俺の行動も虚しく相手側から声を掛けてきた。


「お、おい、あんた」

「……」

「おい、聞こえているのか」

「ローランド君」

「お前らか、何の用だ。パーティーの勧誘なら断ったはずだ」


 そこにいたのは、朝ギルドに来た時に窮地を救ってもらったお礼として金を受け取ったヘザーたち四人組冒険者パーティーだった。彼女たちを見て、またパーティーの勧誘に来たのかと思った俺は、先に釘を刺すような返事をする。ちなみに、最初に声を掛けたシルヴァスは意図的に無視してやった。


 彼女たちの反応を見るにどうやらパーティーの勧誘という訳ではなく、何か俺に聞きたいことがあるといった様子で、意を決して問い掛けてきた。


「そのことはもういいんだ。あれは、この馬鹿者が言っていた戯言だと思ってくれ。それよりも、君に一つ聞きたいことがあるんだが構わないだろうか?」

「なんだ?」

「その、だな……。今日はどれくらいまで攻略を進めたんだ?」

「? 九階層のボスは倒したが、それがどうかしたのか?」

「っ!? それは四階層から攻略を始めてたった一日で十階層まで行ったということか?」

「そうなるな」


 質問の意図がわからなかったが、聞かれたことに俺は素直に答えてやった。すると、ヘザーを始めとする三人どころか、それを聞いていた他の冒険者たちも驚きの表情を浮かべている。事情を聞いてみると、どうやらモルグルのダンジョンは一階層当たりの広さが他のダンジョンと比較してもかなりの面積を有しているらしく、一階層攻略するのにどんなに手慣れた者が攻略したとしても早くて半日は掛かり、通常は一日一階層というのがここの冒険者の間での常識だということだ。


 だというのに、僅か一日で六階層分のダンジョンを攻略してしまった俺の異常さに驚いている様子で、それを聞いていた冒険者たちは口々に「そんな馬鹿な」だの「あり得ない」などと感想を漏らしている。だが、受付カウンターに積まれている素材の数が、俺が嘘を言っているということを否定するほどに山のように積まれている以上、自分たちの常識が通用しないことを理解してしまう。


「そんなことはあり得ない! どう頑張っても半日で一階層行ければいい方なのに!!」


 それはヘザーたちも同じだったようで、周りにいる冒険者と同じ反応を見せる。あり得ないのか、俺は行けたんだがな。


 彼女たちの言葉を聞いて、改めて自分が他の冒険者と何が違うのかを考える。何故俺が広大なダンジョンを一日に何階層も攻略することができたのか、それはひとえに進行速度の違いだ。


 圧倒的なまでに高いパラメータから繰り出される身体能力は並の冒険者の数十倍以上で、しかも飛行魔法や転移魔法といった短時間で移動する手段を持っており、階層の入り口から飛行魔法で全速力で飛んでいけば、三十分と掛からずにボス部屋まで到着することが可能だ。


 それに加えて、ダンジョンを徘徊するモンスターは他の冒険者にとっては脅威で、戦えば必ず足止めを食らってしまう。ところが、その足止めを食らうはずのモンスターが俺にとっては雑魚でしかなく、戦闘時間も数十秒から時間が掛かっても二、三分という圧倒的に短期間なのである。


 そんなアドバンテージを有する俺が、一日で一階層というスローペースの攻略速度になるはずもなく、結果的に六階層という驚異的な速度を叩きだしたのだった。しかも、この六階層という記録は、ギルドの依頼を優先してモンスターの乱獲を行っていた時間を加味したうえでの記録であり、攻略優先に切り替えれば十階層以上の攻略はできてしまうだろう。


 そんなトンデモ能力を俺が秘めているなどとは思いも知らない彼らからすれば、確かに俺の言っていることがどれだけ不可能なことなのかということが理解できる。だが、俺としても、嘘は言っていないため、できると言わざるを得ないのだが……。


「まあ、無理に信じろなどとは言わん。別にお前らが俺の言葉を信じようと信じまいと、できるものはできるのだから」

『……』


 俺の正論に反論する気力が削がれたのか、途端に静寂がギルド内を支配する。だが、そんなことのためにヘザーたちが俺に絡んできたわけではないことはなんとなく察しているため、彼女たちの目的をこちらから聞くことにする。


「でだ。そんなことを聞くためにわざわざ声を掛けてきたわけじゃあないんだろ? 何が知りたい」

「……じゃあ聞くが。ローランド君はSSランクの冒険者なのか?」


 俺の投げ掛けに対し、ヘザーが単刀直入に切り込んでくる。なるほど、それが知りたくてここにいる全員が俺に注目していたのか。


 個人的にはあまり目立つようなことは避けたいのだが、世の中目立たなくても面倒事に巻き込まれる可能性はままあり、そうなった時の厄介さは目立たなかったときよりも大きい場合がある。逆に目立ったあとの面倒事についてはその能力の高さからあまり大したことではないというのが、俺の中での経験則であるため、彼女の問いに肯定する言葉を返した。


「俺の二つ名を言ったはずだ。【依頼屋】だと。それがお前の質問に対する答えだ」


 俺の言葉を聞いて誰ともなく感極まったかのような吐息がそこかしこから聞こえる。どうやら、俺が本当にSSランクの冒険者であることを理解したらしい。よくよく見てみると、俺がダンジョンに入る時に邪魔をしてきた冒険者たちがちらほらとおり、俺がSSランクと知って納得しているような顔を浮かべている。


 その場にいる冒険者たちがSSランクの冒険者が来たことを改めて理解し始めたその時、その空気をぶち壊すかのようにある人物が声を上げた。

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