ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
298話「王妃との約束と、騎士の稽古」
「と、いうわけだ」
「なるほど」
セコンド王国の上層部との邂逅ののち、俺はすぐさまシェルズ王国の国王に会いに行った。瞬間移動でいつものように現れた俺に対し、もはや当然のように「む、何か用か?」と返すようになった国王に感心していいのか呆れていいのかよくわからない感情を浮かべつつも、俺はセコンド王国の王妃との約束を果たすべく、一通の書状を手渡す。
そこに書かれていた内容は、今までの歴史の中で起きたセコンド王国の侵攻に対する謝罪と、全面的にこちらが悪いということを認める内容のものだった。
「それで、俺はどうすればよいと思う?」
「俺に聞くなよ。国王だろ、自分で答えを出せ」
「ふむ、とりあえず謝罪は受け取るが、今までの内容が内容だけにこの書状が信憑性に欠けるのもまた事実だ。詰まる所、これからのセコンド王国の対応次第といったところだ」
「まあ、それが妥当だな」
国王としての的確な返答をする彼に対し、その意見に賛同する。そして、俺が直接見た内容も合わせて報告し、今後の対応を話し合う。
セコンド王国の王妃リリアンローズとの条件により、もし彼女がセコンド王国を掌握し今後シェルズ王国に対して一切のちょっかいを出さないようにするのであれば、結界の解除までとはいかないまでも、他国との交易だけは継続させても問題ないことを国王に伝える。
「であるか」
「俺からは以上だ。差し当たって、シェルズ王国がセコンド王国に対してしてやれることは、交易が再開できるよう他国に触れ回ることだな。といっても、王妃リリアンローズが国王を始めとした男どもの手綱を握れるかどうかにかかっているがな」
「子細承知した」
これ以上話し合ってもセコンド王国の情勢が動かない限りは無意味なものになるため、国王との話し合いはこれで終了となった。
伝えたいことは伝えたし、やるべきことはやったので、そのまま帰ろうとしたところ突如として執務室のドアが勢いよく開かれ、見知った人物が現れる。
「やはり居ましたな師匠」
「何度も言わせるなハンニバル。俺はお前の師匠じゃない」
「そんなことよりも、今度こそ稽古をつけてもらいますぞ。ささ、参りましょう」
どこから嗅ぎつけてきたのかわからないが、俺がここに来ていることを察知したハンニバル。逃げられないよう俺の手を取って修練場へと強制連行されていく。……ドナドナ。
連れてこられたのは、学校で言うところのグラウンドのような場所で、踏み固められた土と人の形を模したいくつかの標的が設置されている。広さとしてもそれなりにあり、大人数十人が運動をしても問題ない。
そこにはすでに三十人程度の騎士が集まっており、準備運動は整っているようで、ほぼ全員が体が温まっている状態であった。
「お前たち、今日は師匠に稽古をつけてもらうためにお呼びした。それでは師匠、お願いします」
(くそう、なんでこうなるんだ! ……いいだろう、こうなったらボコボコにしてやんよ)
流れ的に稽古をつけることになってしまった。全員が期待に満ちたきらきらとした顔をしており、断るに断れない状況となってしまっている。
稽古をつけるにあたって、実戦形式の模擬戦を行うことになり、さすがに本物の剣を使って戦うわけにはいかないため、お互いに模擬戦用の木剣を使うことになった。
「一番手は自分です。お願いします」
「ん」
ハンニバルが綺麗な一礼をし、俺が剣を構えることでそれに応える。審判役の騎士が「それでは、始め!」という合図を出すと同時に、身体強化で突っ込んできたハンニバルの攻撃を躱す。
ちなみに、ハンニバルのステータスはA+からS近辺の能力で、実力的には俺が鍛えたソバスたち使用人と同等くらいだ。だが、長年振り続けてきた剣術は伊達ではなく、振りかぶられた剣が地面に叩きつけられると同時に周辺一帯の地面が抉れる。
それでも、俺にはスローモーションの動きのように鈍い動きにしか見えないため、相手の手の出どころを確認してから避け始めても十分に間に合うほどハンニバルの動きがはっきりと見えた。
一方のハンニバルといえば、初撃で決着をつける腹積もりだったようで、自分の渾身の一撃を躱されたことに驚愕の表情を浮かべていた。
「さすがは師匠。俺の全力の一撃をこうも簡単に躱すとは」
「単純に力量差があるからな。お前程度の攻撃なら、おそらく目を瞑っていても避けられるぞ」
「ははは、では改めて胸を借りるつもりでやらせていただく!」
そこからは、ハンニバルの剣を避けることはせずに必ず剣で受け止めるようにすることで、相手の動きやどこに無駄な力が入っているのかを知ることができ、その部分を指摘するという本当に稽古をつけているような感じとなった。
それを見ていた他の騎士たちは、ハンニバルが手も足も出ないことに驚愕していたが、俺との模擬戦を見ていくうちに段々と自分が戦っている場面を頭の中でシミュレートしているようで、徐々に真剣な顔つきに変わっていった。
「はあ」
「大振りが過ぎる。それじゃあ、すばしっこい相手だと懐に入られるぞ」
「とう」
「振りかぶりからの体の重心がぶれている。素振りをするときに、自分の体の重心が今どこにあるのか、次からはそれを確認しながらやってみろ」
「てい」
「腰が入っていない。体全体で剣撃を繰り出すように剣を振れ。こんな感じだ。ふっ」
『おお』
という具合に、一通り模擬戦で戦ってみて気付いた点を挙げていき、時には実際に剣を使った手本を見せる。その威力にギャラリーからざわめきが起こりつつも、ある程度課題となる部分を指摘していき、ハンニバルが肩で息をし始めたので、それで模擬戦を終えることになった。
課題としては、動き一つ一つの効率化と純粋な基礎体力の向上が必要で、専門的な剣術よりもそちらの方が足りない印象を受けた。
「とりあえず、お前らに足りないのは基礎的な能力だ。それを補えば、さらに上のレベルに行くことができるだろう」
『ありがとうございました!!』
それから、がっつりと指導を行い、それぞれの個人課題を指摘した後、満足気に帰って行ったのだが、後になっていいように使われてしまったことに気付いてしまったのだった。
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