ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
283話「謎の男と装置」
「どうだ? 何か変わったことはあったか?」
『何もないぞ主。いるのはどれも雑魚ばかりだ』
『こっちも似たようなものだ。それらしい原因は見当たらない』
あれから、ウルグ大樹海の調査を開始して数日が経つ。だが、それらしい原因が特定できず難航していた。
そうなった理由は単純で、ウルグ大樹海という場所があまりにも広すぎたためだ。シェルズ王国とセイバーダレス公国の二国の領土を足しても、まだまだ足りないほどの広大な土地が広がっており、この数日で調査できたのは全体の二割にも満たない。
仕方なく、人海戦術でめっきり出番のなかったオクトパスとマンティコアに調査の協力をさせ、現在はモンスターの排除とそれらしい原因がないかの捜索をさせているところだ。あの二匹とは契約を結んでいるため、遠くに離れていても念話で会話をすることができる。それを利用して捜索を分担してもらっている。
捜索といっても平たく言えば、ただの雑用以外のなにものでもないのだが、出番が少ないことを気にしていたのか、そんな仕事でも嬉々として行ってくれている。
元々SSランクのモンスターというだけあって、ウルグ大樹海のモンスターたちを苦も無く屠り続けており、下手をすれば“スタンピードの原因を作ってるのってお前らじゃね?”と言われても反論できないほどの活躍を見せている。
念のために根絶やしにするのではなく、ある程度絶滅しないように数を残せと指示は出しているが、それでもこの数日で二匹が屠ったモンスターの数は優に千を超えていた。
一応、屠ったモンスターも素材として有効活用できるため、二匹には俺のストレージに繋がっている魔法鞄を持たせており、現在進行形でモンスターの在庫が増え続けている。
そうして作業し続けていると、突然マンティコアから興味深い報告が上がってくる。
『ん? 主、妙な奴がいるぞ』
「妙な奴? 具体的には?」
『見た感じ人間っぽいが、どうも様子がおかしい。何か妙なからくり仕掛けの装置の近くに立っている。……ふむ、どうやらあの装置が今回の一件の原因らしい』
「なるほど、了解した。すぐにそちらに向かう」
今回のスタンピード未遂事件において様々な可能性を考えた時、大まかに分けて二つの要因が挙げられる。それは、自然発生的に起こったものと人為的に起こされたものである。
スタンピードと一言で言っても、どうやって発生したかという内容よりも“モンスターが群れを成して襲ってくる”という内容の方が重要視される。もちろん、その原因を特定するという調査も行われるのだが、スタンピードが終わった後で調査を行ってもその原因がすでに消えている場合が多く、具体的な原因を特定することが困難だったりする。
しかし、どうやら今回の一件に関しては、原因となっている元凶を発見できたらしい。運が良いのか悪いのか、そのどちらなのかは別として、今は元凶となっているであろう相手に向かった。
「いいぞ、いいぞ。これが上手くいけば、我が聖国が、この世界の覇権を握る第一歩となる」
(聖国? 聞いたことがあるな。確か、この周辺諸国の遠方にあると言われている宗教国家だったはずだ。その聖国が関係するのだとすれば、こりゃまた面倒なことになってきたな)
そこにいたのは、神官が身に纏うような神官服に無骨な皮手袋を着けた中年の男性だった。その傍らには、マンティコアからの報告があった用途のわからない謎の装置があり、その装置が今回の一件の原因ではないかと推測する。
聖国という名で思い出したが、以前マルベルト家の書庫にあった書物を読み漁っていた時に、見たことがある国の呼び方で、セラフ聖国という国があり、略称は聖国だ。
書物の内容では、人類こそ世界の頂点に立つに相応しいという凝り固まった人類至上主義であり、いずれは亜人やその他の種族のみならず、人類を含めたすべての種族の頂点に立つという理想を掲げた独裁社会国家。それがセラフ聖国だ。
仮にも“聖国”という国名であるからして、その国民は信心深く教会や神殿などの神官や修道女も他国と比べてかなりの割合を占めている。
とはいえ、宗教などというものは前世でもそうであったが、争いの種になることが必定といっても過言ではないほどに過激な思想を持ち合わせている連中が多く、自らの理想を実現するためには他人の迷惑を被ることを厭わない。
セラフ聖国もまた御多分に漏れず、自身の目的のためには手段を選ばない過激な思想を持つ国家であり、周辺諸国はできうる限り聖国との交流はしないよう長い間そうしてきた。
ちなみに、セラフ聖国はセイバーダレス公国の南東の国境を越えた先にある国で、このウルグ大樹海とも隣接しているため、ここに聖国の人間がいることはあり得ない話ではない。
とにかく、今回の一件が人為的なものであるとわかった以上、それを何とかするのもマリーシアと交わした依頼の内容にも含まれているため、俺は当事者に話を聞いてみることにした。
「おい、おっさん。こんなところで何をしているんだ?」
「これは異なことを。私がここで何をしようと私の勝手だ。それに、そういう君こそ何をしているのだね?」
「最近この森の様子がおかしいと聞いて調べに来た。どうやら、たった今その原因を見つけたようだがな」
「ほう、君のような子供が冒険者の真似事とは、やはり聖国以外の国は外道が多いらしいな」
まるで自国以外の国はまともではないとばかりに他国のことをこき下ろす。書物であった通り、やはり聖国の人間は頭のねじがぶっ飛んでいる連中のようだ。
「そんなことよりも、この装置はなんだ? 何が目的でこの森にいる?」
「別に大した用ではありませんよ。ただ、我々の崇高な理想を実現するために実験を行っているところです」
「とにかく、これ以上は危険だ。この装置を止めろ」
「我々の邪魔をするというのなら容赦はしません。死になさい! 【ホーリーダスト】!!」
装置を止めろというこちらの要求を拒絶するように男が魔法を放つ。放たれたのは、光魔法の上位魔法である聖光魔法のレベル4相当の威力を持つ魔法【ホーリーダスト】だ。
習得していること自体が珍しい聖光魔法。その中でも、攻撃に特化している魔法を覚えている者はさらに少ない。そんな数少ない攻撃をまるで通常攻撃のように放ってくる男に、俺は相手に対する警戒を強める。
尤も、所詮は聖光魔法の中でも比較的低位の魔法なので、十分対処は可能だ。俺は相手の魔法が届くまでの時間で魔法障壁を展開する。余裕を持って展開された障壁に阻まれるように、相手の魔法が消失する。
それを見た男が「ほう、その年で結界魔法を操るか」と呟いていたが、先に手を出してきた相手に対し、こちらも反撃する。
「では、ご返杯といこう。【ダークフレイムバースト】」
「っ! 【ホーリーウォール】!」
俺はすぐさま漆黒魔法のレベル5相当の攻撃を返してやる。すぐに防御態勢を取った男だったが、いかんせん元の魔力が強い俺の攻撃は強力で、相手の防御魔法を貫通し、男に少なくないダメージを与える。
「ごふっ。ま、まさか漆黒魔法の使い手だったとは、伊達にこの森を闊歩していなかったということか。油断した」
「これで勝負は着いた。今すぐこの装置を止めろ」
「そうはいきません。エクシードよ、その真価を発揮せよ!!」
勝敗が決し、この騒動も終結するかに見えたその時、男が暴挙に出る。俺に勝てないと判断した男が、設置していた装置を暴走させたのだ。
装置内の魔力が高まっていき、装置の効果が強力なものへと変貌しようとしているのがわかった。
「今回は邪魔が入りましたが、次はこうはいきません。では、私はこれにて失礼させていただきます」
「ち、逃がすか! 【バインドツリー】」
男を逃がすまいと魔法で拘束しようとするも、それよりも早く男が取り出した魔石のような何かを地面に叩きつけると、その姿が消え失せる。
「く、転移系の魔道具か。厄介なことになったな」
原因を特定できたところまではよかったが、男の行動によって事態は急展開を迎えることになってしまったのであった。
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