ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
305話「黒幕は豚?」
~ Side ライフハート ~
私はライフハート。栄光あるブロコリー共和国に属する第六十四警備部隊部隊長である。
今私が何をしようとしているのかといえば、違法に人を攫って不当に売り捌いているという疑いのある商会の摘発に向け、部下と共に商会の周囲を密かに取り囲んでいる。
我がブロコリー共和国では奴隷制が他国と比べてかなり規制されており、既に奴隷契約を結んでいる他国の者も、この国で奴隷を冷遇していた場合、何かしらの処罰を受けるほどだ。
それでも裏取引で奴隷の販売が行われており、その度に我らが摘発に向けて動いてはいるものの、すぐにまた新たな人身売買の組織が出てくるという鼬ごっこを繰り返している。
そして、今まさにその人身売買を行っている商会に突入しようとしたタイミングで、突然商会の内部から爆発が起こった。
一体何が起こったのかと呆気に取られていると、商会の主である男の首根っこを掴みながら出てくる少年とその少年と同年代くらいの少女二人が出てきたかと思ったら、少年が高らかに宣言した。
「誘拐犯の黒幕召し捕ったりー!!」
「ええええええええええええ!!」
少年がそう言い放った瞬間、私も含めた部下全員が驚愕の声を上げたのだった。
少年から詳しい話を聞いたところ、次のような内容を語ってくれた。まずは、我々が商会を包囲する少し前まで遡る。
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「ここが黒幕のいるアジトだ」
俺がそう言ってやると、ナガルティーニャとリアナの二人は意外そうな顔をする。二人の中で一体どんなものを想像していたのかは知らないが、こういう場合、一見すると怪しくなさそうな雰囲気の場所の方が、逆に怪しかったりするものなのだ。
犯罪が行われている場所のレクチャーについてはこれくらいにして、さっそく突入しようと思う。見たところ商会のようだが、まずは客を装って入るとしよう。
「ローランドきゅん、本当にここで間違いないのか? 見たところ普通の商会みたいだが」
「こういういかにも普通の商売で生計を立ててますって場所の方が逆に怪しかったりするんだよ。表の稼業と裏の稼業ってやつだ」
「そんなもんかねー」
俺の説明に半信半疑のナガルティーニャだったが、リアナは「そういうものなのですね~」と納得してくれたようだ。
しばらく店内を徘徊していると、痩せこけた細身の男が手を揉みながら近づいてきた。どうやら、俺たちのことを裏稼業の関係者だと思っているようだ。
「お客様、何かお探しでしょうか?」
「そうだな。商会長と話がしたい。例の件について」
男には敢えて用件の内容は伝えず、濁した状態で言ってみた。すると、にやりと顔を歪ませた男が「こちらへ」とだけ言って、俺たちをどこかへと案内を開始する。
しばらくすると、商会の奥の部屋にある扉を男がノックし、中にいた別の男の声が聞こえてくる。
「誰だ?」
「お客様がお見えになりました。例の件について、お話があるとのことです」
「……通せ」
促されるまま中に入ると、典型的な悪徳商人の特徴をこれでもかとてんこ盛りしたような人物が椅子に座っていた。生活習慣病予備軍を体現したようなブクブクと太った体と脂ぎった顔は、ゴブリンのような醜悪さとなっている。太っていることで常に暑苦しいのか、額だけでなく顔や体全体が汗だくで、男の体温で部屋の窓が曇るほどだ。
さらに酷いのが奴の体臭で、何日も風呂に入っていないようなすえたような臭いで、その体臭のきつさにナガルティーニャとリアナが思わず嫌な顔をしていた。
「ぶひひひ、これはこれはお坊ちゃま。この私めにお話しがあるということですが、一体どういったお話しで?」
「……」
男が問い掛けてくると、その視線をナガルティーニャとリアナの二人に向けているのがわかった。あんな醜い人間に欲にまみれた視線など向けられた日には、嫌悪感によって全身鳥肌が立つことは必至だろう。俺なら今すぐにでもこの世から消してしまうくらいだ。
醜い、あまりにも醜いその姿に、一瞬顔を顰めそうになるのを我慢してここに来た用件を伝える。当然だが、奴と取引するために来たわけではないので、わかりやすく端的に伝えてやった。
「お前が雇った人間の手によってうちの連れが攫われそうになった。その落とし前を付けさせに来た」
「なんだと? その女どもを売りに来たのではないのか!?」
「……今の言葉は自供したと受け取るが、よろしいな?」
「くぅ……お前たち、仕事だ!!」
これ以上この豚……もとい、男と関わりたくないと思った俺は、咄嗟に魔法で自身の体周辺に薄い膜を張って奴の体臭をシャットアウトしつつ、このまま街の警備兵に引き渡してやろうと考えていた。
一方の男は、新たに商品が入荷すると思っていたところ、自分が不正な取引を行っていることを知られてしまったことに対し臍を噛む思いだったが、吐いた唾は吞めぬとはよく言ったもので、不正の事実は誤魔化しようがない。
仕方なく、男は手持ちのカード切ることにしたようで、武装した男たちが入ってくる。俺はナガルティーニャにさりげなく目配せをして「任せていいか?」と目で会話を試みる。彼女も片目を瞑りウインクをして了解の意を伝えてくる。まさに阿吽の呼吸である。
「ぶひひ、ぶひひひひひ。秘密を知られた以上はお前たちを生かして返すわけにはいかない。ここで死んでもらおう」
「そうか。ならば、自分の身を守るために俺たちも戦わざるを得んな。先に言っておくが、これは正当防衛だ。悪く思わんでくれたまえ」
「殺せ! 女は生け捕りにしろ。夜になったら私が可愛がってやろう」
その一言で、ナガルティーニャとリアナたちがおぞましいとばかりに体を震え上がらせていた。男の俺ですら気分を害するんだ。当事者である二人がどんな気持ちだったかは察するに余りある。
それと同時に、どうやらナガルティーニャの怒りのラインを越えてしまったようで、武装した男たちに果敢に襲い掛かった。普通ならば、武装した屈強な男と武器を持たないか弱い少女――本当は、化け物――が戦えば、どちらが勝つかは子供でも理解できるが、今回は相手が悪すぎた。
「ぐはっ」
「べぼっ」
「ごぼぁ」
あっという間に武装した男たちは無力化され、一気に形勢が逆転する。おいおい、向こうから襲ってきてくれないと正当防衛が成立しないのだが、もう少し待てなかったのかと内心で彼女に悪態をつく。
そりゃあ、あんな男にそんなことを言われれば逆上する気持ちもわからんではないが、発言したのはあの悪徳商人であって、用心棒の男たちではないでしょうに。
「さて、年貢の納め時だ」
「くそう、捕まってたまるか! 出でよ我がしもべ。我が敵を討て!!」
「うん? 召喚術か……いいだろう。出てこいマンティコア」
男が着けていた腕輪が光り出し、現れたのはAランクモンスターのオークキングが現れた。これ幸いとばかりに、久々に召喚術を使うことにし、相手の召喚獣に対してマンティコアを呼び出したまではよかった。だが、そのあとがよくなかった。
「主、お呼びであるか?」
“バーン”
残念ながら、マンティコアの体の大きさのことを考えておらず、狭い部屋では納まりきらず、まるで爆発したような轟音を響かせた。すぐさまマンティコアを戻したが、男が召喚したオークキングはマンティコアの体に押しつぶされてしまい、かろうじて召喚主の男を守ることはできたが、その圧力によって気絶してしまった。
苦せずして決着してしまったが、面倒なことは早く終わるに越したことはないと考え、そのまま男の襟首を引っ掴み、外へと引っ張り出した。
騒ぎを聞きつけて集まってきた野次馬に向かって、俺は高らかにこう宣言したのである。
「誘拐犯の黒幕召し捕ったりー!!」
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