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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

300話「アレがない……だと?」



「ようこそブロコリー共和国の首都【カフリワ】へ。身分証のご提示をお願いします」

「ん」


 ブロコリー共和国の首都に到着した俺は、すぐさま都市に入る手続きを済ませる。手続きは実に丁寧なもので、とても無骨な兵士が行っているとは思えないものだった。


 特に問題なく都市へと入ることができた俺は、ひとまず冒険者ギルドへと向かう。アレの確認と共に情報収集を行うためだ。


 ちなみに都市の造りは他と大差はなく、石畳で敷き詰められた今まで見てきた建築様式で、使われている建材もどこにでもある普通のものだ。


 そんな代わり映えのしない光景を見ながら歩いていると、すぐにギルドへと到着する。さすがは首都というだけあって、冒険者ギルドの建物もそれなりの大きさをしており、シェルズ王国のギルドと比べても遜色はなかった。


「さて、この国でもアレは健在かな?」


 やはりというべきか、新しい冒険者ギルドにやってきた際にはこれを確認しておかねばなるまいという気持ちになってしまう。該当する人物がいないか確認してみるも、どういうわけかそれらしい人物は見当たらない。


 今日は出勤していないのかとも思い、受付カウンターで例の人物たちの特徴を上げてみたが、そんな人物は冒険者ギルドにはいないという答えが返ってきた。


「まさか、ここにきて法則崩れが起きてしまうとは……。そういえば、パチンコ好きの前世の友人が言っていたな。“法則崩れは超激熱だ”と」


 何のことかはわからないが、前世の友人がパチンコという遊技台の素晴らしさを語っていた際、法則崩れについて言及していたことがあった。なんでも、期待度の高いリーチに発展する時に液晶画面に示唆されたリーチと異なるリーチに発展したり、いつもとパターンが異なる演出が出たりすると法則崩れとなって確定レベルの超激熱なんだとか。


 彼が言っていたことの半分も理解できなかったが、とにかくいつもと違うパターンの出来事が起こると、良いことが起こるということを言いたかったのだが、それは突然現れた。


「いらっしゃいませませ~。冒険者ギルドへようこそ~」

「……」


 その姿は、異様というよりも面妖だった。見た目は十代の少女だというのに纏っている雰囲気は熟練の職人かと思うほどの覇気を纏っており、彼女が見た目通りの年齢ではないことを窺わせる。


 身長は百四十センチ後半とやや低めで、少し尖がった耳と緑色の髪に黄色い瞳はある種族を連想させる。その種族とは、まさに――。


「エルフか」

「ふふーん。はずれです~。よく間違われますが、こう見えてもハーフエルフです~」


 こちらの予想に反して、自身をハーフエルフだと明かす。その顔は、どこか不気味なほどに落ち着き払った表情を浮かべており、まるで嵐の前の静けさのような触れてはならないものに触れる直前のような不安感がある。そんな彼女に警戒しつつ、俺は問い掛けた。


「お前はここの職員か?」

「はい~。そうですよ~」

「なら、こんな職員に心当たりはないか?」


 一応、彼女にも今まで出会った例の三人の特徴を言ってみたのだが、返ってきた答えは他の職員同様「そんな職員はいない」というものだった。


 その表情はどこか含みのあるもので、何かを企んでいるのか、はたまた何も考えていないのかよくわからないものだ。ひとまずは、アレの確認ができたということで、もう一つのアレを確認するべく、おすすめの宿を紹介してもらいその場を後にした。


 冒険者ギルドを後にする時、何か言いたげな顔をしていた彼女だったが、俺の予感がこれ以上彼女に関わってはいけないと告げていたため、逃げるように宿へと向かった。


 勧められた宿に向かいアレの確認をしてみたが、女将も看板娘もいつものアレではなかった。……なにかがおかしい。一体どうなっているんだ?


「とりあえず、食事付きを三日分で頼む」

「まいど、なら小銀貨六枚だね」


 言われた金額を支払い、受付の人間から鍵を受け取って宛がわれた部屋に入りベッドに腰掛ける。そして、今回のアレについて少し考えてみることにした。


 まず、なぜ冒険者ギルド並びに今回の宿に例の彼女らがいないのかということを考えてみた結果、いくつかの可能性を見出した。


 一つは、例のアレがシェルズ王国を中心とした隣国のみ伝わっているということだ。現実的に考えて、各冒険者ギルドと街にある宿の一つにアレがあるとすれば、天文学的な確率の下に成立していることになる。それこそ、ファンタジーで片づけてしまわなければない程に……。


 もう一つは、実は今の俺の実情にも繋がってくることなのだが、今俺が幻術に掛かっていて幻覚を見せられている場合だ。残念なことに、今の俺は毒や麻痺などの状態異常に関する耐性スキルを持っていない。そのため、そういった状態異常の攻撃を食らった場合、その影響をもろに受けてしまう。


 もちろん、圧倒的なステータスがあれば、ある程度の状態異常にも対処できなくはないが、相手が状態異常を得意とする使い手だった場合、耐性スキルなしでは状態異常に抵抗するのにも限界がある。


 最後の可能性としては、アレが必ずしも冒険者ギルドや街の宿に存在するというわけではないというものだ。たまたま、当たりを引き続けていただけであり、シェルズ王国の中にもアレがいない冒険者ギルドが存在するのかもしれない。


 いずれにせよ、今回はいつもと何か勝手が違うような気がするため、気を引き締めていきたいと考えている。強くなりすぎてしまったことで、生命に対する危機感が薄れてしまっている。


「今回は、慎重な行動を心掛ける必要がありそうだ。あとは、耐性スキルもゲットしていきたいところだな。……毒草でも食べてみるか?」


 などと冗談めいたことを口にしつつ、今日はそのまま目立った行動はせず大人しく部屋で過ごし、夕食を食べ終えた後寝ることにしたのであった。

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