ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
295話「ブランド男、誰だそれ?」
「なっ、き、貴様は!? あの時の小僧!!」
「ん?」
突然上がった声の方に視線を向けると、そこにいたのは見知らぬ兵士だった。しかし、どうやらあちらさんはこちらのことを知っているようで、恨みの籠った殺気交じりの視線を向けられる。
(俺のファンか? にしては殺気が迸り過ぎている気がするが)
などと内心で冗談めいたことを思いながらも、目の前の兵士が誰なのか脳内検索をかけてみるが、該当する記憶がヒットしない。
そんな作業を脳内で行っている間に、怒り狂った兵士が俺の顔色を見て俺が覚えていないことを悟ったのか、自ら自分の正体を明かしてくれた。
「私はドルチェアン・フォン・ドガッバーナ。栄光あるセコンド王国の侯爵家当主である」
「ド〇チェ&ガ〇バーナ? ああ」
「ようやく思い出したようだな」
「そのブランドにはいい思い出がないんだよな」
ここで俺の前世の話を少しだけすると、俺が大学生の時に当時好きだった同級生の女の子がいた。勇気を振り絞ってデートに誘ったのだが、その時彼女に返された言葉はこうだ。
「ド〇チェ&ガ〇バーナのバッグを買ってくれるのならいいわよ」
後になって知ったことだが、俺が好きだった女の子はのちに大学内でもわがままで浪費家で有名な人物として敬遠され、多くの男性に貢がせたとして相手の男性たちから詐欺で訴えられることになる。
であるからして、そのハイブランドの名前であるド〇チェ&ガ〇バーナにはあまりいい思い出というか悪い思い出しかないのだ。まあ、このブランドが悪いというよりもこのブランドを指定してきた女の子が悪いのだが……。
「どこのブランドか知らんが、ここで会ったが運の尽きだ。大人しくしてもらおうか。おい、この者を捕らえよ!」
「こらこら、勝手に罪もない人間を捕らえちゃダメでしょ」
「誰に向かって口を聞いている!? 私は――」
「はいはい、“元”侯爵家のご当主様でしょ? 今はただの平民じゃないか」
「くっ」
どうやら、シェルズ王国との戦争での責任を取らされ、彼は当主の座から追われたらしい。まあ、何の成果も得られずに戻ってくれば仕方のないことかもしれない。
しかも、一定数の死者が出ているなら命懸けで戦ったという言い訳も立つのだろうが、あの時行った俺の作戦で出た死者の数はゼロだったため、余計に指揮官が何もせずに戦いを恐れて敵前逃亡したという結論になってもおかしくはない。
「と、とにかく取り調べだ! この小僧を取り調べるんだ!!」
「はあ、まったく。すまねぇが坊主。ちょっと取り調べに付き合ってくれねぇか? すぐに終わるから」
「わかった」
呆れる兵士の要請に俺は素直に従った。それであのブランド男の気が済むのならという思いと、ここでごねても時間だけが無駄に過ぎていくという判断からだ。
「取り調べは私が行う」
「そんな権限はお前にはない。取り調べは警備隊長の俺がやる」
「ぐっ……か、勝手にしろ!」
警備隊長の判断に悔しそうな顔を浮かべ、男はどこかへと去ってしまった。同僚の「おい、サボるな」という声も無視しして。
「やれやれ、元貴族があそこまで厄介だとはな。上からの命令とはいえ気が滅入る」
「……」
「おっと、すまない。じゃあ、ちょっとこっちに来てくれるか?」
ブランド男の背中を見送った警備隊長がポロリと愚痴を零す。彼の案内で連れてこられたのは、四角のテーブルと二つの椅子のみが置かれたそれこそ刑事ドラマで言うところの取り調べをするためだけの部屋だった。
簡易的な丸いフォルムの電気スタンドがあれば尚のこと良かったが、この世界に電気スタンド自体がないため、そこは諦めざるを得ないところだ。
「それで、どうして奴に絡まれていたんだ?」
「俺もさっぱりだ。大方誰かと勘違いしているんだろう」
先ほどのやり取りと特徴的な名前から思い出しそうではあるが、本当に心当たりがない。ただ単純に忘れているだけだろうが、あんな名前をしているのだから覚えていそうなのに。……これが老化というやつなのだろうか? いや、俺はまだ十三歳だった。ボケるにはまだ五十年は早い。
となってくると、ただ純粋に忘れているだけか、相手の方が勘違いしている線が濃くなっているのだが、まあそんなことはどうでもいいことだと考えを破棄する。
「そうか、君も災難だったな。一応、身分証と王都へきた目的を聞いてもいいか?」
「身分証はこれだ。それと王都へはこんなご時世だからな。王都へ来れば何かしらの依頼があると思ったからだ」
「冒険者か……事情は大体把握した。通っていいぞ」
警備隊長にギルドカードを提示し、それを確認した彼がすんなりと通行の許可をくれる。もちろん、ギルドカードは幻術を使ってランクをごまかしてある。
それから、特に追及されることなく少しばかり世間話をしてすぐに解放されたので、こちらとしても有難かった。
そのまま、王都内へと入るとマカドニアに負けず劣らずの大きな石畳の大通りが目に飛び込んでくる。ひとまずは、情報収集のために冒険者ギルドへ向かっていると、突然声を掛けられた。
「そこの子供止まれ!」
「なんだ?」
声を掛けてきたのは、騎士の格好をした身分が高そうな若者だった。傍らには、さっきのブランド男が得意げな顔をしており、また厄介そうな予感がする。
「貴様が我が国の国境に結界を張った大罪人だな。お前を王城へ連行する」
「……ふむ、いいだろう」
このまま逃亡することは訳なくできたが、この国の上層部がどういった人間なのか把握するためにも一度確認しておきたかったため、俺は彼らについていくことにしたのだった。
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