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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

296話「国王と王女」



「やれやれ」


 今自分が置かれている状況に、そんな言葉が思わずこぼれる。現在、俺は王城地下の牢屋に幽閉されていた。


 というのも、あのブランド男が連れてきた騎士というのは、どうもブランド男の甥っ子か何かで、武功によって独自に貴族の位を獲得した人間だったらしく、親戚であるブランド男の言葉を信じたことによって城に連行されることとなった。


 もちろん城へとやってきた理由は明白で、セコンド王国の上層部がどの程度腐っているのかを見極めるためだ。もし救いようのないほどに腐敗が進んでいた場合、そのまま放っておくつもりではあるが、無関係な国民に迷惑がかかってしまうため、できれば落ち着いた形に持っていきたいと考えている。


 俺としては、まともな王族の一人がいて、そいつにセコンド王国を任せることができるようならば、いろいろと支援をすることも吝かではない。尤も、俺がそこまでしてやる義理もないのだが……。


 とにかく、今回のセコンド王国来訪の目的はあくまでも観光が目的であり、セコンド王国の現状の視察がメインではない。そのため、どちらかといえば隣国があまり栄えていないと観光する甲斐がないのはつまらないのだ。


 セコンド王国に結界を張った張本人としては、そんな理由で結界を解いてしまうことになるのはなんとも複雑な気分になるが、俺は弱い者いじめは趣味ではないので、今後セコンド王国がシェルズ王国にちょっかいをかけない約束をすれば、限定条件付きでの結界の緩和も視野に入れている。


 このまま放っておけば、いくら大国といえど国力の低下は否めず、少なくない罪なき犠牲者が出てしまう。実際、もう被害は出始めており、何とかしなければならないレベルにまで来ているのは火を見るよりも明らかであるため、今回この国の王族たちがどの程度の器かを見に来たのである。


「ふっ、上から目線甚だしいけどな」


 自分の立場を客観的に見て思わず笑みがこぼれる。ただの一介の冒険者に過ぎない俺が、王族を見極めるなどとおこがましいと思いながらも、王族がやってくるのを今か今かと待っていると、地下牢の入り口から複数の足音が聞こえてくる。


「貴様が我が国を結界で閉じ込めた魔法使いだな」

「この国の王か。そうだといったらどうする?」


 そこに現れたのは、近衛騎士を伴った四十代の中年の男だった。煌びやかで豪奢な格好をしているあたりかなり身分の高い人間だと推測できたので、試しに国王かと問い掛けると「いかにも」という答えが返ってくる。


「貴様を処刑する前にいくつか聞きたいことがあってな。何故、我が国を結界で閉じ込めた」

「そんなことを今更聞いてどうする。それに、お前自身そういったことをされる自覚があるのではないか?」

「貴様、国王陛下に向かってなんて口を聞くのだ! 今すぐその首叩き切られたいのか!!」

「止めよ」


 近衛騎士たちが殺気立ち始めたが、国王の一言で一旦は鎮まる。静かになった地下牢に国王の「ふっ」という笑いが響き渡る。そして、懺悔するようにこの国について語り始めた。


「知っておるかもしれんが、この国は元々シェルズ王国の王族の兄弟が喧嘩したことで興った国だ。だからこそ、我々セコンド王国の王族は幼き頃からこう教えられる“いつかシェルズ王国を取り戻すのだ”と。そして、今まで我が国は祖国を取り戻さんとシェルズ王国に幾度となく戦争を仕掛けてきた。それは揺るぎのない事実だ。そのために、我々は多くの犠牲を払ってきた」

「だから、自分たちは悪くないとでもいうつもりか? そんなのは詭弁だ。いくら御託を並べたところで、お前らが戦争という非生産的な行動を取ってきたことに変わりはない。しかも、その理由が兄弟喧嘩という極小さく些末な出来事であるという事実。長い歴史において和解のチャンスはいくらでもあっただろうに、それを棒に振ってきた。今回のことも身から出た錆、自業自得としか言いようがない。それが証拠に、シェルズ王国以外の国々がお前らに救いの手を差し伸べていないのがいい証拠だ」

「貴様ぁ!!」


 俺の反論にさらに殺気を募らせた近衛騎士たちが、剣を抜き今にも襲い掛からんとしている。正論をぶつけられて逆切れするとは、まったくもって恐れ入る。


 そんな近衛の態度にため息を吐き、先ほどよりも厳しい態度で「いい加減にしないか!」と国王が一括する。その覇気は相当なもので、あれだけ殺気立っていた騎士たちが片膝をついて平伏している。


「名を聞こう」

「人に名前を聞くときは、まずは自分の方から名乗るのが礼儀じゃないのか? それに、処刑しようとする人間の名をわざわざ聞くこともないだろう」

「……そうだな。我が名はセブルス・フィル・ガイル・セコンドだ」

「ローランドだ」

「そうか、ではローランドよ。我が国にかけた結界を解いてもらおうか」


 まあ、セコンド王国側からすれば当然の要求だな。だが、忘れてはいけない。あの結界は、今までセコンド王国がやってきたことに対するペナルティであり、断罪であるということを。


 つまりは、日本で言うところの有罪に対しての懲役○○年や罰金○○万円という判決と同じなのだ。であるからして、セコンド王国がやってきたことを何かしらの形で清算しない限りは、俺が結界を解くことはあり得ない。


「断る。お前たちはやりすぎた。その罪を償わない限り、あの結界を俺が解くことはない」

「たとえ死んでもか?」

「あの程度の結界に四苦八苦している連中に、俺をどうこうできるとでも思っているのか?」

「なら、試してみよう。……殺せ」

「お待ちくださいお父様!」


 交渉が決裂し、一触即発の雰囲気を帯び始めたその時、俺たちの間に割って入った人物がいた。容姿は豪奢なドレスに身を包んだお姫様風の少女であり、年齢は二十歳くらいに見えるほど大人びて入るものの、よくよく観察してみれば俺よりも少し年上くらいの少女だということがわかる。


 国王のことを父と呼んでいるということは、この国の王女であるということが推測できる。その少女が国王に向かって必死な様子で進言する。


「お父様、このような馬鹿な真似はお止めください!」

「何を言うか、サリーローナ。今から我が国をあのような結界で閉じ込めた下手人を処刑するためにだな――」

「だまらっしゃい!」

「ひばぶびぼっ」


 国王が、サリーローナと呼ばれた少女に今の状況を説明しようとしたのだが、それを遮るかのように彼女の平手打ちが国王の顔に炸裂する。


 その威力は一国の姫君にしてはなかなかのもので、その威力に国王の体が吹き飛ぶ。……おいおい、一応そいつこの国のトップじゃねぇのかよ。そんなことしていいのか?


 そんな俺の疑問に答えてくれる者はこの中にはおらず、俺がどうしたものかと悩んでいると、先ほど国王を吹き飛ばした少女が牢屋の中の俺に向かって頭を垂れて平伏する。


「魔法使い様、お初にお目にかかります。私はこの国の第一王女サリーローナと申します。先ほどは我が父セブルスが、とんだご無礼を働いてしまい面目次第もございません」

「それよりも、あれをあんな目に遭わせてしまっても良かったのか? 一応、国王だろアレ?」

「問題ございません。あんなのはただのゴミです。生きているだけで迷惑しか掛けていない存在する価値もないただの穀潰しです。死んで喜ばれることはあっても、惜しまれることはございません」

「お、おう……そ、そうか。それながいいが……」


 何もそこまで言わなくてもいいのではないだろうかという感想が浮かんだが、詳しい話を聞いてみると、実際に実務などの統治を行っているのはサリーローナや彼女の母親……つまりは王妃らしく、国王のやっていることはただ回ってきた書類に判子を押す仕事をやっているだけだと聞かされた。


「そんなんで、国って回ってるのか?」

「はい。幸運にも我が国では女系の一族が代々優秀でございまして、男性の一族はそちらに関してあまり能力がない者が多いのです」

「そうか、実質的に実権を握っているのが王女や王妃であるなら、国王は実際飾りという訳か」

「はい。ところで、魔法使い様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


 そこで初めて彼女に自己紹介をしていなかったことに気付き、簡単な自己紹介をする。俺の名前を聞いた彼女は改めて、俺に対して謝罪の言葉を口にする。


「ローランド様、改めて我が父が起こした愚行。お許しくださいませ。本人には後で厳しい罰を与えますので」

「それについては俺の関与するところではないから好きにすればいいが、一つ聞いてもいいか?」

「はいなんなりと」


 俺は彼女の言動に疑問を覚えたため、問い掛けてみることにした。それは、彼女と彼女の母親がまともなのであれば、セコンド王国の侵攻を阻止することができたのではないかという疑問だ。


 いくらセコンド王国との確執があるとはいえ、大義名分などあってないような理由で隣国に攻め入るなどという愚行を、まともな価値観を持つ者が止めないはずがないのだ。


 だというのに、歴史的にはセコンド王国はシェルズ王国に幾度となく進攻をしており、その度に失敗に終わっている。もし仮に代々の女系王族がまともな人間であると仮定した場合、このような事態を防げたのではないかと思ったのだ。


「ということを思ったんだが、どうなんだ?」

「確かに、この国は代々女系一族が優秀なのですが、実質的な国の決定権は男系一族にあり、いくら為政者として優秀な能力を持っていても性別が女である以上、戦争などの重大な決定権を持っているのは男性なのです」

「なるほどな。これで合点がいった」


 俺の言葉に言い訳するかのように「これでも、何十回と未然に戦争は阻止できているのです。ただ防げなかった戦争も多くあり、それは我々女系一族としても心苦しいところではあります……」と唇を噛みしめながら悔しそうな表情を浮かべていた。


 そんな状況の中、国王が復活したらしく、サリーローナに向かって抗議の声を上げ始めた。

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