ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

290話「なんでこうなるんだ?」



(どうしてこうなったパート2)


 などと言っている場合ではない。あれから、さらにとんでもなく面倒なことが起こった。


 SSランク冒険者との顔合わせ(模擬戦)を終えた俺は、当初の目的である顔を合わせるという行為も達成できたということで、そのまま帰ろうとした。だが、そうは問屋が卸さないとばかりに三人が食い下がったのだ。彼ら彼女ら曰く。


「教えてくれ。どうやってそこまでの強さを手に入れた?」

「あたしも気になる」

「その歳でそこまでの強さはあり得ないわ」


 というような具合で、ガイモン、マチルダ、マリーンの順に口々にそう漏らす。どうやら、明らかに年下の俺がどのようにして強くなったのかが気になるようで、俺に聞いてきた。


 しかしながら、それを教えるつもりは俺にはない。もうこの手のイベントは、すでにギルムザック達で経験済みなのだから。


 敢えて三人の問いに答えるのであれば、“めちゃくちゃ強い相手と長い間修行した”というのが答えだろう。それに尽きる。


 そもそも、俺がここまでの強さを手に入れることができた要因は、あまり認めたくはないのだが、師匠がよかったとしか言いようがない。


 あの化け物染みた底なしの強さを持った、ロリババアことナガルティーニャという存在がいたことは俺にとっては僥倖で、奴と戦い続けたことによって俺のレベルは大いに引き上げられた。


 癪なのは、これだけの強さを手に入れても未だその強さの底を知ることができないということで、一体どこまでの強さを隠しているのか、今度会った時問い詰めてやるつもりだ。


 以上が俺の三人の問いに対する答えだが、答える気はさらさらない。仮に答えた場合、次に来る要求は決まりきっているからだ。


「答える気はない。自分の手札を晒すほど、俺は馬鹿ではない」

「なら、答えなくていいから俺を弟子にしてくれ!」

「ああ、ずるいぞおっさん。あたしも! あたしも弟子にしてくれ!」

「私もです!」


 ほらキター、いつものやつですねわかりますパターンだ。だがしかし、俺の答えはNO一択である。


「断る。俺にそんな暇はない」


 この間まで十数人単位で戦闘指導をしていたのはどこのどいつだという突っ込みが来そうだが、あれは身内だったからこその特別サービスであり、それを他人に施すほど俺はお人よしな性格はしていない。


 そして、もしここでこいつらを弟子にしたとして、パラメータをオールSS+までにしたと仮定した場合、待っているのはSSSランク冒険者の肩書だろう。それがわかっていて、わざわざそこに足を突っ込む馬鹿はおるまいて。


 とにかく、俺がこいつらに何かを教えるほど親しくもなく、仮に教えたとしてもその後に待っている末路が予想できている以上、俺にとってこいつらを弟子にすることはデメリットしかないということだ。


「そこをなんとか! なら、金を払う大金貨二千枚、いや三千枚でどうだ!?」

「あたしは五千枚出すわ」

「私は一万枚です」

「くそう、てめぇらずりぃぞ後出しで金額つり上げやがって!」

「それくらいなら、SSランクのモンスターを狩れば一日と掛からず稼げる」


 俺が頑なに弟子を取る気はないことを悟った三人が次に出た行動は、金という報酬を支払うというものだった。確かに、人というのは何か頼み事する際、それに見合った対価を支払うというのが常だ。


 だが、その対価というものが、必ずしもその人にとって有用な報酬であるとは限らない。今回がそのいい例だ。


 弟子として鍛えてもらう代わりに、その報酬として金を払う。一見すると、三人が見合った報酬を支払っているかに見える。だが、実際はそうではない。


 SSランクのモンスターを瞬殺できるようになった今の俺ならば、大金貨の一万枚くらいはどうとでもなってしまうのである。それに、それだけの大金をもらったところで使い道もない。


 それ故に、三人を弟子にしたところで得られる対価はなく、寧ろデメリットしか残っていないため、俺にとっては損な取引となってしまうのである。


「それじゃあ、俺はこれで失礼する」

「「「待ってください! 師匠!!」」」

「誰が師匠だ!」


 こうなってしまったことに苛立ちを覚えながらも、俺はララミールに一言断ってから冒険者ギルドを後にしたのだった。


 余談だが、当然俺の後を追って来ようとした三人には眠りの魔法【スリープ】を使って眠らせた。ガイモンとマチルダはすんなりと眠ってくれたが、魔法使いのマリーンは最後まで抵抗したため、首の裏をトンと叩いて気絶させた。


 なんだか、マリーンだけ踏んだり蹴ったりな状況になっているが、これも運命だと思って受け入れてもらいたいところだ。……俺のせいか。





      ~~~~~~~~~~~~~~~~~~





 SSランク冒険者との邂逅から翌日、予想通りというか何というか、屋敷に奴らが押し掛けてきた。当然ながらソバスたちの手によって門前払いを食らったわけだが、どうしたものか……。


 このどうしたものかというのは、マリーンたちをどうするかという意味でのどうするかではなく、今後どんなことをやっていこうかという意味でのどうするかである。


 生産活動にもある程度力を入れたし、やりたかった使用人の育成も行い、満足のいく使用人に仕上がった。となってくればあとやっていないことと言ったら――。


「世界征服か……」

「ローランド様、いよいよこの大陸の覇権を握るおつもりですか?」

「……いたのかソバス。いや、やりたかったことを大体やったから、あとは何をやっていないかを考えていたら世界征服くらいかなってだけだ。別に本当に世界を征服なんてしないぞ?」


 仮に世界征服を達成できたとしても、統治が面倒臭いことこの上ない。いち男爵領の統治すら面倒だからといって策略で自身を追放させたのに、それ以上の領土の統治など御免被る。


 となってくると、当初の目的だった世界を見て回るという観光をするのもいいかもしれない。なんだったら、一度例の国を視察するのも悪くない。


「そうですか。どちらにせよ、もしそうなったとしても、我々はあなた様に付き従うだけです」

「とりあえず、そんなことにはならないから。それはそうと、何か用があったんじゃないのか?」

「はい。また例の方たちが屋敷の外でローランド様を待っている様子ですが……」

「諦めの悪い連中だ。自分たちのパーティーもあるだろうに」


 SSランク冒険者とて単独で活動しているわけではない。通常であれば、冒険者は四人から六人のパーティーを組んで行動することが多く、あの三人もまた例外ではない。


 他のメンバーに無理を言って行動しているのが透けて見え、パーティーメンバーの一人としてはあまりおよろしくない行動だと断言できる。


「仕方ない、ちょっと行ってくる」

「お願いいします」


 そう言いながら、俺は三人をなんとかすべく屋敷の外へと向かった。

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