ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
313話「商会のお披露目」
「これが、お前たちが働く新しい商会だ!」
『……』
翌日、トールとトーネル、そして商会で働く従業員の女性たち、さらには偶然出会ったジャックたち孤児、さらにはナガルティーニャとリアナを含めた全員の目の前で、結界を解いて昨日出来上がったばかりの商会と住居を見せてやった。
最初はなぜ何もない更地に連れてこられたのかわからなかった全員だが、俺がカモフラージュのための結界を解いたことで、その全貌が明らかとなり、それを見た全員が言葉もなく黙り込んでしまった。
決して俺が面白いことを言って滑った感じになっているわけではないが、驚くだろうと思って用意したものに対して何のリアクションもなくただただ黙り込まれると、何だか滑った気分になってくるものだから不思議だ。
「ローランドきゅんも思い切ったじゃないか、あたしでもこんな大掛かりな魔法は使えないよ」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「実際褒めてるんだけどねぇー」
化け物が何を言うか。俺よりも強大な力を持ちながら、建物を作るという能力が使えないわけはない。ナガルティーニャが謙遜する人間ではないことは彼女との付き合いで何となくわかっている。おそらくは、俺の凄さを他の人間に知らしめるためにやったことであるため、彼女の言ったことは完全なゴマすりである。
仮に本心から出た言葉であったとしても、俺よりも遥かに高い魔力と身体能力を持ち合わせているナガルティーニャの手に掛かれば、この程度の建築物などものの五分と掛からずに出来上がってしまうことだろう。俺が一時間も掛けた建物をたった五分でだ。
それがわかっているからこそ、奴の言葉はただのゴマすりの言葉であり、上から目線の見下した態度といっても差し支えないのだ。たとえ本人にそのつもりがなかったとしても、自分よりも実力のある相手にそのような言葉を口にするということは皮肉以外のなにものでもない。
「な、ななななんですかこれはぁー! ロ、ローランド様!? 昨日来た時はこんな建物ありませんでしたよね? どういうことですか!?」
ナガルティーニャの言葉を皮切りに静寂から一変悲鳴のような叫び声を上げたのは、意外にもトーネルだった。未だ呆然としている親戚のトールを尻目に、俺にどういうことかと詰め寄ってくる。
ここか更地であることを確認しているのは、トールとトーネルのみである。他の従業員や孤児たちは初見であるため、精々が「わぁー、凄い建物が建ってるなー」程度の感想しか抱かないが、二人からすれば話は違ってくる。
昨日まで更地出会った場所にこれほどまでの大掛かりな建築物が出現するなど、それこそどんな魔法を使ったのかと疑うところだが、実際のところは魔法によって建築したため、彼らの疑問は概ね正しいとも言える。
「昨日、宿に戻る前に魔法で作った。あとは、必要な家具やらなんやらを揃えれば、すぐにでも営業ができる」
「そ、そんな馬鹿な……」
「そんなことよりも、すぐに必要なものをリストアップして俺に渡してくれ、できれば数日中に営業を始めたいからな」
「……」
俺の言葉に再び黙り込んでしまったトーネルを尻目に、俺は従業員の女性たちとジャックたち孤児をアパートと孤児院に案内する。この二つでの決まり事については、女性たちの中からは接客スキルがカンストしているナリーという女性とジャックに一任することにした。
とりあえず、女性たちには部屋割り、孤児たちは孤児院を探検してこいと言って、俺は再びトールとトーネルの元へと戻った。ちなみに、ナガルティーニャとリアナは俺にくっついてきている。
「おい、お前もすぐに仕事を始めてくれ」
「ローランド様……」
「これはさすがに流せませんよ……」
俺の言葉に呆れというよりもやるせなさが滲み出たような何とも言えない顔を浮かべながら、二人が視線を向けてくる。おっさんのそんな視線を向けられても鬱陶しいだけだったが、これからここで仕事をしてもらうことになるのだ。早く慣れてもらわなければならない。
「何が不満だ? 商会が小さすぎたのか?」
「大きさの問題ではありません。本来であれば、このような規模の建物をたった一日で作り上げるなど常軌を逸しています」
「これが俺の普通だ。慣れてくれとしか言いようがないな」
「トーネル。もう諦めよう。この方は我々とは住む世界が違い過ぎているのだ」
何か不満があるのかと問い掛けるも、別の問題があるようだった。しかし、指摘しようとしたトーネルをトールがどこか諦めたような口調で諭していた。納得しているというよりも、俺に常識を教えようとするのを諦めたといった雰囲気だ。失礼な奴らだ。
一般的に、これだけの建物を作ろうと思ったら、月単位レベルのそれなりに時間が掛かることなど理解しているに決まっている。俺を常識知らずな人間だと勘違いしないでいただきたい。まあ、自重知らずなところがあるのは認めるが……。
何はともあれ、思考停止から復活した二人は改めて商会の内装を見るために中へと入った。そして、商会の中を見て再び思考が停止することになり、再起動するまでに幾ばくかの時が要することとなったことを付け加えておく。一通りトーネルに商会を案内した後、残った最後の問題を解決することにした。そう、リアナについてである。
「リアナ。お前、ここで働け」
「嫌です。私はローランド様に付いていきます」
この調子である。何か根拠があるのか、それとも本能的なものなのかはわからないが、頑なに俺に付いていくことをリアナは主張する。しかしながら、自由気ままなスローライフを掲げている俺からすれば、邪魔な存在でしかないし、俺について来ようとすればそれ相応の実力が求められることになる。
俺の直接指導をすれば、才能がなくてもそれなりに強くしてやることはできるかもしれないが、それとてソバスたちの実力と大して変わりはしない。少なくとも、俺から一本取れるくらいの実力がなければいざという時に足手まといになりかねないのだ。ってか、俺は一体何と戦うつもりなんだ?
「お前では足手まといになるし、はっきり言って迷惑だ。それならば、ここで俺の役に立ってくれれば、俺としても助かるのだが」
「……ローランド様、その顔は反則です」
できるだけわかりやすく本心を伝えると、リアナは困り顔でそんなことを言ってくる。どうやら、知らず知らずのうちに上目遣いで話していたようで、その顔が彼女の琴線に触れたらしい。
「ローランド様にそんな顔されたら……我慢できなくなっちゃいますぅ~。てことで、頂きま――」
「させるかぁー!!」
発情した雌犬ような顔を浮かべながら迫ってくるリアナを阻止するべく、俺と彼女との間にナガルティーニャが割って入る。インターセプトだ。
おそらくこうなることを先に予想していたようで、割って入ったタイミングが絶妙だった。こいつも一体何と戦っているのやら。
俺が内心で呆れている中、リアナとナガルティーニャの攻防が繰り広げられていたが、俺はリアナに向かって言い放つ。
「そういう訳だから、リアナ頼むなー」
「ちょ、ちょっとぉー! 私は了承してませんよぉ~!?」
彼女の言葉を背に受けながら、俺は今後の商会について話し合うため、トーネルがいる商会長の執務室へと向かったのであった。ナガルティーニャの「ローランドきゅんのことはあたしに任せて、あんたはここで精々ローランドきゅんのために働きなさいな」という世迷言が耳に入ってきたが、ストレージから取り出したゴブリンの木工人形を、奴に向かって投げつけておいたことを付け加えておく。
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