ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

323話「勧誘と冒険者ギルドの騒ぎ」



 翌日、冒険者ギルドへとやって来た俺を待っていたのは、昨日俺が助けた四人組冒険者パーティーのヘザーたちだった。どうやら、昨日の俺の言葉通りに礼をするべく朝から待っていたらしい。


「これが、昨日助けてもらった礼だ。ちゃんとパーティー全員で分割して出し合ったから安心してほしい」

「嫌々だったがな。フェリスがそうした方がいいって言うから仕方なく」

「シルヴァスは黙ってろ。俺はラッシュ。坊主が俺たちを助けてくれたんだってな。小さいのになかなかやるじゃないか」

「フェリスです。助けてくれてありがとうございます」


 そう言って名乗ってきたのは、昨日気絶していた二人の男女だった。一人は魔法使い風の女性で、シンプルな衣装に身を包んだ姿はどこか保護欲を掻き立てられる。ちなみに、胸はCくらいだ。


 一方の男の方はこちらもシンプルな軽装に身を包んだ男だが、体つきは無駄な脂肪が付いておらず、身軽そうな印象を受ける。顔つきは精悍というよりも温厚な落ち着いた大人の雰囲気を醸し出している。


 ついでに、ヘザーは剣士風の格好をしたちょっと目つきが鋭いお堅そうなイメージを抱かせる女性で、胸は大きい。Fくらいと見た。そして、最後のシルヴァスは短髪のプラチナブロンドの一見すると好青年だが、話してみると自信過剰で自己中心的な男だということがわかる残念なイケメンというのが俺の感想だ。


「ローランドだ。別に気にしなくていい。ただの気まぐれだ」

「その気まぐれで私たちは助かったんだ。そういう意味ではラッキーだったな」

「ですです」


 ヘザーの言葉にこくこくと頷きながらフェリスが同意する。男二人もそれについては同意見なのか特にこれといった反論をしてこない。


 確認のためにヘザーが渡してきた皮袋の中身を見ると、大銀貨で五十枚ほどが入っていた。四人分の命の報酬としては安いかもしれないが、簡単に人が死んでしまう異世界ではこれくらいが相場だと判断し、特に言及することなく受け取る。


 彼女たちとの用も済んだことだし、そのままダンジョンに向かう旨をギルドに伝えるため、受付に向かおうとしていたところをシルヴァスの一言で遮られた。


「おい、お前ソロか?」

「だったら何だ?」

「なら、俺らのパーティーに入れ」

「断る」

「は?」

「断ると言ったんだ。お前の耳は風穴か? ちゃんと聞こえてないんじゃないか?」


 あろうことか、シルヴァスが俺をパーティーに勧誘してきたのだ。どうやら、昨日の俺の魔法を見て子供だが実力があると判断してのことだろうが、それにしたってもっとマシな勧誘の仕方ってものがあるだろうに。それじゃあ飛び込みの営業は成功しないぞ?


 俺の返答に顔を真っ赤にして怒り出すシルヴァスだったが、ラッシュの拳骨とヘザーの鳩尾のリバーブローで沈黙させる。仲間の暴走にフェリスはぽかんとした表情を浮かべており、どことなく愛くるしさを感じる。なるほど、シルヴァスがお熱になるのはこういうところがあるからか。


「仲間がすまない」

「問題ない」

「でも実際のところどうなんだ坊主? 一人で五匹のメェメェを一掃したって聞いたが、この先一人じゃ対処できないこともあるだろう。そうなった時仲間の存在は大きいと思うんだが」


 ヘザーの謝罪を聞いていると、ラッシュがそんなことを聞いてくる。確かに彼の言っていることは的を射ている。基本的に複数の冒険者が一つのパーティーを結成してダンジョン攻略は行われることが多い。その理由としては単独よりも攻略成功率が高くなることと突発的な事故による死亡率が低下するというメリットがあるからだ。


 しかしながら、パラメータオールSSS+の俺が危機に陥る状況というのは、世界の破滅レベルでヤバいことなのではないだろうか?


「それについてはまったく問題にならない。そういえば、俺の二つ名を教えておいてやる」

「け、二つ名とは随分なもんじゃねぇか。どうせ自称だろ」

「依頼屋だ。またの名をクエストブレイカー」

「どこかで聞いたことがある二つ名ですね。どこだったかな」


 俺はそう言うと、受付にいたギルド職員にダンジョンに向かう旨を伝え、そのまま冒険者ギルドを後にした。俺の二つ名を聞いても反応しないことを見るに、まだブロコリー共和国では俺の詳しい情報は伝わっていないらしい。








 ――ローランドが冒険者ギルドを出て行った後、こんなことが起こっていた。


「……」

「フェリスどうしたんだ? 難しい顔をして」

「ローランド君の二つ名が気になってて。絶対どこかで聞いてる気がするんです」

「ふん、あのガキの自称の二つ名なんざ大したことない。SSランク冒険者じゃあるまいし」

「……ああああああ!! 思い出したああああああ!!」


 シルヴァスの心配をよそにフェリスの大声がギルドに木霊する。何事かとギルド内の視線が集まる中、彼女が仲間に自分が思い出した内容を伝える。


 その内容とは、最近現れたとされる四人目のSSランク冒険者のことであり、名前などは広まっていなかったが、その冒険者の持つ二つ名は遠く離れたブロコリー共和国にも伝わっていたのである。


 【依頼屋(クエストブレイカー)】……ローランドがそう呼ばれるようになった所以は、彼の依頼達成率にある。彼が今まで受けた依頼はほとんど失敗したことがなく、依頼達成率100%という噂も飛び交っているほどだ。だからこそ、いかなる依頼もまるでハンマーでぶっ叩いて壊すかのように達成するとして【依頼屋】の二つ名が付いたとされている。


「そ、そんなまさかあんな成人してないくらいの少年が、SSランクの冒険者だっていうのか?」

「や、やべぇぞ。お、俺気安く坊主なんて言っちまった……」

「はっ、そ、そんなのただのデマだ。あんなガキが、俺たちよりもランクの高い冒険者だなんて信じられない」


 フェリスが一通り四人目のSSランクの冒険者の説明を終えると、それぞれが感想を漏らす。ローランドの場合、やらかしている内容が内容だけにSSランクどころかSSSランクになってもおかしくはないはない。だが、そこは本人がその地位に興味がないことと、現在の冒険者のランク体系が保守的であるため、ランクを決定する権限を持っている各ギルドのギルドマスターたちも二の足を踏んでいるのが現状だ。


 功績だけ見れば、文句のつけどころがないほどにSSSだが、現代(今の異世界の時代)に空席だったSSSランク冒険者を生み出しても良いものなのだろうかというギルドマスターたちの戸惑いが、ローランドをかろうじてSSランクに留めているだけに過ぎない。もし、彼らがGOサインを出せば、いとも簡単にSSSランク冒険者として祭り上げられてしまうことだろう。


 そんなヘザーたちの騒ぎを聞いた冒険者たちがにわかに色めき立つ、自分が拠点とする街に世界に四人しかいないSSランク冒険者がやって来たことを知れば、誰でも一目見たいと考えるのは当然だ。自分の街にテレビに出ている芸能人がやってくるのと同じ感覚である。


「騒々しい、何の騒ぎじゃ?」


 そこに現れたのは、モルグルの冒険者ギルドのギルドマスターであるイグールだ。ギルド内がざわついていることを不審に思い、たまたま気分転換に歩いていたところをやって来たようだ。


 ギルドのトップであるギルドマスターの登場に、何か事情を知っているのではないかと考えるのは自然であり、冒険者たちが口々にイグールに疑問を投げ掛ける。


「ギルドマスター。このモルグルにSSランク冒険者が来てるって本当なのか!?」

「どうなんだ!?」

「う、嘘よね?」

「来るわけないじゃない。こんな規模の小さい迷宮都市になんて――」

「本当じゃよ」

『え?』


 イグールのまさかの返答に、その場にいた全員同じ言葉を発する。これで、フェリスからもたらされたSSランク冒険者がモルグルに来ているというにわかには信じられない情報が、ギルドマスターであるイグールが認めたことによって現実味を帯びてしまった。あまり騒がれたくないローランドにとっては迷惑千万な話だが、イグールの返答に冒険者たちが歓声を上げ始める。


「マジかよ!」

「どどど、どうしよう!?」

「きょ、今日勝負下着じゃないわ。今から履き替えてこなくちゃ!」

「あんたは一体何の勝負をするつもりなのよ!!」


 などと、お前は一体何と戦っているんだと突っ込みたくなる言動の者も混ざっていたが、ギルド内がお祭り騒ぎとなってしまった。Sランク冒険者ですらちょっとした騒ぎになるのに、それを飛び越えてSSランク冒険者が近くにいるのだ。冒険者たちが騒ぎ出すのも無理からぬことである。


「SSランクか。すげぇよな。俺もいつか――」

「ジャスパーには絶対無理だよ」

「おいシル。そりゃあないだろう。俺だって、努力すりゃあ――」

「無理だね」

「無理だな」

「ルダとダンまで……くそう! 絶対に俺は有名になってやる!!」


 どうやら、ローランドが出会った駆け出し冒険者のジャスパーたちもその場にいたようだが、彼らは気付いているのだろうか? そのSSランク冒険者と既に接触しており、あまつさえその相手に戦い方を教わろうとしていたということを……。しかも、ものすごく不躾な態度を取ってしまったというおまけ付きで。


 そんなこんなで唐突に降って湧いたSSランク冒険者の来訪に騒然となるギルドだったが、そんなことになっているとは知る由もないローランドは、のちにトラブルに巻き込まれることになる。

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