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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

315話「商会のその後」



 俺がシンボルマークを作ってから数日が経過した。特に変わった様子もなく、相変わらず商売は順調のようだ。


 新しく立ち上げたトーネル商会も新興の商会にしてはその売り上げも悪くなく、徐々に周りの人間にその名が知れ渡っていった。


 最初の方こそ「あの旗は一体なんだ? 何かの祭りか?」と考える人間もいたが、今では商会の目印として役立っているようで、まさにシンボルマークとしての役目を大いに果たしている。


 そんなこんなで、この数日の間に俺が行っていたことといえば、孤児たちの研修だ。現在三つの商会で販売している商品のうち専門的な技術を必要とするものが多く、比較的簡単そうなぬいぐるみですら一定の裁縫技術が必要であり、いい出来栄えのものでなければ商品として取り扱うことは避けている。


 木工人形はもちろんのこと、ヘアピンやブレスレッドなども鍛冶や魔法による研磨技術が必要となるため、孤児たちでは作製自体が困難である。


「いいか、ここをこうしてこうするんだ」

「お、おう……こうか?」

「違う縫い目が荒くなってる。もっと丁寧にだ」

「難しいぞ」

「そのうち慣れる。今はとにかく数をこなせ」


 俺はある商品を作製してもらうため、孤児たちに指導をしている。その商品とは……シュシュである。


 シュシュが登場するまで髪留めは何の変哲もないただの紐で結ぶことが多く、貴族など富裕層の人間でリボンを使うのが精々であった。だが、このシュシュが登場してからは街を歩く女性は幼い少女からお年寄りの老婆に至るまで、そのほとんどがシュシュ一辺倒になってしまった。


 女性冒険者や活発な若い女性など、良く体を動かす女性たちにはヘアピンが人気となっており、ちょっとした目に掛かる髪を留めておけるのと値段自体も手頃ということで、一定の需要を獲得していた。


 そして、そんなシュシュだが必要なのはシュシュに使う用の布と、ゴム紐の代用品となるポイズンマインスパイダーの糸さえあれば、あとは最低限の裁縫技術さえ習得できれば誰でも作製が可能な商品であった。


 シュシュ自体、グレッグ商会とコンメル商会において原材料の調達から生産に関して言えば、すでに俺の手から離れており、すべての工程を商会で担うことができている。


 それが理由なのかはわからないが、この二つの商会がある都市オラルガンドと王都ティタンザニアでは、全体的な布の末端価格とポイズンマインスパイダーの糸の値段が高騰しているようだ。


 最終的にトーネル商会でも、このシュシュの自主的な生産ラインを確保したいところであり、いろいろと調べたところなんとかなりそうという結論が出た。


 まず、布自体は調達する点においては難しくなく、比較的簡単に調達は可能だ。問題はゴム紐の代用品となるポイズンマインスパイダーの糸なのだが、なんとブロコリー共和国には規模は小さいがいくつかダンジョンが存在しており、その中の一つにこのポイズンマインスパイダーが出現するらしい。


 確認のために俺自ら赴いてみたが、情報通りポイズンマインスパイダーの生息が確認できたため、冒険者ギルドに依頼を出せば、シュシュに使用するゴム紐についても問題なく確保できるようにすることはそれほど難しくはない。


「あ、あの。これ……」

「ん? お前が作ったやつか?」

「は、はいっ」

「どれ……」


 そんな中、一人の少女が声を掛けてきた。ジャックたち孤児のうちの一人であり、俺よりも一つか二つほど年下の少女だ。確か、名前はルリスとかいったか。


 孤児たちの間でお姉さん的存在であり、リーダーのジャックに意見できる数少ない人間の一人だ。ちなみに、ジャックが気になっている相手でもある。青い春ですなぁー。


 そんなルリスも他の孤児たちに混ざってシュシュの作製を教えているわけだが、どうやら元々孤児たちの服の修繕をしていたのが彼女だったらしく、その裁縫技術はなかなかのものだ。


「うん。これなら商品として出しても問題ない。あとは、縫い目をできるだけ一定にしてムラが無いようにするのと、ゴム紐が少し緩いからもう少しきつめにした方がいい。この調子でもう少し続けてくれ」

「は、はいっ」

「……」


 俺が褒めると、頬を赤くさせ輝くような笑顔を向けてくる。なかなかいい笑顔だ。それに対し、まるで俺を親の仇のようにジャックが睨みつける。気持ちはわかるが、少年よ。一応、俺雇い主だぞ?


 などと、心の中で突っ込みをいれつつ、孤児たちにアドバイスをする。そんな中にリアナも混ざって参加していた。あれから話し合いを重ね、俺の要望通りトーネル商会で働くことを了承してもらったが、彼女を説得する際、壁ドンをしながら声を低めにした「どうしてもお前に働いてもらいたいんだ。俺のために、役に立ってくれないか?」というやり方で一発オーケーをもらった。


 何かを失った気がするが、これ以上彼女に付きまとわれるリスクを考えれば、安い代償だったと考えるべきだろう。ちなみに、そのあとナガルティーニャも同じことをしてほしいと言ってきたが、当然の如くアイアンクローで黙らせたのは言うまでもない。


「ローランド様、どうですか~? ちゃんとできてますか~?」

「……まあ、これなら問題ない。続けてくれ」

「頑張ります!」


 そう言って、自分の持ち場に戻っていくリアナを見送る。嬉しい誤算というべきなのかはわからないが、実のところリアナは裁縫は得意なようで、ルリスとそれほど変わらないくらいに仕上げが上手かった。


 手作業で行う以上ある程度のムラが出るのは仕方がないが、数をこなしていけば問題ない程に彼女の裁縫の技術は高かった。


 一通り、孤児たちにアドバイスをし、しばらく練習のためにそれぞれ黙々とやらせることにし、再び売り場へと戻る。


 客の入りは予想よりも多く、混雑が予想されたが、事前に決めておいた陳列の方法で客の流れ自体が早いため、今の人員でも問題なく捌ける量だ。会計する場所もスーパーやコンビニのように数か所用意してあるため、会計から清算もスムーズで客がストレスなく買い物ができている。


 このシステムはグレッグ商会とコンメル商会でも導入が完了しており、こんな画期的な方法があったとはとグレッグとマチャドも絶賛していた。恐るべし、現代の接客システム……。


 特に問題はないことを確認し、トーネルがいる執務室に一言断ってから、俺は商会を後にする。


 商会の敷地を出る際、女性従業員が住むアパートと孤児たちが住む孤児院の間にある畑に目を向けると、そこには孤児たちが一生懸命畑仕事をしている。


 あれから孤児たちの間で話し合って、当番制で畑の面倒を見ることにしたらしい。孤児たちに混ざって何人かの女性従業員たちも混ざっており、実質的に孤児たちの監督者役になっている。


 育てる作物は小麦やじゃがいもなどの比較的育てるのが簡単なものにし、慣れてくれば鶏などの畜産にも手を出していかせるつもりだ。自給自足の道は険しい。


 真面目に働く孤児たちを見届けた後、俺はある目的のために冒険者ギルドへと向かった。

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