閉じる

ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

280話「モンスターの調査」



「狭いところですが、ごゆっくりなさってください」

「お構いなく」


 ウルカの言葉にそう返答すると、適当な場所に座る。家の中は意外にも広々としており、窓などはないが玄関口にドアなどがないため、通気性がとてもいい。ただ、防犯性に関しては改善の余地ありで、治安の悪い場所などではあまりおすすめしない物件となっている。


「ローランドお兄ちゃん。冒険者なんでしょ?」

「そうだが」

「お話! 冒険の話して!!」


 俺が自己紹介で冒険者と名乗ったので、ヘルルとイルルの双子が俺の話を聞きたいとせがんでくる。一緒に村に戻ったウルルとガルルも積極的に話に参加はしないものの、ケモ耳や尻尾がぴくぴくと動いていることから双子の意見に概ね同意しているようだ。


「いいだろう。まずは、俺がオークの大群と戦った話をしよう」


 そんなわけで、俺が過去にあった冒険話を聞かせてやると、双子は興味津々に話に耳を傾け、他の三人は黙って俺の話を聞いている。


「という感じで、オークキングにとどめを刺して、それが原因でBランクになったって訳だ」

「すげぇー」

「ほぇー」


 俺がそんな風に話を締めくくると、感心したように双子が声を上げる。そのタイミングで、復活してきたガウルが戻ってきたようで、途端に家の入口が騒がしくなる。


「おい、なにをくつろいでいるんだ!? まだ俺との話が終わってないぞ!」

「何の話だったか?」

「ウルルに妙な真似をしているという話だ」


 などと見当違いなことを宣うガウルに、呆れを含んだジト目を返してやる。その態度が気に食わなかったのか、「なんだその目は? やはり、やましいことをしているんだな」と食って掛かってくる。


 しかし、そんな彼の暴走を黙って見過ごさない人物がここに二人いるということを彼は忘れたのだろうか?


「父、うるさい。あと、ご主人様に対して無礼」

「ウルルの言う通りですよ。話を聞けば、この方がウルルを故郷まで送り届けてくれたというではありませんか。その恩人に対して取る態度ではありませんね。これは、今夜にでも調きょ……教育が必要なようですね」

「な、なんだろう。何か寒気のようなものが……」


 ウルカの不穏な言動を肌で感じ取ったのか、ガウルがぶるぶると震え出す。そんなやり取りをしていると、突然大声を上げて家に入ってくる人物がいた。


「大変です戦士長! また魔物の群れが現れました」

「やれやれ、今月に入ってこれで何度目だ? 今行く」


 先ほどまで震えていたガウルの顔つきが真剣なものになり、歴戦の戦士のような顔つきへと変貌する。そして、簡単な身支度をして「行ってくる」と短く伝え、やってきた人物と出掛けて行った。


 俺は気になったことがあったので、ウルカに先ほどのことを聞いてみることにする。


「戦士長とはガウルのことか?」

「ええ。ああ見えても、村の中では一番の戦士なんですよ。普段は家族に邪険にされているように見えますが、あれでもいざという時は頼りになるんですよ。普段はああですが」

「父、この村で一番強いです。だから、ちょっとやそっとのことでは死なない」


 ウルカの夫に対する信頼に関心していたところ、ウルルのあまりにもあまりな感想によって先ほどの関心が霧散してしまう。……ウルルよ、お前の父もそれなりに頑張っているのだから、もう少し言葉を選んで発言した方がいいぞ?


 二人のガウルに対するまったく異なる感想をいただいたところで、俺は村に現れたという魔物が気になった。セイバーダレス公国の大公アリーシアから受けた依頼で、ウルグ大樹海の調査ともしスタンピードが起きていた場合の対処を頼まれている。


 正確には、俺がそうするように仕向けたところが大きいが、本当にスタンピードが起きているならば、いずれ対処しなければならない厄介事であることは間違いない。


 仮にセイバーダレスで対処できなかった場合、最終的には俺のところに話が来るのは確実だ。だったら、最初から俺が対処してしまえばいい。例えるなら、小学生の時に誰しもが経験する“今やるところだったのに現象”である。


 小学生の時に先生から宿題を出されたことがあるだろうが、それを自主的にやろうとしたタイミングで親にこんなことを言われなかっただろうか? “宿題やりなさいよ”と。


 そして、その瞬間ほとんどの者がこう思わただろう“今やるところだったのに”と。それが“今やるところだったのに現象”である。


 自分から進んで何かをする時はやる気があるが、それを他人の口から“やりなさい”と言われると、何故かモチベーションが下がってしまう。おそらくは、自分から望んでやるのはいいが、他人から言われると癪に障るという思いからくる感情であると俺は考えている。今回もその“今やるところだったのに現象”が起こりそうな予感がしたため、先に手を打っておこうと考えたのである。


 早いところウルルについての話し合いをしたいところだが、家族全員が揃っていないと説明が二度手間になってしまうため、先にウルグ大樹海の調査の一環として村に現れたという魔物の確認をすることにした。


「失礼、ちょっと出掛けてくる」

「ご主人様、どこに行くんですか?」

「村にやってきたという魔物の確認だ」

「ウルルも行ってもいいですか?」


 そう言いながら、上目遣いでこちらを見てくる。いつの間にそんなテクニックを身に着けたのかと問い詰めたくなる衝動を抑え込み、俺は首を横に振ってウルルの申し出を断る。


「久しぶりに故郷に帰ってきたんだ。お前はここでゆっくりしていればいい」

「ご主人様がそう言うのなら……」


 などと言いながら、あからさまにシュンとするウルルに内心で苦笑いを浮かべながらも、俺はウルルの家から外へと出た。出掛ける際にウルカや双子から「いってらっしゃい」と声を掛けられつつ、俺は魔物がいる現場へと向かった。


「はっ」

「てぃ」

「そいっ」


 魔物が現れたという現場に向かうと、まさに戦闘の真っ最中のようで、村の男たちがモンスターと戦っているところだ。その中でも特に目立っていたのは、ガウルで戦士長という肩書に恥じない戦いぶりを見せていた。


 村に現れた魔物は、ウルグボアという猪型のモンスターで、見た目はそのままダッシュボアやワイルドボアとそれほど変わり映えしない。ただ膂力自体はBランクのモンスターということもあってか、突進力や目標に向かって追尾するような動きを見せ、まったく別物であるということが見ていてわかった。


 そのウルグボアをまるでちょっとした軽い運動をするかのように仕留めていく村人を見るに、彼らが純粋な戦士であることが窺える。さすがは身体能力に優れた獣人であると内心で感嘆していると、俺を見つけたガウルがやってきた。


「何の用だ。ここは子供が来る場所じゃない」

「どんなモンスターが来たのか気になって来ただけだ」

「ふん、ならもう用は済んだだろう。邪魔だから家に戻って――」

「危なーい! そっちに行ったぞ!!」


 ガウルの言葉を遮り、村人の一人が叫び声を上げる。向かってきていたのは、通常のウルグボアの二倍はあろうかという巨体の猪だった。調べてみると、名前が【ウルグファングボア】というAランクのモンスターだったようで、おそらくはウルグボアの上位固体か何かだろう。


「ちぃ、ウルグファングボアか。おい、邪魔だからどいて――」

「ふっ、ぺちんっ」

「ふごっぉ!?」


 ガウルの忠告を無視して、俺はウルグファングボアに接近する。圧倒的物量から繰り出される突進は、掠っただけでも相当なダメージとなるだろうが、俺にとってはダンゴムシが歩行している程度の力でしかない。


 そのままウルグファングボアを迎え撃つ形で、親指に中指を引っ掛け、その指を奴の額でパチンと弾いてやった。そう、デコピンである。


 その程度の攻撃ではどうこうなることもないだろうが、俺がそれをやれば別問題である。パラメータSSS+というとてつもない能力から繰り出されるデコピンがまともであるはずもなく、巨体が簡単に宙に投げ出される。


 そして、そのまま何度も地面に叩きつけられながら、最終的に木の幹がストッパーとなり、それにぶつかる形で止まる結果となった。そんな状態のウルグファングボアが無事で済むはずもなく、横向けになりながらそのまま二度と動くことはなかった。


「お、お前……」

「さっき何か言おうとしていたから改めて聞こう。邪魔だからなんだって?」


 おそらくは、子供である俺がモンスターと戦う力がないと思っていたのだろう。だが、残念ながらこれでも数多くの戦いを経験してきているのだよ。


 驚愕しているのは何もガウルだけではなく、周囲の村人も同じだった。人を見かけで判断してはならないという言葉がある通り、子供だからといって戦えないという先入観は持たない方がいいのである。


 とりあえず、モンスターの確認という目的は達成できたので、未だ呆然とするガウルの姿を鼻で笑いながら、俺はその場を後にしたのであった。

「ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く