ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
307話「思わぬ出会い」
「いらっしゃい、いらっしゃい」
露店の店員が放つ客引きの声が飛び交うひと際賑やかな場所がある。カフリワの中心地にある市場である。
毎日数十万人が利用すると言われているこの巨大なマーケットは、人々の日々の生活を支えている重要な拠点の一つであるといっても過言ではない。
そんな市場に足を踏み入れた俺は、さっそく目新しい食材や商品がないかどうか物色していく。何か珍しいものがあれば買って帰るのも市場散策の楽しみの一つでもある。
と喜び勇んで市場を巡ってみたのだが、早々珍しいものなどあるはずもなく、今まで見てきた市場にある商品ラインナップとほとんど変わらない。
調味料を主に取り扱う店や米なども扱っている店も見てみたが、どれもすでに我が手中にあるものばかりで、新たな発見に出会うことはできなかったのである。
それでも、途中モンスターの肉を使ったよくある肉串を売っている店で買い食いをしながら歩き回っているだけでも個人的にはいい気分転換になるので、新しい発見がなかったという不満もすぐに薄れていった。
肉串をリスのように頬張りながら歩いていると、進行方向から走ってくる幼い少年や少女の姿が見られた。おそらくはこの都市の孤児だろうと当たりを付けたが、問題は孤児たちの俺に対する行動にあった。
「まあ、普通ならカモに見えるんだろうな」
自分とそれほど年の違わない田舎から出てきたような雰囲気を持つ少年が、両手に肉串を持ちながら歩いている。日々の食事にも事欠く孤児たちにとって、格好の獲物と思われても致し方ないことだと本人である俺すらも思ってしまうが、残念ながらカモではないし、人が食べてるものを他人に無償でやるほどお人好しでもない。
突撃してくる孤児たちをのらりくらりと躱しながら、市場の露店を散策していく、孤児の中には俺を捉えられないと判断し、他の人間にアタックを掛けていく者もいたが、子供が故に意固地になり、ひたすら俺に突撃を繰り返すというワンパターンな行動を取る孤児もいた。そんな状況に痺れを切らしたのか、比較的年長の孤児が俺に話し掛けてきた。
「おい、そこのお前」
「なんだ?」
「話があるからちょっとこっちにこい」
「俺にはないから結構だ」
「いいからこい!」
やれやれ、日々生きていくのが必死とはいえ、人の話を聞かないにもほどがある。そういった人間はのちに破滅の道を辿るというのが相場だったりするんだがな。
孤児が怒り顔を浮かべながら叫んでいるが、子供の怒号など俺にとっては夏の風鈴のように心地いいものであり、寧ろ微笑ましいと思えるほどだ。
まあ、こちらとしても一通り市場を見て回ったところだし、余興の一つとして付き合ってやらんこともないと思った俺は、その孤児についていくことにした。
孤児と共にやってきた場所は、工事現場の資材を保管しておく空き地のような場所で、大通りに使われている石畳や一定の大きさに切り分けられた木材が置かれており、家を持たない孤児たちにとってはちょっとした雨風を凌げる場所としては十分なところだった。
俺が彼らのテリトリーに入ると、今まで隠れていた孤児たち十数人が顔を出す。どの孤児も日々の食べ物に困っているのか、痩せ細り立っているのもやっとといった感じの孤児もいた。
「で、だ。俺に何か用か?」
「食料と金を置いていけ」
「なんだそれは。ただの盗賊行為か? だとすれば、興覚めだな。ただそんなことを言うためだけに俺をこんなところに呼び出したのなら……お前は不合格だ」
「けっ、金持ちの坊っちゃんにはわからんだろうが、俺たちは毎日を生きるのに必死なんだ。そのためには、悪党にだって何にだってなってやる」
「ほう」
その言葉に多少の興味が湧いた俺は、改めて目の前の少年を鑑定する。特にこれといった特殊な能力を秘めているわけもなく、また平均よりもステータスが高いというわけでもない平凡そのものな能力だ。普段の俺なら、物語に登場するモブの一人としてスルーするだろう。
だが、その目は何としても生きたいという強い意志が込められており、今まで出会ってきた人間の中でも取り分け強いものだった。それは、周囲にいる孤児たちも同じようで、彼らからは尋常ではないほどの覚悟が見て取れた。
「お前ら、こういうことをするのは初めてだな。それほどまでに追い詰められていたか?」
「……」
俺の問い掛けに、顔を俯かせて悲痛な顔を浮かべる。おそらくはまともな食事にもありつけず、日々飢えに耐える生活を送ってきたことはなんとなくわかる。
地球でも手に職を持たない人間は住む場所を追われ、近所の公園などでホームレス生活を送ることになる。まさに働かざる者食うべからずとはよく言ったものだ。
ここいらで、新たな事業を立ち上げるのも一興かと考えた俺は、この場にいる孤児たちをその手足となる役目に据える方法を取ることにした。
「いいだろう。お前らに投資してみるとしようか」
「投資、だと?」
「まずは飯か。ここにいる全員を食わせるまとまった量は持ってないな。……よし、なら久々にアレをやるか」
「おい、一体何を言ってるんだ!?」
「ローランドのイケイケクッキングのお時間です!」
久しくやっていなかったローランドのイケイケクッキングを高らかに宣言すると、孤児たちが何事かと目を丸くする。それは、俺を連れてきた少年も同じだったようで、俺の言葉を聞いて眉を顰めていた。
とりあえず、全員分のテーブルと椅子をストーレジから取り出し、ここで大人しく待っていろとだけ伝え、俺は料理作りを開始する。何を作るのかと模索した結果、今回は胃に優しい具だくさんスープを作ることにした。
作り方は至って簡単で、まず適当な野菜を適当な大きさに切り、鍋に水を張って切った野菜を鍋にぶち込みつつ煮立たせていく、煮立たせ過ぎないように途中から火加減を弱火に変え、じっくりととろ火で調理していき、塩コショウなどの調味料で味を調えていく。
野菜にある程度火が通ったところで、ぶつ切りにしたオークの肉を入れ、雑味となる灰汁を取りつつさらに煮込んでいく。火が通ったところで、味見をして問題がないことを確認すると、取り出した皿とスプーンを座っている孤児たちの前に出してやる。
「おい、なにをやっている?」
「見てわからないのか? 料理だが?」
「……」
少年の顔に「そういうことじゃない」と書いてある気がするが、そんなことは無視して最後の仕上げをして完成である。
出来上がったスープを皿に盛り付けてやるも、何故か食べようとしない。なぜだろう? 味見をして味は問題ないことは確認できているというのに……。
しかし、いい匂いを漂わせる料理の誘惑には勝てなかったのか、次第に料理に手を付け始める孤児たちが現れ、最終的に涙を流しながら貪るように料理を食べるのだった。
それを見届けた後、俺はある場所へと向かって歩き出した。
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