ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
322話「三階層のボスと残業で人助け」
「ブモォー」
「今回のアレはこういうパターンなのか?」
三階層のボス部屋へとやって来た俺は、さっそくボスへと挑戦する。だが、さすがに三回連続こういうのが続くと、どんなに鈍い人間でもわかってしまう。何かといえば、出現するダンジョンのモンスターの名前にやる気が感じられないということだ。
シンプルイズベストという言葉もあるし奇をてらった名前にし過ぎると逆に萎えることになるのかもしれないが、そういった感情的なものを差し引いてもここのダンジョンのモンスターの名前は酷かった。
「ギュモーモって……伸ばし棒ともを一個付け足しただけやないかい!」
誰にともなく突っ込みを入れるものの、今目の前で対峙しているモンスターの名前が変わることはないため、早々に決着を付けることにする。俺の言葉を挑発と受け取ったのか、ギュモーモが突進の構えを見せる。ギューモよりも二回りほど大きい体長四メートルの巨体から繰り出される突進は強力で、並の冒険者では苦戦は必至だ。
しかし、それはあくまでも並の冒険者ならという話であって、俺からすれば雑魚といっていいモンスターであるため、ギュモーモの突進は失敗に終わる。
ボス部屋の壁にぶつかり、頭に生えた角が壁にめり込んで動けなくなっているようで、隙だらけもいいところだが、攻撃していいのだろうか?
「じゃあ、終わらせるがよろしいか?」
「ブモッ!?」
俺の言葉に「えっ!?」というようなリアクションがあったが、気にせずそのまま止めを刺す。不幸な事故であったと諦めてもらうほかない。ちなみに、ボスのドロップはギュモーモの肉と大角だった。
ボス部屋を出て、四階層に行くための階段を見ながら転移ポータルを解放するが、ここで夕方の時刻になってしまい現世で言うところの定時の時間となってしまった。
「まあ、焦ることもないし何より残業は健康の大敵だからな」
俺が勤めていた会社でも残業や休日出勤はあったが、それほど頻繁ではなかった。それでも、結構な負担になっていたことから今生では無理せずに行くのは当然のことだ。
転移ポータルを使いダンジョンの入り口に戻るために操作する。転移ポータルは一階層の入り口の手前にあって、そこから行きたい階層を選ぶことができる。もちろん一度行ったことがある階層でなければならないが、一度でも攻略している階層であれば転移ポータルを使って自由に行き来が可能となっている。
この機能をグレッグ商会やコンメル商会、王都の屋敷やオラルガンドの自宅でできないものかと考えているが、そのためには足りないものがあるようで、今のところ実現化のめどは経っていない。
「まあ、俺一人なら瞬間移動で可能なんだがな」
改めて自分の持つ能力の高さを認識しながらも、今日のダンジョン攻略を終えて帰ろうとしたその時、女性の悲鳴声が聞こえてくる。どうやら、悲鳴の先は四階層のようで、俺は一瞬迷いが生ずる。
このまま転移ポータルで帰還することもできたが、俺が帰ったことで帰らぬ人が出てしまったら後味が悪いと思い、帰還を取り止め四階層へと駆け出した。残業は確定らしい。
四階層は鬱蒼と茂った木々が覆いつくす森のフィールドで、まさにジャングルそのものだ。その入り口付近で羊型のモンスターと戦っている四人組の冒険者パーティーがおり、そのうちの二人は戦闘不能状態のようだ。超解析で調べてみると、まだ息はあるようだが気絶状態となっており、戦うことはおろか安全な場所まで逃げることすらできないようだ。
「フェリス。起きるんだフェリス!」
「シルヴァス余所見をするな! 死にたいのか!?」
「……」
その様子を観察していると、モンスターの数は五匹ほどで二人では防戦一方のようだ。モンスターは【メェメェ】という名前で、やっぱり名前の付け方がおかしい。
などと、考え事をしていると先ほど気絶している女性冒険者の名前を呼んでいた男性冒険者がこちらに気付き、叫び声を上げる。
「なに、ぼさっとしているんだ! さっさと俺たちを助けろ」
「助けていいのか? 後で“余計な真似をするな。お前が助けなくても俺たちだけでどうとでもなった”とか言い出すんじゃないのか? それに、それが人に物を頼む態度か?」
「くっ」
こっちは残業をして四階層にやってきてるんだ。元々助ける気があったとしても、助けられて当たり前みたいな態度で怒鳴られたら、助けたい気も失せるというものだ。
残っている冒険者のうち女性冒険者の方は礼儀を弁えているらしく、「シルヴァス。そんな言い方はないだろう」と彼の態度を窘め、改めてこちらに救援要請をお願いしてきた。
「すまないが手を貸してもらえないだろうか? 見ての通り仲間がやられて困っているんだ。もちろん礼はする」
「いいぞ。どうやら、あんたは世渡りが上手そうだ。どっかの誰かとは違ってな」
「ぐ」
俺は含みのある言葉を言いながら男性冒険者を見やる。その誰かさんが自分であることを理解した男性冒険者が嫌な顔をする。
とにかく、状況的にはひっ迫しているようだからすぐに終わらせることにする。やはりここは魔法で倒すことにしようと決めた俺は、適当な魔法をぶっ放した。
「消えろ【サイクロンカッター】」
竜巻の如く現れた風の刃がモンスターたちに襲い掛かる。圧倒的な風の力による攻撃は絶大で、五匹いたモンスターたちが瞬く間に倒されていき、素材へと変わってしまった。
それを見ていた冒険者たちは一瞬何が起こったのかわからないといった様子で呆けていたが、俺がまとめてモンスターを片付けたことを理解すると、驚愕の表情を浮かべる。
「な、なんて強力な魔法だ」
「それだけ強ぇなら最初から助けてくれよな」
「なんで見ず知らずの奴を何の見返りもなく助けなきゃならんのだ。人に何かさせたいのなら、そいつにとって利となる何かを提示しろ。金なり何なりな。それで初めて人は誰かのために何かをしたいと思うようになる」
などと、俺が人生の縮図のようなことを言っている間に女性冒険者が仲間の元へと駆け寄る。どうやら、ただ気絶しているようで命に別状はないらしい。
これで目的は達成した俺は、これ以上の残業は御免なので、話の分かる女性冒険者に言ってその場を後にしようとした。
「じゃあ、俺はこれで失礼する」
「待って、助けてくれてありがとう。これを受け取ってくれ」
「これは」
「私の全財産だ。仲間を助けてくれた礼だ」
そう言って手渡された皮袋の中には、細かいのは小銅貨から大きいもので小金貨が入っていた。本当に彼女の全財産らしい。
だが、これはあくまでもパーティー単位の救護要請であると俺は考えているため、彼女個人の財産だけをもらうのは筋が通らない。
「報酬は受け取るが、それはパーティー全員から分割でもらう。仲間が起きたら四人全員がそれぞれ妥当だと思う報酬を等分で支払ってくれ」
「なんで俺がこんな小僧に金を払わなきゃならん」
「シルヴァス。この子がいなかったら私たちは死んでいた。その対価として金を払うのは当然だと思うが?」
「……」
俺の提案に難色を示す男性冒険者を女性冒険者が窘める。元々金には困っていないから、こういった場合の相場を支払ってくれればこちらとしては何ら問題ない。
とにかく、現在進行形で残業をしてしまっている以上、一秒でも早く帰還しなければならない。俺はそう判断し、すぐに撤収することにする。
「俺の名前はローランドだ」
「私はヘザーだ。あっちの不愛想なのはシルヴァス」
「悪いが急いでいてな。今回の報酬については冒険者ギルドに預けておいてもらえばそれでいい。じゃあ、これで失礼する」
「わかった。本当にありがとう」
結果的には残業となってしまった今回のダンジョン攻略だが、やはりあの時の悲鳴を無視しなくてよかったと思いながら、俺は街へと帰還した。
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