ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
284話「あっけない幕切れと男の素性」
「主、このままではまずいぞ」
「そんなことはわかっている」
今回の一件に絡んでいるであろう人物を撃退することに成功したものの、まだ一つ問題が残っていた。それは、男が残していった装置である。
現在進行形で装置内部の魔力が増幅しており、このままそれが放出されてしまえば、おそらくはモンスターたちが暴走することになる。
何かいい手立てはないのかと頭を回転させた結果、壊すわけにもいかず、かといって移動させようにも、優に五メートルはあろうかという巨大な装置をどこか安全な場所へ移すには時間がなさすぎる。
どうしたものかと考えていたその時、ふと降って湧いたようにある一つのアイデアが浮かんできた。それを実行すべく、俺はすぐさま行動に移る。
「あ、主! そんな得体の知れないものに近づくと危ないぞ」
「まあ、見ていろ」
俺を制止しようとするマンティコアの忠告を無視して、俺は装置に近づいていく。俺が試そうとしていることは極々単純なものだった。
装置を破壊するとさらに状況が悪化する可能性があり、だからといって移動も困難。であれば、どうするのか? 答えは、一つ。
「であれば、収納すればいいだけの話だ。ストレージ!」
そう、俺の答えは自身の持つストレージに収納してしまおうというものだ。なにせ、俺のストレージに限界容量というものはないのだから……。
そもそも、この世界において大きな荷物を運ぶときなどは、荷馬車などでの原始的な運搬方法が主流だが、それ以外にもいくつか方法が存在する。その一つが、魔法鞄による運搬だ。
魔法という概念があり、重量のある荷物も楽々運ぶことができる魔法の鞄は貧困層では高級品だが、一般的な家庭でも利用されることは珍しくない。
しかし、一般的な家庭の人間が大きな荷物を運ぶ必要があるという場面が少なく、精々が引っ越しや新しい家具などを購入したときくらいなため、魔法鞄を所持している家庭はあまりない。
だからこそ、逃げた男も装置の撤去方法がないと考え、装置を置いて逃げていったのだ。もし、俺が容量制限のない収納能力を持っているとわかっていれば、装置も回収して逃げていただろう。
「ふう、なんとかなったようだな」
一種の賭けだったが、見事俺はその賭けに勝利した。あれほど猛威を振るおうと不穏な音を出しながら稼働していた装置は、今やストレージの肥やしと成り下がってしまった。
とりあえず、これで危機は脱したものの、新たに問題が浮き彫りになる。それは、この装置を操っていた人間を取り逃がしてしまったという事実だ。
まさか、俺以外にも転移系の移動手段を持つ人間がいるということを失念していたことで、相手がそういった手段で逃亡を図る可能性を見出さなかった。
今回の一件の首謀者がいまだ健在である以上、再び同じことをする可能性が高い。そうなってしまったら、また対処をしなければいけなくなる。
「面倒な奴を逃がしてしまったな」
思わず、そんな言葉が出るほどにあの男を取り逃がしたことは痛恨のミスであった。だが、それとは別に今回の事件を起こした組織が何者であるのかということも知れたため、すべてが悪い結果になったという訳ではない。
俺が本気を出せば、セコンド王国のように国境に結界を張り巡らせ、他国に介入できないように断絶することもできる。でも、そうはしない。理由としては大義名分がないからだ。
これが日本の感覚で言えば、見た目が強面の男がいて口調も荒っぽいが殺人などの明確な罪を犯してはない。そんな相手を死刑にすることはできないだろう。今回も同じである。
俺がいなければモンスターの暴走が起こり、その被害はウルグ大樹海だけでなく隣国のセイバーダレス公国やシェルズ王国にまで及んでいた可能性もなくはないが、それも可能性でしかないのだ。
今回の一件でセラフ聖国に問える罪といえば、精々がスタンピード未遂くらいなもので、それが国境断絶の罰と釣り合いが取れるかといえば、首を傾げざるを得ないところだ。
しかも、男は聖国の人間であるという確かな証拠があるという前提条件の下で問える罪であり、もしかすると男が聖国に罪を擦り付けようと画策している線もゼロではないため、現状ではセラフ聖国に対し具体的な行動を取ることができないのだ。
「なんか、後からやってくる面倒事を解決しようとしたら、さらに事態がこんがらがったって感じだなこりゃ」
何はともあれ、事前にスタンピードを阻止することができただけでも良かったと前向きに考えることにした俺は、ウルルの待つ村へと帰還しようとしたのだが、ここで忘れていたもう一匹の召喚獣の存在に気付き、念話で話し掛けた。
「オクトパス、今どこにいる?」
『主か、今蜘蛛のモンスターと戦って身動きが取れなくなっている。助けてほしい』
「……わかった。今から向かう」
オクトパスの存在を忘れておいてなんだが、一体何をやっているのだと突っ込みたくなる衝動を抑え込みながらも、オクトパスの救援に向かう。
それから、オクトパスを助け「勝負には勝ったのだが、いかんせん蜘蛛の糸で身動きが取れなくなってしまって。勝負は我の勝ちだったのだぞ?」という言い訳染みた奴の言葉を聞き流しつつ、マンティコアとオクトパスに労いの言葉を掛けると二匹を元の場所へと戻す。
オクトパスのお陰か、はたまたせいなのかは甚だ見当がつかないが、今回の一件にオチが付いたところで、改めて俺はウルルの村へと帰還するため、瞬間移動するのだった。
~ Side ????? ~
「ぐっ……なんとか逃げられたか」
辛くも逃げることに成功した私は、教会の一室へと戻ってきた。まさか、この私がこれほどの手傷を負わされるとは思っておらず、予定が少々狂ってしまった。だが、まだ私は生きている。それだけで十分である。
今回の実験に関しては必要な項目はすべて押さえることができており、あとは実用に向けての細かい調節を挟むのみだ。欲を言えば、あのあと起こったであろうスタンピードの結果をこの目で見たかったが、どのみちまた同じものを作るからその時にでも拝ませてもらうとしよう。
「それにしても、あの子供は何者ですか……」
魔法を使える者の中でも光と闇の属性は特に珍しく、さらに言えばその上位となる聖光魔法や漆黒魔法とくれば、使える人間は極僅かだというのに……。それをまるで普段から使っているかのような自然な流れで放ってくるとは、あの歳で一体どれだけの修練を積めばああなるのだろうか?
「あの子供を殺して、あわよくば体の中を調べてみたいものですね。……おっといけない、また私の悪い癖が出ている」
よく生真面目な部下の神官から「あなたは、わからないことがあるとそれを際限なく知ろうとする。それが悪いこととは言いませんが、その度合いにも限度があります」などと窘められている。それも仕方がないことだ。なぜなら、この世界には未だ解明されていないことなど山ほどあるのだから。
「とにかく、今回の実験を教皇様にお伝えしないと。まったく、あの方の使い走りも骨が折れますね」
今回のスタンピードを人為的に誘発させる装置【エクシード】は、もともと私が希望して作ったものですが、その実用性を教皇様がお認めになられて研究費を出してくださったという経緯がある。だから、その経過を報告する義務があるのですが、これが実に面倒だ。
「やれやれ、あとで報告されていないと怒られないうちに報告するとしますか。まったく、これだから枢機卿は嫌なんですよ」
そうぼやきながら回復の魔法で自身の怪我を治療すると、ドアを開け気だるそうに私は部屋を後にした。
彼が出てきた部屋のネームプレートには、マッド・クラウェル枢機卿室と記載があった。
セラフ聖国枢機卿……数十万という尋常でない数の神官並びに修道女の中から選ばれた七人、それが枢機卿であり、教皇を頂点とする組織の幹部でもある。
彼、マッド・クラウェルはそんな枢機卿の一人であり、神官には珍しい知識欲の強い研究者気質な人物でもある。名は体を表す通り、まさに“マッド”な存在なのだ。
ぼさぼさの頭をガシガシと掻きながら、教皇のいる部屋へと向かっている最中、彼はぽつりと呟いた。
「ああ、そういえばあの計画も佳境に入ってますね。そろそろ本腰を入れないと」
彼の言う計画が一体何であるのか、それはまだ誰にも知る術はない。その計画が明るみになるのは、もう少し先の話である。
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