ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

297話「条件の提示」



「な、何をするのだサリーローナ! 痛いではないか!?」

「……」


 国王の言葉に、信じられないものを見るような呆れた視線をサリーローナが向ける。彼女がそんな視線を向けるのも無理はなく、国王は自分が何をしたのか理解できていない様子だ。


 国全体を自身が作り出した結界で覆うことができるほどの力を持っている魔法使いを敵に回すということがどういうことなのか理解しておらず、あまつさえ武力を持って断罪しようとする思慮に欠ける愚行を犯そうとしているのだ。


 少し頭の回るものであるならば、敵対するような行動ではなく謝罪と反省の態度を見せ、今後の行動についても真摯な態度で取り組むべきだと判断するだろう。だというのに、未だにこちらを侮る態度は実に度し難いものである。


「ローランド様、我が愚父が申し訳ございません。重ねてお詫び申し上げます」

「何故この者に謝罪するのだ? こやつは――」

「だからお黙りなさいと言っているでしょう!」

「ごぶらばべぶりぼっ」

(この王女、いい仕事してますねぇ~)


 国王がさらに愚かなことを言おうとしているのを即座に察知したサリーローナは、高速往復ビンタを国王にお見舞いする。その勢いは凄まじく、再び吹き飛ばされた国王の頭上には、ヒヨコがくるくると飛び回っている幻覚が見えるほどだ。


 一仕事終えたとばかりに「ふう」と一つ息を吐きだしたサリーローナは、重ねてこちらに謝罪の言葉を述べ、すぐに俺を牢から出してくれた。別に自力で脱出はできたが、彼女の申し訳なさそうな態度を見て彼女にやってもらうことにした。


 その後、牢で伸びている国王を尻目に俺はこの国で実質的に実権を握っているという王妃の下へと案内をされる。ここからはセコンド王国の行く末を見極める大事な場面であるため、久々のシリアスモードで行こうと思う。


「お初にお目にかかります。私はこの国の王妃であるリリアンローズと申します」

「ローランドだ。それで、俺を呼んだ用件を聞こう」

「はい。この度は我が国の男衆がしでかした戦争について謝罪をさせていただきます。つきましては、この書状をシェルズ王国の国王陛下にお渡ししていただきたいのです。本来であれば、我々が出向いて直接お渡しするのが筋ですが、現状それが難しいので……」


 何かと思えば、謝罪とシェルズ王国に対する正式な謝罪文を国王に手渡してほしいという依頼だった。彼女たちの本音を言えば、自分の治める国に張られた結界を解いてほしいというのが正直なところであり、本当ならそのことについて懇願するのが為政者としても人間的な観点から見ても普通だ。


 だというのに、敢えてそのことについては言及せずまずは国としての筋を通すことを優先し、迷惑をかけた相手に謝罪する姿勢を見せたのである。


(確かに、女どもは優秀なようだな)


 もしここで、俺に結界を解いてほしいと懇願していたら、俺は幻滅していたところだ。だが、王妃は自分の国が隣国に迷惑をかけたことに対しての謝罪のみに留めた。本来なら、結界を解いてほしいと言いたいところをぐっと堪え、今はそれよりも優先すべきことを優先したのである。


「わかった。その願いは叶えてやる」

「ありがとうございます」

「それと気が変わった。もし、お前たち女どもがこの国を掌握し、今後男どもの手綱を握れるというのならば、結界の解除は別として俺が他国との交易が再開できるように取り計らってやろう」

「ほ、本当ですかっ!? ……あっ」


 やはりというべきか、俺に結界を解いてほしいという本音を隠していたようで、俺の提案に食いついてきた。そりゃあ、国境にあんなものがあっては隣国との国交に支障が出るのも当たり前だ。


 結界はあくまでもセコンド王国の人間を外に出さないものであって、他国の人間をセコンド王国に入れないようにするためのものではない。だから、他国がセコンド王国と取引したいのであれば問題なく取引が可能だ。そのための口添えくらいならば、してやらんこともない。だが、忘れてはならない。


「あくまでも、こちらが提示した条件を達成できればの話だ。男どもをなんとかできなければ、五百年間他国との交流は断絶される」

「わかっております。ローランド様がくださったこの機会、必ずや成し遂げて御覧にいれます!!」


 少し甘いとは思うが、俺としても少数の馬鹿が原因で大多数の人間に迷惑が掛かることは忍びないと考えている。その問題を解決できるというのであれば、結界の解除も視野に入れていいとすら思っているのだ。


 しかしながら、現状問題となっているセコンド王国の国王を始めとする男の上層部たちを何とかしなければ、再びシェルズ王国にちょっかいをかけてくるのは火を見るよりも明らかだ。


 この国の女性陣が優秀だというのであれば、彼らに取って代わってこの国を治めていってほしい。そして、ゆくゆくはシェルズ王国とも和解し、国交を結べていければいいのではないかというのが俺個人の意見だ。


「では、俺はこれで失礼する。この国の馬鹿どもの掃除を精々頑張ることだ」

「かしこまりました」

「精進いたします」


 そう言って、俺に頭を下げたリリアンローズとサリーローナの美しい所作を一瞥すると、俺は彼女たちの部屋を後にした。一応、犯罪者として連行されてきているため、引き続きサリーローナが城の入り口まで案内してくれることになったのだが、ここでちょっとした世間話で俺についての質問があった。


「ところでローランド様。ローランド様には、将来を誓い合った女性などはいらっしゃるのでしょうか?」

「……今のところそんな女はいないな」

「で、でしたら! わ、私などは如何ですか?」

「……」


 ……これだよ。女の影がないと見るやすぐさま自分をプッシュしてくる。策士というべきか、がっついているというべきか……。


 とにかくだ。まだ成人していない十三歳の俺に婚約者や許嫁など無用の長物であり、そんなものは少なくともあと五年は必要のないものである。であるからして、俺の答えは最初から一つだ。


「悪いが、俺はまだ十三。そんなことを考える気はさらさらない。少なくともあと五年は縁談話は考える気はない」

「なら待ちます! ローランド様がその気になるまで、ずっとお待ち申し上げております!!」

「……」


 しまった。諦めさせるつもりが婚約の予約のようなものをさせられてしまった。これではティアラたちと何も変わっとらんじゃないか……。


 自分の軽率さを内心で呪いながらも、とりあえず問題の先送りでしかないが、彼女とはしばらく距離を置くことにし、俺は王城を後にした。

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