ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

309話「顔合わせと土地内見」



「は、初めまして。トーネル・ネコールといいます」

「ローランドだ。さっそくで悪いが、商会を立ち上げるからそこの代表者になってくれ」

「はい? 一体どういう……」

「ローランド様、それでは説明になっておりません。もう少し順序立てて話さなければ」


 商業ギルドへやってきた彼トーネルを呼び出した。いきなりの呼び出しに戸惑っていたトーネルだったが、俺のざっくりとした説明でさらに戸惑いを加速させているようだった。


 俺の言動を嗜めるトールに詳しい説明を任せ、それを受けて彼がトーネルに一から説明をしていく。


「というわけで、この方が新しく商会を立ち上げたいとのことで、その商会の代表者となる人材も探していたので、あなたの名前を挙げさせてもらったという訳です。以前からあなたも自分の店を持ちたいと話していたので、これはあなたにとっても悪い話ではないと私は考えています」

「……」


 トールの説明を受けて、トーネルは今回の話を自身の中で噛み砕いて吟味しているのか、部屋に静寂が訪れる。だが、トールの刺すような視線が彼に突き刺さり、その視線が雄弁に物語っている。“お前に拒否権などはないから、この話を素直に受けておけ”と。


 何となくそれが透けて見えるような気がしたが、俺としても融通の利く相手が商会の代表者になってくれれば問題ないため、今回トールの推薦人であるトーネルを無条件に受け入れた。仮に何か問題が起こったとしても、対処できるだけの修羅場を潜ってきている自負はあるため、多少素行の悪い人間だったとしてもまったく問題はない。……その時は、相手が地獄を見ることになるだけなのだから。


 などと、心の中でどす黒い感情を抱いている間に、新しい商会を建てる候補地を見て回るということになり、三人で向かうことになった。トールはギルドの仕事はいいのかと思ったが、俺を相手にすること以上に大事なことはないらしく、部下に仕事を任せてきたようだ。


 それはともかくとして、さっそく商会の候補地となっている場所を回ってみることにした俺は、一つ一つを吟味するためすべての候補地を見たうえで結論を出すことにした。


「ここが一つ目の候補地となております」

「ふむ」


 まず案内されたのは、何もない場所だった。立地自体はそこそこだが、近くに少々治安の悪い場所があり、あまり商売するのには適していない。それが証拠に、以前この場所にもとある商会が建っていたが、治安の悪さから毎晩泥棒に押し入られる空き巣騒ぎが相次いでおり、それが原因で赤字となってしまい、閉店にまで追い込まれてしまったとのことだ。


 敷地の広さ的にもそれほど広い場所ではなく、警備面は問題ないにしても、もう少し土地の広さが欲しいところだ。


「次だ」

「かしこまりました。次はこちらです」


 というような具合で、さらに三つ四つほど候補地を巡ってみたが、ピンとくるような場所はなく、残すところあと一つとなってしまった。


「最後はこちらになります」

「ほう、ここは」


 まず敷地の広さだが、今まで見てきたどの場所よりも広く、シェルズ王国で展開しているコンメル商会がある敷地の1.5倍という広大な土地が広がっていた。建物自体は取り壊してしまったのか更地で、一から建てなければならないが、そこは魔法で何とかなるから問題はない。


 肝心の立地は商業地区よりもやや中心から外れてはいるものの、今までの候補地と比べて好条件であることは火を見るよりも明らかだ。むしろ、よくこんな優良な更地が今まで手付かずで残っていることに驚きを禁じ得ない。


「本当にこんないい場所が空いているのか? 確かに、建物はないが」

「実のところを言えば、何度か商人の方と交渉したことがあるのですが、あちら様の提示した条件とこちらの条件が折り合わず幾度も破談になっているのです」

「その条件というのは?」

「借地の場合、借地料として月に中金貨二枚。購入であれば、大金貨三百枚という条件です。しかも、購入の場合分割での支払いは受け付けず、一括払いのみとなっております」

「なるほどな。それならなかなか買い手が付かないのも頷ける話だ。……そうだな、ここにしよう。大金貨三百枚だったな。行くぞ。商業ギルドに戻って手続きだ」

「「え?」」


 まさかそんな言葉が俺の口から出るとは思っていなかったのか、トールもトーネルも呆気にとられた顔を浮かべている。ふっふっふっ、これでもSSランク冒険者だ。大金貨の三百枚やそこらなど、一括で払えるくらいの持ち合わせはあるのだよ……。


 というよりも、今まであまり金を使わなさ過ぎて、もうそろそろ大金貨換算で一万枚を突破しそうな勢いなんだよなー。モンスターの素材を入れれば、どんぶり勘定でも十万枚は下らないほどの資産を持ち合わせている。わあー、すげー、俺ってお金持ちぃー(棒)。


 すぐに二人を伴って商業ギルドへと戻り、すぐに例の更地の購入手続きを行った。当然、大金貨三百枚一括払いである。


 ギルドへと戻ってきた二人は、最初冗談だと思っていたようだが、俺がストレージから取り出した三百枚の大金貨が入った袋をテーブルにドサリと置いてやると、俺の言っていることが冗談ではないことを悟ったようだ。


 すぐに金貨の枚数を数え、三百枚あることをトールが確認すると、そのまま購入手続きが完了したかに思えたのだが、名義人の話になった際、商会の代表者となるトーネルがごね始めたのだ。


「私には荷が重すぎますよ!」

「なんでだ? 商会の代表者が名義人になるのは当然のことだろう?」

「どこの世界に、大金貨三百枚という高額な権利書を軽い気持ちで他人に渡す人間がいるのですか!?」

「ここにいるが?」

「とにかく、土地の名義人はあなたでお願いします。でなければ、代表者の件はお断りさせていただきたい!!」


 そこまで言われてしまったため、こちらが折れる形で、名義人は俺ということで決着がついた。だが、俺としては各地を行ったり来たりするため、権利書が必要になった時に俺がカフリワにいるとは限らない。そのため、権利書についてはトールに預けておくことにした。


「できれば、購入者であるローランド様に持っていてほしいのですが……」

「貴重品の管理も商業ギルドの人間として当然のことだろう? それに、権利書が必要になった時、俺がカフリワにいないかもしれないからな。だから、これはトールに預けておく」

「まあ、そういった事情なら預からせていただきます」


 俺の説明に渋々ながらも了承してくれたが、納得はいっていないという様子で、複雑な表情で渡された権利書を受け取っていた。これで、土地の手続きが終わり、続けて商会立ち上げの手続きも完了した俺たちは、次に従業員を雇うため、ある場所へと向かうことにしたのであった。

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