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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

289話「テンプレの末路なんて結局こうだよね」



(どうして、いつもこうなるんだ?)


 あれから、冒険者ギルドの修練場へと移動した俺は、内心で諦めの境地にも似た思いを抱いていた。どうしていつもこういうことになってしまうのだろうかと悩ませている間も、ララミールの無情な宣告が言い渡される。


「では~、ルールを説明しますぅ~。ルールは――」

「そんなものいらん。三人がかりで掛かってこい!」


 もはや面倒を通り越して苛立ちを感じ始めていたため、手っ取り早く三人まとめて相手をしてやることにする。マリーンは俺と戦うのを拒んでいたが、八つ当たりで巻き込んでやる。


「ちょ、ちょっと。私は戦わないって言ったわよね!?」

「戦わないなら構わないが、俺はお前にも攻撃するぞ? 安心しろ、殺しはしない」

「くっ、わ、わかったわよ! やればいいんでしょやれば」


 マリーンも覚悟を決めたのか、やる気になったようだ。その間も、ガイモンとマチルダは明らかに不満気のある顔をしており、とうとう抗議の声を上げる。


「待てよ、ガキ。俺ら三人同時に相手にする気なのかよ」

「いちいち一人ずつ相手にするのが面倒だ。それに、お前ら程度なら三人同時でもお釣りがくる」

「言ってくれるわね。その言葉、後悔させてあげるわ」


 俺の言葉を挑発と受け取ったのか、どうやら本気で戦う気になったようだ。俺としては、本当に一回ずつ戦うのが面倒なだけだったのだがな。


 三人とも一定の距離を取りつつ戦闘態勢を取り始める。俺も腰を落として戦う姿勢を取り、いつでも戦えるよう備える。


「それでは~、模擬戦~、開始~」


 ララミールの間の抜けた開始の合図と同時に飛び出してきたのは、やはりというべきか三人の中で最も素早さのあるマチルダだ。マリーンは一歩も動かず、何かの呪文詠唱を行っており、ガイモンはマチルダよりも劣るがこちらに向かって突撃を開始する。


「ちょっとSSランクになったからって子供が調子に乗らないこと、ねっ」

「よっと」

「えっ?」


 懐まで接近してきたマチルダは、手にしていた短剣を振りかざしてきた。だが、パラメータ的に桁が二つ三つも違う俺からすれば、スローモーションになったような動きであるため、その攻撃を難なく躱す。


 彼女自身、俺が攻撃を避けるとは思わなかったようで、自分の攻撃が躱されたことに驚いている様子だ。そうこうしているうちに、突撃していたガイモンがマチルダに追い付いたようで、次は彼が攻撃を仕掛けてきた。


「はぁっ」

「ほっ」

「なかなか、やるじゃねぇかガキ。俺の攻撃もマチルダの攻撃も当たらねぇとはな」

「そんなノロマな攻撃が当たるのは未熟者だけだ」

「はっ、ならこれならどうだ!」


 ガイモンがそう言うと、身体強化を剣に込め始め、それを斬撃のように飛ばしてきた。差し詰め、飛ぶ斬撃といったところだ。


 身体強化の有効範囲は自分の体に触れているものもその効果の対象となるため、ガイモンのやっていることは理論上は可能だ。当然、やろうと思えば俺もできる。


 しかし、そんなひと手間を加えるならば、遠距離から攻撃できる有効な魔法を使った方がいいという結論になったため、今まで使う機会がなかっただけなのだ。つまるところ、その程度の技術でしかないのである。


 迫りくるガイモンの攻撃をぎりぎりのところでわざと回避し、簡単な魔法で反撃を試みる。……この程度で潰れてくれるなよ?


「ご返杯だ。【ロックシューター】」

「うおっ、あぶねっ」


 石礫を相手にぶつけるだけの魔法だが、俺が使えばその威力は絶大だ。それが証拠に力で押してくるパワータイプのガイモンが防戦一方になっている。


 そして、次に動いたのはマリーンだった。あれほど、俺との戦いを拒否していた彼女だったが、意外にその戦意はあるようだ。


「二人とも下がれ! 【シャキードアイシクル】!!」

「ほう、いい魔法だ。なら【ラヴァーウォール】」

「なっ!?」


 氷魔法の【シャキードアイシクル】と炎魔法の【ラヴァーウォール】が激突する。しかしながら、性質的なものを言えば氷と溶岩の対決となれば、どちらが勝つかは明白であり、マリーンの放った【シャキードアイシクル】は俺の溶岩の壁に阻まれた。


「じゃあ、ご返杯だ。【ライジングボム】」

「っ!? 【ストーンウォール】!!」


 続いて、俺のターンと言わんばかりに、俺は雷魔法の【ライジングボム】を放つ、一方マリーンは大地魔法の【ストーンウォール】で対抗しようとしたのだが、魔力の差によってできる威力の違いに耐え切れずにダメージを負ってしまっている。


「くっ……や、やはり強い」

「はぁっ」

「うぉぉぉおおおお」


 マリーンがぽつりと呟いた次の瞬間、まだ戦意が衰えていないガイモンとマチルダが攻め込んできた。俺はその攻撃を躱しながら、ストレージから銀製のスプーンを取り出し、二人の攻撃をそれで受け止める。いきなり取り出した意外なものに二人とも呆然とするも、次の瞬間には声を張り上げた。


「な、スプーンだと!?」

「そんなおもちゃみたいなもので、あたしたちの攻撃を……」

「さあ、どこからでもどうぞ」

「ふ、ふざけるなぁー!!」


 激高したガイモンが形振り構わず突っ込んでくる。それに呼応する形でマチルダも動いたが、もはや戦う気力は尽きようとしていた。


「ちょっと痛いが我慢してくれ。【空連弾】」

「ごぼぁ」

「きゃあ」

「うっ」


 俺はスプーンを高速で打ち出すことで発生する空気の弾を三人めがけて放った。突如として襲い掛かってきた目に見えない攻撃に三人とも驚愕する。


 この【空連弾】というのは、別にスキルでもなければ技でも何でもないただの攻撃だ。だが、どういった攻撃なのかというのを相手に明確化させるため、まるで御大層な技のように名称を叫ぶ必要がある。そのための【空連弾】であり、実際はただスプーンで弾いた空気を相手にぶつけているだけの技とも言えない攻撃に過ぎないのだ。


 しかしながら、空気という無色透明な物質をぶつけられたことで、何もないところから攻撃を受けたという錯覚を受けた三人は、先ほどまでの積極的な攻勢とは打って変わって、こちらを警戒している。


「い、今の攻撃はなんだったんだ?」

「何にもないとこから攻撃されたんだけど」

「私もです」

「これで弾いた空気をぶつけただけだ」

「「「え?」」」


 俺が先ほどの目に見えない攻撃の正体を明かしてやると、三人とも目が点になり、信じられないといった様子を見せる。だが、三人は同時にもしそれが本当にできてしまうのであれば、三人がかりでも勝つことは不可能だとも考え始めていた。


「どうする? まだ続けるか、降参するか。好きな方を選べ」

「私は降参です。これ以上あなたと戦いたくありません」

「そっちの二人は?」

「もちろん続行だ!」

「あたしもだ!」


 ここで俺が降参するかを聞いてみると、元から戦うことを望んでいなかったマリーンが降参した。後の二人は、俺が強者だと知って余計に火が付いたようで、俺と戦うことを望んだ。


 それからの展開といえば、予想通り俺が一方的に二人を嬲るといういつものパターンで、最終的に広範囲魔法でまとめて攻撃することで決着がついた。


 その攻撃の余波にマリーンも巻き込まれてしまい、結局三人とも倒されることになったことをここで付け加えておく。

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