ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

281話「夜のムフフと結婚の大変さ」



「な、なんだとうぅ!? ウルルがお前の奴隷だと!!」

「……違う。俺が出資している店で店員として働いているだけだ」


 モンスターの確認後、ウルルの家に戻りしばらく待っていると後処理を終えたガウルが帰ってきたので、ようやくここで事情を説明する。


 すべての説明を終えたところで、すぐさまガウルがその説明に声を荒げた。俺がした説明では、俺が出資しているグレッグ商会で働いており、名目上は奴隷となっているものの、肩書は店の従業員となっているというものだ。


 できるだけわかりやすく丁寧に説明したつもりだが、どこでどう間違ったのか、ガウルの中では俺がウルルを奴隷としてこき使っているという解釈に脳内変換されたらしい。


 当然そんな事実はないため呆れた顔で否定したが、聞く耳持たずとはまさにこのことで、俺が悪者だとばかりに悪態をついていた。


 いい加減鬱陶しくなってきたため、実力で黙らせようと思ったが、ガウルの言葉が突如として止まった。ウルルの顔面パンチによって。


「ウ、ウルル。何をするんだ!?」

「父は勘違いしている。別にウルルは酷い目には遭っていない。寧ろ、今以上の待遇で働けるところなんてない」

「だ、だがな。お前が奴隷であることに変わりはないんだろ!? だったら――」

「それはウルル自身が望んでそうありたいと思ったからそうなっただけ。ご主人様は悪くない」


 以前からの決まり事として従業員の給金から一部を徴収し、それを奴隷として購入した金額と相殺するという案を実行していた。グレッグ商会の繁盛ぶりは未だに衰え知らずで、そのお陰もあってかほとんどの奴隷たちが自身の購入金額を相殺できており、本人たちが望めば奴隷から解放することも可能となっている。


 しかし、ウルルもそうだが、奴隷たちは誰一人として奴隷からの解放を申し出る者は皆無で、逆に「このまま奴隷でいさせてください」と懇願される始末だ。


 理由としては、一度奴隷の身となった者は肩身が狭く、偏見や好奇の目に晒されるため、仮に一般人に戻ったとしても奴隷だった時の方が立場としては幾分マシらしい。


 もちろん、奴隷から解放されて大成した者もいなくはないが、それはたまたま運がよかっただけであり、奴隷から解放されて必ずしも幸せになれる訳ではない。


 そういった理由から、グレッグ商会に勤める奴隷から解放されたいという言葉が上がってくることはなく、今の今まで従業員兼奴隷という肩書のままに日々を送っているという状態が続いていた。


 尤も、奴隷を従業員とする場合、大概がそういった肩書を持っている者の方が多く、購入した者も高い金を払ったのにも関わらず、わざわざ奴隷から解放してやる義理も人情もない。奴隷はあくまでも人ではなく、道具として扱われているのだから。


「とにかく、そういうわけでウルルにはこれからもうちの店の従業員として働いてもらいたい。だが、無理矢理に連れ去られた手前、一度故郷にいる家族にそのことを伝えておいた方がいいということで、今日は連れてきた」

「まあ、そうだったのですね。わざわざこのような辺境の土地まで足を運んでくださってありがとうございます」


 俺の言葉にウルカが感謝の言葉を述べるが、一家の大黒柱であるガウルは未だ納得のいっていない様子だ。否、事情は理解できたが、自分の娘が奴隷であることに変わりはないのが気にかかっているようだ。


「とりあえず、宿はどこだ? この村にいる間はそこで滞在したいんだが」

「でしたら、うちを使ってください」

「おい、俺は許可してないぞ?」

「あなたは黙っててください」

「……」


 ウルカの一言で、ぴしゃりとガウルを黙らせるその状況に、結婚って大変なんだなと他人事のように思っていると、ウルカがにこやから笑顔で言ってくる。


「ウルルのお世話になった恩人であれば、そんなことは当然です。それに、残念ながらこの村には外からくる者が少なくて宿のような建物がありません」

「なるほど」


 確かに、こんな辺鄙なところにやってくる人間などほとんどいないだろう。そんな場所で宿を営んでも意味などはない。ウルカの言葉に納得すると、俺は彼女にしばらく世話になることを告げる。


「なら、遠慮なく世話になる」

「どうぞどうぞ」

「ぐぬぬぬぬぬ……」


 ウルカに釘を刺されてしまっている手前、本当は反対したそうなガウルが悔しそうに唸る。俺としては転移魔法があるので、一度王都の屋敷やオラルガンドの自宅に戻ることができるのだが、せっかくの厚意を無下にするのもアレということで、素直に世話になることにした。


 それから、さらに話し合った結果、しばらく休暇を楽しんだのちに従業員として働きたいというウルルの意志が尊重されることになり、何日か後にはオラルガンドに戻ることが許可された。


 これに反対したのはガウルのみで、それ以外の家族は概ね賛同を得られた。本当にウルル一家の中で立場のないガウルに同情を禁じ得ない。


 今日は旅の疲れもあるということから、夕食後はそのまま就寝する運びとなった。だが、事件は就寝してしばらく経った夜中に起こった。


「ん?」


 俺が宛がわれた部屋で眠りに就いていると、俺の部屋に侵入しようとする気配を察知する。すぐさま寝床から起き出し、相手の出方を窺っていると、現れたのは予想していた二人の人物のうち一人であった。


「あれ? ご主人様がいない」

「何をやってるんだウルル?」

「っ!?」


 部屋にやってきたのはウルルで、俺の姿がいないことを怪訝に感じていた。その時、俺は彼女の背後に回り込んで声を掛けてやった。すると、ビクリと肩を震わせながらこちらをゆっくりと振り返った。


「もうこんな時間だ。自分の部屋に戻ってさっさと寝ろ」

「今日はご主人様にご奉仕するためにきました。ウルルも、もう子供が作れる歳です」

「……いらん。さっさと服を着ろ」


 どうやら、夜這いに現れたようで着ていた服をその場で脱ぎ始めた。若さ故なのか、多少日には焼けているものの、艶のある透き通った肌は子供から大人になり始めている女性のそれを感じさせる。


 十二歳という年齢にしては、発育のいい大きめの乳房が露になる。目算でDカップといったところだろう。しかし、以前にも公言している通り、俺がウルルとそんな関係になることはあり得ず、仮にこういったことがあっても頭にチョップを落として対処するつもりだ。


 宣言通りウルルの頭にチョップを落とそうとする前に、彼女が爆弾発言を投下してきた。


「父と母も今やってる最中です。ウルルたちもやりましょう」

「……」


 聞きたくなかった情報だが、今はとにかくのぼせ上がったこいつの頭をクールダウンさせるためにも、俺はウルルの頭にチョップを落とした。


 すると、「ふがっ」という間抜けな声と共に涙目で頭を押さえながら“何故だ?”と言わんばかりの視線を向けてきたため、はっきりと言ってやった。


「俺は誰ともそういう関係になるつもりはない。それにお前はまだ十二だ。そういうことをするには早すぎる」

「……」


 俺がそう言うと、ウルルが顔を俯かせる。何かしらの形で俺に恩返しをしたい気持ちはわからないではないが、だからといってこういったことで返されてもまったく嬉しくはない。


「もし俺の役に立ちたいと思うのなら、今まで通りグレッグ商会で働いてくれればそれでいい」

「わかりました。今は子供は諦めます」

「……」


 ウルルの言葉に含みがあることに気付きながらも、何とかこの場を収めることができたことに安堵する。ひとまず、俺にもクールダウンの時間が必要だということで、トイレに行くついでに俺はその場から離れた。……ここまではよかった。


 トイレを目指して家の中を歩いていると、ある部屋から声が聞こえてくる。それは、荒々しい息遣いで、あまり聞いていていい気分にはならないものだ。


「はあ、はあ。お、おい、も、もう今日はこれくらいでいいだろ?」

「何言ってるんですか、まだ宵の口ですよ」

「それは、酒を飲んでる時に使う言葉であって、今使う言葉じゃ――」

「そんなことより、再開しますよ。あと五回は頑張ってもらいますからね」

「やめてぇー」

「……」


 本当に結婚というものは大変なものなのだなと、まざまざと見せられた瞬間であった。翌日、げっそりとしたガウルと肌がツヤツヤのウルカという対照的な二人を見たが、何があったのかはここでは語るまい。

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