ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
291話「SSランク冒険者の存在意義(?)」
「「「師匠!(先生!)」」」
「師匠でも先生でもないから」
屋敷の門まで赴くと、そこにはマリーン、ガイモン、マチルダのSSランク冒険者三人組がいた。彼女らの目的は言わずもがな俺に教えを乞うためだろう。
だが、俺は誰かを育てることはもう経験済みであるため、これ以上の育成をやることはしない。というか、さっき今後の方針も決まったことだしな。
しかし、そんなことはお構いなしとばかりにまるで生まれたての雛のような目を輝かせている姿を見ると、親鳥の気持ちがわから……ないな。
「俺聞いたぜ。師匠がSSランクになった経緯をよぉ」
「何十人ものSランク冒険者を育てた功績で、SSランクになったのよね?」
「さすが先生です!」
ガイモンとマチルダの言葉にマリーンが賞賛の言葉を述べる。というか、マリーンといいメイリーンといい、この世界の魔法使いは師匠を先生呼びするのは共通認識か何かなのだろうか?
などと、どうでもいいことを考えつつ多少の語弊があるため、そこを修正しておくために口を開いた。
「何十人ではない、十人くらいだ」
「それでもすげぇぜ。一人のSランク冒険者が誕生する期間は十年に一人って言われてんだぜ? それを僅か数か月の間に何人も育てること自体、偉業以外のナニモンでもねぇ」
「そうよ。あたしもSランクに上がるのに五年も掛ったもの」
「私も二人に同意見です」
俺のやったことなど大したことはないと伝えたかったのだが、寧ろそれをなんでもないことのようにやってのけたということで、三人の評価が上がってしまったようだ。くそう、裏目に出たか。
確かに、今言われてみれば俺以外のSランク以上の冒険者に今まで会ったのって、ソバスたち以外ではこいつらが初めてな気がする。ガイモンの言う通りSランクになる割合が十年に一人であるなら、なかなかお目にかかれないのは仕方のないことなのかもしれない。
「そんなことはどうでもいい。何しに来た」
「そりゃあ、師匠に稽古をつけてもらいにだ」
「あたしも」
「私もです」
「はぁー、お前ら自分たちのパーティーはどうした?」
「「「活動休止にした(わ)(しました)」」」
「……」
会ったことのないこいつらのパーティーメンバーよ、すまぬ。という具合に、心の中でなんとなく謝っておく。
大方の予想は付いていたが、まさか活動休止にしてくるとは思いもしなかった。それだけの覚悟を持って来たのだろうが、俺からすれば迷惑以外のなにものでもない。
大体、こいつらを仮に鍛えたところで得られるメリットというものが無い。金を払うとかなんとか言っていたが、そもそも自活できる程度の金であればすぐにでも作ることができるのだ。
SSランクモンスターの素材を納品するも良し、新しい事業を立ち上げて一儲けするも良しといった風に、金を稼ぐ手段はいくらでもある。
そもそも、オラルガンドと王都というシェルズ王国でも一、二を争う大都市にそれぞれ俺が出資している商会がある時点でお金に困ることはないのだ。
俺は拒否したのだが、毎月グレッグ商会とコンメル商会から売り上げの二割に相当する金が送られてくるし、何よりもクッキーのレシピの売り上げもある。
ちなみに、オラルガンドに遠征に行ってる間、クッキー以外にも唐揚げのレシピも商業ギルドに提供しており、その売り上げだけでも相当な金が俺の懐に入っている。
以上のことから見ても、俺にとって金銭は労働に対する報酬にはなり得ず、例え大金貨一万枚をもらっても使い道もなければその価値を見い出すこともできないのだ。
「今すぐに活動再開して来い! SSランクを何だと思ってるんだ!!」
SSランク冒険者はそれこそ人類の切り札となり得る存在であり、有事の際の最高戦力となる。それ故に、SSランク冒険者になる者は厳正に審査が行われる。
その審査を通して一定の基準をクリアしている者のみがSSランクとなり得る。そのため、SSランク冒険者は勝手に活動を休止などできないはずだ。
「お前ら、まさか冒険者ギルドに何の断りもなしに活動を休止させたわけじゃないだろうな」
「そうだが?」
「あたしも」
「右に同じく」
「……」
その言葉に俺は思わず絶句する。どうして、こいつらは思慮が足らんのだ。子供の俺でも理解できるというのに……。
先ほども言ったが、SSランク冒険者とは人類における最高戦力の一角だ。故に、ある程度の行動に制限が付く。その制限とは特定難易度の依頼を一定期間一定数こなすというものだ。
厳密には決まっていないが、SSランクの冒険者はSランク以下の冒険者と同じく、通常の依頼ではない……それこそ五年依頼や十年依頼といった高難易度の依頼を受けることを義務付けられる。
義務といっても、それを怠ったからといってなにかしらのペナルティを食らうということはないが、冒険者ギルドとしては切り札的な存在なのは間違いない。
そんな切り札の立ち位置にあるSSランクの冒険者が軒並み活動休止となれば、それによって出る損害は計り知れない。少なくとも大金貨数千枚以上は確実だ。
「……ということをお前らは理解しているのか?」
「「「……」」」
SSランクの冒険者がどういう役割を持っているのかということを懇切丁寧に説明してやると、途端に全員が黙りこくった。……知らなかったようだな。
そもそも、自分たちが数少ない稀有な存在であるSSランクの冒険者という時点で気付きそうなものだが、三人からすれば“ただランクの一番高いすごい冒険者”程度にしか思っていなかったのだろう。だが、そんなことはどうでもいい。
「でだ。お前らは今この瞬間SSランク冒険者になるということがどういうことなのかを知った。で、どうするんだ? まさか、この事実を知ってもまだ活動休止なんて言い出すのではないだろうな?」
「「「冒険者ギルドに行ってきます……」」」
「それが賢明だ」
などと講釈を垂れてはいるが、実際本当にSSランク冒険者がそうなのかはわからない。ただの口から出まかせを言ったまでなのだから。……てへぺろ。
だが、俺の言ったことはおそらく概ね正しいということも予想てきている。その根拠としてはSSランク冒険者の絶対数だ。
俺が言ったようにSSランク冒険者が人類にとっての最高戦力でなければ、もう少し人数が多くても問題はないはず。だが、実際は俺を入れても四人しかいないところを鑑みるに、SSランク冒険者が冒険者ギルドだけでなく人類にとっても特別な存在であるからという予想はあながち間違ってはいない。
そこのところは冒険者ギルドの職員かギルドマスターなどの事情を知っている人物に聞く他ないだろうが、ララミールには会いたくないので、向こう側から何か言ってこない限り、この件についてはスルーを決め込むことにする。
「やれやれ、行ったか。それにしても、ガイモンとマチルダはともかく、マリーンがそのことに気付いていなかったのは意外だったな。見た目賢そうなのに」
慌てて冒険者ギルドへと走って行った三人の背中のうち、マリーンに視線を向けながらそんな感想を口にする。魔法使いという職業柄か、それとも彼女自身の人柄からそう思わせるのかはわからないが、見た目で損をするタイプであることは間違いない。
やはり、ある部分の発育が良いとそこに栄養を取られるのだろうか? 本来知能に行くはずの栄養を吸われていたりなんかして……ないか。
そんなことはともかくとして、これで邪魔者を排除することに成功した俺は、意気揚々と屋敷へと戻り、改めて今後の予定をソバスへと伝える。
「ソバス。しばらく、観光がてらいろいろな場所を旅しようと考えている。様子を見に定期的に戻っては来るだろうが、今まで通り屋敷のことを頼みたい」
「心得ております。ローランド様、道中お気をつけていってらっしゃいませ」
「ああ。それと、これは俺がいない間の屋敷の管理費や雑費に使う金だ。お前が持っておいてくれ」
「これは、多すぎではないですか? ざっと見て大金貨百枚ほどはございますよ?」
俺は何かあった時のために、ソバスに大金貨の入った皮袋を手渡す。以前にも同じように渡したことがあったが、念のために今回も渡しておく。
もしも、俺の身に何かあった時は彼らが取り残されてしまうため、当面の運営費が必要となってくる。まあ、万が一にもそういうことは起こらないようにはするが、何事も予防線は張っておくべきだ。
「念のためだ。それと、万が一俺に何かあった時は、ソバスか他の誰かが国王から爵位をもらって貴族になれるように話を付けてあるから、後のことは任せる」
「そのようなことを言わないでください」
「別に遺言じゃないぞ? あくまでもそうなった場合の話だ。じゃあ、そういうことだから、行ってくる」
俺の言葉に珍しく不安気な表情を浮かべるソバスだったが、本当に念のための処置であるため、彼の心配は杞憂に終わるだろう。
この世界で俺を殺すことができる存在は、今のところあのロリババアくらいなのだから。まあ、そうなったらそうなったで、やりようはあるが。
こうして、ソバスに見送られながら俺はある場所へと向かうべく、瞬間移動で転移した。
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