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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

320話「二階層へ」



「はむっ、もぐもぐ」


 口の中一杯に淡白な肉の味が広がり、旨味成分を含んだ肉汁が口内を包み込む。……なんか、グルメ番組みたいだな。


 5点少年ジャスパーたち駆け出し冒険者と別れた後、俺は二階層を目指して歩いていた。道中襲ってくるピヨヨを返り討ちにしてお肉になってもらい。程よきところで本日二回目の休憩を取っている。日本人は働き過ぎなのです。休日出勤残業ダメ絶対。


 などと、訳のわからないことを脳内で思い浮かべつつ、改めてピヨヨの肉の味を確認するべく、再び試食をしていた。最初に食べた時も感じたことだが、やはり癖がなく淡白な味で、肉としての味もしっかりと味わえるため、どんな料理でも合わせることができそうということを再確認する。


 今回はあの5点少年の忠告を活かし、最初から結界を張っているため、誰も俺の邪魔をしてくる者はいない。念のため姿を見えなくする結界を張ったからな。自身の行動を省みて次に活かす。これは案外簡単そうでとても難しいことなのだ。


 尤も、自重なしにいろいろと突っ走ってきている俺は、今までの行動をどれだけ省みなければならないのかという突っ込みが飛んできそうだが、苦情は一切受け付けない。ノークレームノーリターンである。ああ、これはネット通販の造語だったか。


 兎にも角にも、休憩が終わり再び二階層へ向けて歩き続け、襲い掛かってくるお肉を回収しつつ、いよいよもってボス部屋の手前へと到着する。そこには、やはりというべきかボスと戦う順番待ちをしている冒険者たちがいて、俺がやってくると視線を向けてきたが、すぐに興味を無くしたように俺から視線を外し絡まれるようなことはなかった。


 俺としても何事もなければまったく問題がないので、そのまま冒険者たちの列の最後尾に並び、順番が来るのを待つ。特に会話らしい会話もなく、冒険者たちがパーティー毎にボス部屋へと入っていく。そんな感じで待つこと一時間弱ほどが経過してようやく俺の番がやってきた。


「さて、ボスはどんな感じだ? ……って、お前か」

「ぴよぴよー?」


 そこにいたのは、見覚えのあるフォルムをしたモンスターだった。というか、ボス部屋に来るまでの間に散々狩っていた相手だから忘れるはずもない。ただ、一つだけ今まで戦った相手と異なるのは、通常の大きさが三、四十センチ程度にも関わらず、目の前にいるそいつは一メートルを優に超えていたのだ。


 気になってさっそく調べてみると、そいつの名前は【ピヨヨヨ】という名前のピヨヨの上位種らしく、全体的にピヨヨよりもパラメータが高く、ピヨヨが持っていなかった【突進】というスキルを持っていた。名前自体は取ってつけたような感じだが、能力的にはピヨヨよりも厄介な相手であるため、駆け出し冒険者レベルの冒険者であれば苦戦は必至だ。


「ぴよぉー! ぴよ?」

「だが、残念ながら俺は駆け出し冒険者じゃないんでね。ということで、肉になっちゃえー!」

「ぴよー!?」


 ピヨヨヨの突進を片手で受け止めると、某アニメのキャラクターの台詞を引用しつつ、ピヨヨヨに止めを刺した。ボスといっても一階層のボスであるため、苦戦することは万に一つもない。


 ピヨヨヨから得られた素材は、モンスターの魔石とビッグミサイルバードの肉と嘴と羽という素材だった。さっそく試食と行きたかったところだが、後ろに控えている冒険者がいたので、自重して次の階層へと行くことにする。


 ボス部屋を出た先にある転移ポータルに触れ、転移ポータルを起動する。これで、次からはこの場所から再スタートすることができるようになった。この機能はゲームだけではなくリアルでも便利だ。尤も、俺には自前の転移があるから、これを使う機会はないかもしれないが……。


 そんなわけで、すぐさま二階層へとやってきた俺は、そこにいるモンスターを確認する。二階層の地形は一階層とは打って変わって、広大な草原が広がっており、所々に木や岩といったオブジェクトのような感覚で自然物が設置されているようだ。ダンジョンだから自然的な要因ではなく人工的な要因でそこに設置されているらしく、不自然なほどに周囲にはそれ以外の自然物は存在していない。


 迷宮主側の視点から見ると、“どうぞ、そこで休憩なさってください”と言っているように思えた。ただし、休憩できるものならねと言わんばかりにそこにはモンスターが湧いているが……。


「……豚だな。鳥と来て今回は豚か」


 二階層にいるモンスターは、ピンク色の肌に丸々と太った体長が一メートルほどある四足歩行で見た目が完全に豚のモンスターだ。名前は【ピグー】というこれまた豚よりな名前であるが、その顔つきはニヒルな顔をしており、ピヨヨとは異なり見た目で好戦的なモンスターだと判断できる。


 俺を発見すると、鼻息を荒くして明らかな戦闘態勢を取ってくる。前足を地面に擦り付ける仕草をしながら、こちらに向かって突進してくる様子をピグーが見せる。そして、そのまま馬鹿正直に突進してくる。だが、そんな攻撃が俺に通じる訳もなく……。


「肉になっちゃえぇー!!」

「ブヒィー!」


 ピグーの突進を華麗にスルーし、隙だらけのピグーに向け風魔法を放つ。放たれた風の刃がピグーを切り刻み、後に残されたのはドロップアイテムの【ピグーの肉】だった。


 そのあとピグーを何匹か狩ってみたが、奴から取れるのは肉のみで、それ以外はレアドロップであろう【ピグーの上肉】というアイテムがたまに手に入るくらいだ。


「これは、さっそく試食タイムだろう」


 新しい食材を手に入れたので、さっそく食べてみることにする。前回と同じように結界を張り、邪魔が入らない状態でまずはピグーの肉を塩焼きで焼いてみることにする。


「どれどれ、はむっ。もぐもぐ」


 味としては、普通の豚肉と何ら変わりなく、どこか違うのかわからないレベルだ。続けざまにピグーの上肉も焼いて試食したが、こっちは前世で言うところの豚トロのような味と食感で、個人的には好きな肉だった。


 それから、さらに階層を突き進み、襲ってくるピグーたちを肉に変えつつ、気付けばボス部屋へと到着した。

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