ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
319話「駆け出し冒険者」
「……はむっ、もぐもぐ」
「おい、何食ってんだよ! 俺の質問に答えろ」
「見てわからないのか? 休憩中だ。それに、俺がいつどこで何を食おうが、お前には関係のない話だ。お前は、飯を食うのもトイレに行くのも寝るのも誰かに指図されて生きてきたっていうのか?」
「……」
俺が無視したように焼き鳥を食べ始めると、それが気に入らなかったのか、最初に話し掛けてきた少年が突っかかってくる。だが、俺が正論をぶつけてやると途端に黙り込み悔しそうな顔を浮かべている。
彼らは少年二人少女二人の駆け出し冒険者パーティーのようで、そのうちの一人は獣人の少女らしい。おそらくは、俺が調理していた焼き鳥の匂いを嗅ぎつけた彼女の先導でここに来たのだろうが、残念ながらここにいるのは俺だけであとは何もない袋小路だけだ。
「と、とにかくだ! こんなところで料理なんかしてモンスターが寄ってきたら他の奴らに迷惑なんだよ」
「もぐもぐ……うん、なかなかに淡白な味わいの肉だな。これならいろんな料理に使えそうだ」
「おい、人の話を聞いているのか!?」
「大きな声を出すなよ。それこそ、モンスターが寄ってくるんじゃないのか?」
「うぅ……」
少年の言ったことは正論だが、自分でモンスターが寄ってくるような行動を取っている以上、人のことをとやかく言う資格はない。俺としても、匂いに対しての対策を講じずに料理を始めてしまったことについては反省するべき点があったので、彼の言葉を聞き入れ、すぐに風魔法で料理の匂いが外に漏れないように結界を張った。
「【ウインドウォール】。これで、匂いが外に漏れることはない。ほら、これで他の冒険者には迷惑が掛からなくなった。さっさと自分たちの食い扶持を稼ぎに行ったらどうだ」
「ま、魔法だと……」
「ば、馬鹿な」
「あたいらよりも若いのに」
「す、すごいです」
どうやら自分たちよりも年の若い俺が魔法を使うとは思わなかったようで、全員が驚愕の表情を浮かべている。この後の展開としては、お決まりというかなんというか、ご想像通りの展開が待ち受けていた。
「どうやら少しはできるらしいな。どうだ。俺たちのパーティーに入れてやるよ」
「5点」
「はあ?」
「まず、その上から目線の態度はなんだ? 入れてやるではなく入ってくださいの間違いだろ? 見たところ、魔法職の冒険者がいないからそれを補うために俺を勧誘しようとしたんだろうが、まず態度がいただけない。それじゃあ、入ってくれそうなやつも入りたくなくなるだろうな。だから5点だ。言っておくが100点満点で5点だからな」
「ぐぬぬぬぬ……」
俺は言いたいことを言うと、残りの焼き鳥を頬張り始める。少年は何も言えなくなり、ただただ悔しいという表情を浮かべながら俺を睨みつけてくる。
他のメンバーはリーダーであるこいつがここを動かないからか、移動しようとはしない。仕方ないので、残りの焼き鳥をストレージに仕舞い込むと、俺はその場を後にしようと移動を開始したのだが……。
「待て、俺と勝負しろ!」
「はあ?」
「俺が勝ったら、俺たちのパーティーに入れ!」
「お前が負けたらどうするんだ?」
「は?」
「は、話にならんな。だからお前は5点なんだ」
少年が俺に勝負を挑んでこようとしたが、負けた時のことを考えていない奴はこの先長くはない。それに、俺はソロの冒険者だ。この先も誰かと固定のパーティーを組むことは天地がひっくり返ってもないだろう。
俺の返事に少年が何か喚いていたが、これ以上彼らの戯言に付き合う気はなかったので、俺はその場を後にした。せっかくの焼き鳥の味も途中で邪魔が入ってしまい、堪能できなかった。それが何よりも腹立たしい。
「ぴよぴよぴよ」
「ふんっ」
「ぴぎゃー」
それからは、休憩の邪魔をされた腹いせにピヨヨを乱獲しまくった。ここはダンジョンなので、例え何万匹狩り続けたとしても迷宮主のコアを破壊しない限りは永遠にモンスターが湧き続ける半永久機関なのだ。遠慮することはないのである。
しばらく狩り続けていたのだが、いい加減俺の後を付け回す気配に嫌気が差し、後方に向けて声を掛ける。
「いい加減俺の後を付け回すのはやめてもらえないか?」
「な、なんでバレたんだ?」
「そんなお粗末な尾行で気付かないのは、駆け出し冒険者かただの間抜けだ。お前のようにな5点」
「さっきから人のことを訳の分からないあだ名で呼ぶな!」
「名乗られた覚えはない」
やはりというべきか、すでにわかっていたのだが、後を付けていたのは先ほど袋小路で出会った駆け出し冒険者たちだった。偶然進行方向が同じになるということはダンジョンの構造上あり得ないので、俺の後を付けていたというのが妥当な理由だったが、5点の言葉から俺の予想が嫌な形で当たったということになる。
それよりも問題なのは、なんで俺の後を付けてくるのかということだ。ただの嫌がらせにしては気配に陰湿さがなかったし、どちらかといえば俺の戦いを見て驚きの色を浮かべているようだった。
「お、俺はジャスパー」
「ダン」
「あたいはルダ」
「シルです」
「俺はローランドだ。じゃあ、そういうことでな」
「ま、待てい!」
俺の名乗っていないという言葉に対し、それぞれが名前を教えてくれる。それに対し、俺も名前だけ告げそのままのノリでこいつらから逃げ出そうとしたのだが、その策略は5点ことジャスパーによって阻止された。くそう、5点のくせに生意気だ。
「何だ? 俺は忙しいんだ。お前らに構っている暇などない」
「お、俺たちに戦い方を教えてくれ!」
「意味がわからない」
「じ、実はですね……」
ジャスパーの突然の申し出に俺が理解不能な態度を示すと、シルと名乗った少女が説明してくれた。どうやら、彼女たちは田舎の村からこのモルグルに冒険者となるためにやってきたらしいのだが、最初に出てくるモンスターすら倒せず苦労しているとのことだ。
そんな状況の中、自分たちよりも年下の俺が軽々とピヨヨを倒していくのを見て、どうすればそんな風に戦えるのか一体どんな特訓をしたのか、その特訓をすれば自分たちも俺のように戦えるようになるのかという考えに至ったらしく、俺の後を付けていたようだ。
「で、お前らは俺に何を支払うつもりなんだ?」
「支払う?」
「まさか、俺がタダでお前らにモンスターとの戦い方を教えてくれるとでも思ったのか? 覚えておくといいが、人っていうのは相手に何かをしてもらいたい時、対価となるものを差し出して初めて相手をその気にさせることができるものなんだ。畑の耕し方、料理の作り方、家具の修繕の仕方、お前らの村では同じ村の連中がタダで教えてくれただろうが、それは同じ村の出身のお前らが相手だったからだ。普通は何か対価となるものを支払うことになる。金なり何なりな」
「……」
地方出身の彼らは俺の説明に戸惑いを隠せず、押し黙ってしまう。俺にとっては当たり前の常識でも、地方出身の彼らには初耳だったようだ。
彼らにも言った通り、俺にとって何かプラスとなる要素を提示できない限り、俺が彼らを教えることはしない。俺の貴重な時間を割いてやるほどの何かを持っているのであれば話は別だが、それは望み薄だろう。
「わかったか。わかったらもう俺の後を付け回すようなことはやめてくれ」
「わかった。なら、金を払うから俺たちに戦い方を教えてくれ」
「残念ながら、俺は金というものにそれほどの魅力を感じていない。だから、お前たちに戦いを教える対価とはなり得ない。仮に報酬として金で支払った場合、最低でも大金貨数十枚レベルの報酬になるぞ?」
「大金貨数十枚……」
SSランクの冒険者に師事してもらうのであれば、人によってはそれ以上支払っても惜しくないと考えるものだっている。冒険者ギルドのみならず、世界の最高戦力として数えられる最高位冒険者の貴重な時間を割いてしまうということは、世界にとって大金貨数百枚の損失となる可能性もあるのだ。
尤も、そんなこととは知る由もない彼らは軽い気持ちだったのかもしれないが、見たところ成人してるようだし、これからは自分の行動には責任が伴うということを理解していかなければならない。と、未だ十三歳の少年が言ってみる。
「それに、俺なんかよりも村出身の世話好きな先輩冒険者なら山ほどいる。そっちの連中に声を掛けた方がいい。仮に金で払うことになっても、吹っかけられて大銀貨レベルだろうしな。もういいだろう? 子供じゃないんだから、後は自分たちでやってくれ」
「あ……」
これ以上は付き合っていられないということで、俺は引き離すような台詞を言った後、ダンジョンの先に進む。5点少年ジャスパーがまだ何か言おうとしていたようだが、どうせ俺を引き留めるためだと思い、彼の言葉を待たずしてダンジョンの奥へと歩を進めるのだった。
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