ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

317話「ダンジョンに向かう前のアレコレ」



「お初にお目に掛かる。儂は、このモルグルの冒険者ギルドのギルドマスターをやっとるイグールという爺じゃ」

「ローランドだ。それで、俺を呼んだ理由は?」


 モルグルに到着した翌日、ダンジョンへ向かうため一度冒険者ギルドへと向かうと、突然受付嬢が「ギルドマスターがお会いしたいと申しております」と言われ、いつものように連行されてしまった。


 ギルドマスターの執務室には、白髪長髪白髭の六十代くらいの老人がそこにいた。どうやら、この爺さんがモルグルのギルドマスターらしく、見た目は好々爺といった感じだが、目の奥には確かな意思を宿しており、なかなかに侮れない人物であるということはなんとなくわかった。


「何世にも珍しいSSランク冒険者がどんなもんかと思うてのう。ただ会ってみたかっただけじゃ。ついでに、いくつか簡単な依頼を受けてもらえれば助かるとは思うておるがのう」

「それが本題か。依頼の内容を聞こう」


 口では何でもない風を装っているが、自分の目的をしれっと要求してくる辺り、さすがは年の功といったところだろう。面倒なことは早めに片付けるに越したことはないので、依頼の内容を聞くことにしたのだが……。


「歳を取ってくると説明が手間でのう。これがお主に受けてもらいたい依頼のリストじゃ」

「……」


 イグールがそう言うと、少なくとも二十以上は確実にあると思われる依頼書の束を寄こしてきた。一体どんな内容のものかと確認してみると、そこに記載されていたのは、最低でもSランク冒険者のパーティーで挑むことが推奨されている依頼ばかりで、所謂五年依頼や十年依頼の類のものである。


 一通り俺が依頼の内容を確認したのを見計らったかのように、イグールが口を開く。この狸爺さんの説明によると、俺に寄こした依頼は、ここ数年達成はおろか挑もうとする冒険者すらいなくなってしまっており、そろそろ五年依頼として処理しようとしている高難度の依頼ということらしい。


「このモルグルはブロコリー共和国でも有数の迷宮都市じゃが、なかなかSランクの冒険者が現れることは珍しく、どうしても高難度の依頼を受ける冒険者を見つけるのが難しいのじゃ。もしお主がこの依頼を受けてくれるのであれば、ひじょーうに助かるのじゃがのう……」

「……」


 などと、歳に似合わず上目遣いでちらちらとこちらを見てくる老人に、若干の苛立ちを覚えつつも、断る理由はないので、依頼を受けること自体は何ら問題はないが、いくらSSランクの冒険者とて、達成可能な依頼と不可能な依頼はどうしても出てきてしまう。そのことを説明してやると。


「ああ、構わん構わん。お主が達成できると思った依頼をやってもらい、残ったものは依頼書だけ返してもらえれば構わんよ」

「なら、問題ない。ダンジョン攻略のついでに達成できる依頼は達成するとしよう」

「おお、ありがたや。さすがは世界で四人しかいないSSランク冒険者じゃ!!」


 といった具合に、調子のいいことを言っているが、最初からこの依頼を俺に押し付ける気満々だったことを思えば、イグールの口にする賞賛の言葉がいかに薄っぺらいものなのかということを感じざるを得ない。


 しかしながら、依頼の難易度は俺からすれば簡単なものばかりであり、この程度の難易度で大金貨数十枚をもらえるのであれば、美味しい依頼であることには間違いないため、彼の言動にいちいち目くじらを立てるのも大人気ない。まあ、俺はまだ成人していないから大人ではないのだがな。


 とにかく、イグールの用事はそれだけだったようで、「フォフォフォ、ダンジョンでの無事を祈っておるぞ」と、溜まっていた依頼を処理できたことに対する気持ちのいい安堵の笑顔で送り出してくれた。


 多少気が早いのではないかとも思ったが、兎にも角にもこの街のダンジョンがどういった仕様になっているのかを確認するべく、俺はダンジョンへと向かった。


 迷宮都市モルグルの北西部に巨大な洞穴があり、その先にダンジョンの入り口が存在している。元々は、洞穴に隣接するように作った拠点が、徐々に規模を広げ今のモルグルを形成したらしいのだが、その間に何度かダンジョンから魔物が溢れ出す事件……スタンピードが起こったこともあったらしい。


 その際は、高ランク冒険者を中心になんとかモンスターの流出を防ぐことができたのだが、年々冒険者の質が劣化している問題もあり、今スタンピードが起きれば、モンスターの流出を防ぎ切ることは困難であるというのが、モルグルの住人の見解であった。


 それでも、他の街へ移り住むことをしない者がほとんどであり、それだけダンジョンというものがもたらしてくれる利益が大きいことを裏付ける証拠でもあった。こういった事情は、モンスターが蔓延る異世界ならではなのかもしれない。


「待ちしておりました。どうぞ、お気をつけて」

「……ああ」


 冒険者ギルドからお達しがあったのか、入り口を見張っていた兵士が通してくれた。それはよかったのだが、先に並んでいる冒険者を差し置いて後から来た俺を通してしまっては、先に並んでいた冒険者たちの印象が悪くなってしまう。それが証拠に、俺に恨みがましい目を向けている冒険者たちがちらほらといるではないか。


「すまないが、先に並んでいた冒険者たちを優先してくれ。俺は彼らの後ろに並ばせてもらおう」

「それはいけません。あなた様の時間と今並んでいる者たちの時間の価値は違うのです。あなた様には一刻も早くダンジョンに入っていただかなくては」


 おいおい、その言い方だと今並んでいる冒険者が有象無象の無能な連中だって言ってるようなものだぞ。それをちゃんとわかってんのかこいつは?


 その意味を理解しているのは俺だけではなく、並んでいる冒険者たちの何人かはさらに俺を睨む鋭さが増したように感じた。そして、間接的にせよそこまでコケにされた冒険者が黙っているはずもなく……。


「おうおう、兵士さんよぉー。俺たちがその小僧よりも弱っちぃって言いてぇのか? それはいくらなんでも舐めすぎだろう?」

「そうだそうだ。なんなら、どっちが強ぇーか今この場で確かめてみるかい?」

「こんなところにガキ一人が来るなんざ十年早ぇー。ガキは大人しく、かぁちゃんのおっぱいでも吸ってたらどうでぃ?」

「ハハハハハ、そりゃあいい!」


 いくら兵士にコケにされたからといって、俺に突っかかってくるとはな。いいだろう、ならばわからせてやる。どちらが格下なのかということを……。


「……」

「な、なんだこのおぞましい程の気配は!?」

「か、体の震えが止まらない」

「ガクガクガクガク」


 俺は連中に向けて超威圧を限りなく加減した状態で放ってやった。すると、その気配を感じ取ったようで途端に周囲がパニック状態となる。並んでいた冒険者の中には、最初から俺の実力を感じ取って様子を窺っていた者もいたようだが、そいつらもまとめて威圧の対象に入れてやった。


 加減をしているとはいえ、【超威圧】という人外の力から繰り出される圧倒的圧力に、並の冒険者が耐えられるはずもなく、尽く気を失っていく。俺を直接的に挑発していた冒険者は、実力としてはCランクに届くか届かないか程度の実力しかなく、遠巻きに見ていた冒険者の中にはBランクやAランクの猛者もいたが、シェルズ王国の冒険者基準(俺が稽古を付ける前のギルムザック達)からすれば程度が知れており、はっきり言って実力不足が否めない。


 その根拠として、威圧を受けたBランク以下の冒険者たちは全員気を失ってしまい、その場で動けずに片膝を付いている冒険者はAランクのみだ。これがシェルズ王国の冒険者であれば、Bランクが片膝を付いて動けず、Aランクは動けないものの自らの武器に手を掛けて臨戦態勢を取るくらいはするだろう。


 自分で引き起こしたこととはいえ、大惨事となった状態を目を丸くしながら見ている兵士に対し、俺は少しだけ棘のある言葉を投げ掛けた。


「いくら本当のこととはいえ、人間っていうのは面と向かって言われたくない言葉の一つや二つある。次からは相手の立場になって物を言うようにするべきだ」

「も、申し訳ございませんでした。き、気を付けます」

「それから、そこの動けなくなってる冒険者。後で俺にちょっかいを出してきた冒険者に伝えておけ、見た目で人を判断すると今回のように痛い目を見ることになる。次からは見た目ではなく中を見て判断しろとな」

「う、うぅ」


 まともな返事もできず、唸り声を上げるだけだったが、おそらくは了解の意志を示したのだと判断した俺は、地獄絵図となった冒険者たちを尻目にダンジョンへの一階層へと向かった。

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