ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
292話「いざ、新天地」
「さて、着いたか」
そう独り言ちた俺は、目の前に広がる光景を無感情に見つめる。俺の目の前にあるもの、それは俺自身の手によって作られた結界だ。
ここはシェルズ王国とセコンド王国を跨ぐ場所、つまりは国境である。そう、俺の次の目的地はセコンド王国である。
セコンド王国とは以前に戦争沙汰にまで発展したが、俺のゴーレム運搬作戦によってその目論みを潰したという経緯があり、個人的にはこの国にあまりいい感情を持ってはいない。
しかしながら、国として一体どんな実態を持っているのかということについてはある程度の興味があり、一度行ってみたいと思ってはいたのだ。
いろいろと忙しい日々を送っていたため、なかなか訪れる機会がなかったものの、今回ようやくその機会がやってきたといったところである。
「おじゃましまーす」
誰に言うでもなく、そんな一言を放ってから俺は結界内へと進入する。この結界は“セコンド王国に属する人間とシェルズ王国に敵意を持った人間を通さない”という条件で張られた結界であるため、当然この結界によって俺が阻まれることはない。
同じ条件を満たしているのであれば、他国の人間が行き来することも可能だが、シェルズ王国並びにセコンド王国に隣接する国はこれを固く規制している。理由としては、謂れのない理由を付けてセコンド王国側が彼らを拘束する可能性があるからだ。
セコンド王国に属している以上結界を抜けることはできない。だが、他国に属している者をセコンド王国の駒として動かすことは可能であり、俺が設定した結界の条件の穴を抜けることができる。
当然、これについては俺も把握済みであり、国王にもそのことを伝えてあるため、シェルズ王国もセコンド王国に進入することを例外なく禁止しているのである。
その情報については各国の共通認識として伝達されており、他国から逃げてきた人間や犯罪者でもない限りセコンド王国に行こうなどという奇特な人間はいない。
「何にもないな。もう少し進んでみるか」
セコンド王国に入ってからしばらく飛行魔法で飛び続けてみたが、広大な草原や森が広がっているだけで、特に目立った人工物はない。
延々と飛び続けること数時間後、ようやく第一村人ならぬ第一都市を発見する。気付かれないよう人気のない場所へと降り、そのまま徒歩で歩き続けること三十分で門前に到着する。
見た目はシェルズ王国の都市となんら変わり映えはなく、今のところは他国にやってきたという実感は湧いていない。しかしながら、どことなく人々が多少暗い雰囲気を持っているということだけは伝わってくる。
そりゃあ、国境をすべて結界で覆われ他国との国交もすべてシャットアウトすれば、多少なりとも不安にもなるだろう。特に他国からの輸入に頼っていた品物があった場合、それは痛手を通り越して国として立ち行かなくなる可能性もある。
「次」
門兵に促され、俺は身分証の提示を求められたので冒険者ギルドのギルドカードを提示する。もちろん、そこに表記されているのは俺がランクSSというとんでもない情報であるため、素直に提示すれば騒ぎになるのは目に見えている。
であるからして、兵士には幻術を使ってDランク冒険者という肩書きに偽っている。さて、上手く騙されてくれるといいんだが。
「冒険者か、この街へ来た目的は?」
「ちょうど今、街や都市を巡っているところで、この街へ来たのも観光が目的だ」
「そうか。まあ、このご時世だからな。よし、いいぞ通って良し」
というやり取りの後、すんなりと街へ入ることができた。セキュリティガバガバだな。まあ、俺がセコンド王国が孤立する原因を作った張本人だとは思わないだろうし、仕方のないことといえばそうなのかもしれない。
兵士が俺の背中に向けて「ようこそセンプティの街へ」と言っていたので、この街の名前はすぐにわかった。これで違っていたら兵士のせいということにしよう。
特にこれといって真新しい建築物などはなく、シェルズ王国と同じく石畳がメインの構造をしており、行きかう人々もまた特に変わった格好をしているわけでもない。
しかしながら、やはりというべきか俺の張った結界が影響しているのかどことなく暗い雰囲気が漂っており、あまり活気に満ち溢れてはいない印象だ。
のちにわかったのだが、この雰囲気はセコンド王国独特のものだったようで、後になってそのことがわかり、胸をなでおろすことになる。
とにかく、新しい街へ来たらまず確認すべきはアレということで、俺は冒険者ギルドへと向かった。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ」
「ああ。ところで、お前の名前は何アンなんだ?」
ギルド内に入ると、すぐに俺を見つけたギルド職員が対応してくれる。その姿は、俺にとっては見慣れたもので、眼鏡姿の巨乳のお姉さんだ。
さらに周囲をきょろきょろと見渡すと、俺と同世代の少女がこちらを不思議そうに見ていた。おそらく彼女がアレの片割れであると予想する。
「私は、ルリアンといいますが、それが何か?」
「いや、知り合いの顔にそっくりだったんでな。多分、あんたの親戚か何かだとは思うが、マリアン、ミリアン、ムリアン、メリアン、モリアン、リリアンという名に覚えはないか?」
俺は今まで出会ってきた冒険者ギルド巨乳眼鏡受付嬢シリーズの人物名を口にする。すると、案の定その名前に心当たりがあったようで、俺の問いに頷く。
「確かに、その名前の親戚はいますが……」
「だろうな。ここまで似ていて他人の空似だとすれば、それこそ似すぎにもほどがある」
「はあ」
俺の言葉に曖昧な返事をするルリアン。まあ、いきなり初対面の人間が「お前に似ている知り合いを知ってるぞ」と言われても、どんな顔をしたらいいのかわからないというのが正直なところだろう。
とりあえず、彼女に頼みギルドマスターのところに案内してもらおうとしたその時、こちらに声を掛けてきた人物がいた。
「ルリアン先輩、何をしてるんですか?」
「お前は、何コルだ?」
「え?」
話し掛けてきたのは、先ほどこちらを不思議そうに見ていた少女だった。ルリアンや他の○○アンの巨乳眼鏡受付嬢シリーズは見た目も名前にも共通するものがあるのだが、その後輩に当たる受付少女シリーズの場合、名前に〇コルという共通点があるが、見た目に一過性がなく他の少女たちとも血縁関係はない。
栗色のショートヘアーの子もいれば、金髪セミロングの女の子もいる。名前以外に共通しているのは、巨乳眼鏡受付嬢の後輩であるということと、年若い十代前半の少女であるということくらいだ。
彼女もまた十二歳から十五歳くらいの見た目をしており、薄い桃色のうなじまでかかったショート寄りの髪に、鮮やかな赤い瞳を持った穏やか雰囲気を持った少女だ。ちなみに胸は普通……ぎりCあるかないかくらいの平均的な大きさだ。
「私はスコルっていいますけど……」
「ゴコルじゃないのか!?」
「違いますけど……」
名前的にイコル、ニコル、サコル、シシコルという感じで数字的なものが関係していたが、それを裏切ってのスコルという返答に、思わず声が大きくなってしまう。
などと、俺がどうでもいいことを叫んでいると、残りのギルドのアレががのしのしとした足取りでやってきた。
「おうおう、さっきから騒がしいが何かトラブルか?」
「出たなハゲ」
「誰がハゲだ! どいつここいつもハゲハゲハゲハゲと。これは剃ってんだって言ってんだろうがよ!!」
そこに現れたのは、相変わらず頭皮が寂しいことになっている中年の男性だ。中年の割に体つきは筋骨隆々で、未だに肉体的な限界は迎えてはいない様子である。
「いきなり現れて何を叫んでいるんですか? 冗談は頭だけにしてくださいハゲル……ゲハルドさん」
「そりゃあ、どういう意味だスコルの嬢ちゃん? 聞き捨てならなねぇな」
「そのままの意味です」
というやり取りの後に両者睨み合いに発展する。片や少女、片や中年男性が睨み合う様相は、傍から見ても奇妙以外のなにものでもない。
そんなやり取りに呆気に取られていると、ため息を一つ吐いたルリアンが両者の間に割って入る。
「二人ともそれくらいにしてください。こちらの少年が困っているじゃありませんか?」
「別に、俺はいつもの日常として見ていただけなんだが」
「とにかく、喧嘩をしている暇があるのなら仕事をしてください」
という具合に、無理矢理事態を収めようとするルリアンに渋々ながらも二人が従い、持ち場へと戻って行った。
一方の俺は彼女の視線を受けることとなり、その目が語り掛けてくる。“あなたは一体何しにここへ来たのだ?”と。
「とりあえず、ギルドマスターに会わせてくれ。そっちの方が手っ取り早いからな」
「身元不明の方をギルドマスターに会わせるわけにはいきません」
「なら、個室かどこかに案内してくれ。そこで、俺のギルドカードを見せよう」
「どうして、個室で見る必要があるのですか?」
「その方が、騒ぎにならずに済むからだ」
俺の言葉に半信半疑な様子だったが、俺の態度にこれ以上は埒が明かないと判断したルリアンは、俺を個室へと案内することを決めた。
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