ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

278話「目的地到着と父親の扱いが酷いウルル」



「ここが【ウルグ大樹海】か。ここで合ってるんだよな?」

「「……」」


 セイバーダレスの首都サリバルドーラを後にした俺たちは、ようやくセイバーダレスに隣接すると言われているウルグ大樹海に到着する。


 先ほど“ようやく”という言葉を使ったが、ここまでくるのに一日と掛かってはいない。目的地にただちんたらと歩いていては、時間が掛かり過ぎてしまうという理由から、飛行魔法で飛んできたのだ。


 遮蔽物のない快適な空の旅は素晴らしく、通常であれば二十日掛かる距離を一日で踏破してしまった。そのあまりのスピードに、ウルルもガルルも言葉が出ない様子だ。


「おい、合ってるのか?」

「あ、ああ。ここで間違いない」

「やっぱりご主人様はすごいです」


 俺の再度の問い掛けにようやく思考が活動を始めたようで、二人が口々に返答する。とにかく、いろいろ……というほど何も起こらなかったが、目的のウルルの故郷であるウルグ大樹海に辿り着くことができた。


 辿り着いたはいいが、ここで一つ問題が生ずる。それは、索敵で調べてみても人が住んでいそうな街はおろか、集落すら影も形もないということだ。


 ガルルの話では、ウルグ大樹海には数多くの亜人が住んでおり、ある一定のグループを作って生活をしていると聞いていたのだが、どういうことだろうか?


「ガルル。お前らの村はどこだ?」

「まだここからかなり距離がある」

「ちょっと、待ってろ」


 ガルルの返答に俺はすぐさま空へと飛び上がる。瞬く間に高度数百メートルの距離まで到達し、辺りを見回してみたが、その視界すべてが緑一色だった。


 さらに高度を上げて確認してみたが、地平線の端から端まで緑で覆われていたことを鑑みるに、下手をすればシェルズ王国とセイバーダレス公国の二国の領土が、すっぽりと入ってしまうほどの広さを持っているのではと感じた。


 結局、人が住んでいそうな集落を見つけることはできなかったため、諦めてウルルたちのいる場所へと戻って行く。そこで改めてガルルを問い詰めた。


「どうなってるんだ? お前らの村とやらはどこにあるんだ?」

「だから、かなり距離があるって言ってるだろ」

「ここから歩いてどれくらいだ?」

「この方向に真っすぐ歩き続けて十日くらいの距離だ」

「マジか」


 俺の問いにガルルは、森のある方向を指しながらそんな返答をしてくる。しかも、おそらくだがこの十日というのは、森での生活に慣れているガルルたちの足でという意味だろうから、実質的にはそれ以上の時間が掛かるということになる。


 それほどまでにこのウルグ大樹海という場所が広大であり、とてつもないということなのだろう。だが、俺にはお得意の飛行魔法があるので、何とかなると考えている。


「じゃあ、さっそく行こうか」

「また、飛ぶのか」

「その方が早く着くだろ? お前は方角だけ指示してくれればそれでいい」


 そう言って、再び二人と共に飛行魔法で目的の村まで飛んでいくことにした。


 ちなみに、二人をどうやって飛ばせているかについてだが、結界魔法で人一人が入れる球体状の結界を張って、それを俺に付随させる形で疑似的に飛ばせている。ちょうど、某シューティングゲームのメインの機体を補助するオプションのような感じだ。


 結界内はどれだけスピードを出しても衝撃や風圧などは感じないため、最高速度で飛んでも二人の負担になることはない。だからこそ、二十日掛かる道のりを一日で踏破できたのだ。


 時速にして軽く百キロ以上は出ている飛行速度を維持しつつ、俺はガルルが指を差した方向をひたすら進んでいく。それを継続し続けること数時間後、途中途中でガルルの飛ぶ方向の指示があったが、ここで彼から別の言葉が聞こえた。


「そろそろ着くぞ」

「本当か? 長い旅路だったな」

「……普通ならもっと掛かるんだが」


 俺の一言に、呆れた顔を浮かべながらガルルが答える。そりゃあ、自分が何か月という時間を要してようやく辿り着いた道のりを僅か数日で踏破されれば、今まで自分がしてきたことはなんだったのかと思いたくもなる。


 それから、さらにウルルたちの村から近い場所に降り立ち、そこから歩いていくことにする。そして、歩くこと十数分後に何者かが取り囲む気配を察知する。


「止まれ! 何者だ!?」

「ま、待て! 俺だ。ガルルだ」

「ガルル? お前、生きて帰ってこれたのか?」


 そこに現れたのは、ウルルたちと同じようにケモ耳に尻尾の生えた獣人たちだった。おそらく、俺たちの気配を感じ取ってやってきたのだろう。


 最初こそ敵意剥き出しだったが、ガルルの姿を見て落ち着きを取り戻したようで、向けられていた敵意も霧散する。しかし、俺の姿を見るや、すぐにその敵意が再び向けられる。


「そいつは人間だな。一体こんなところで何をしている?」

「ガルル説明」

「あ、ああ。実は……」


 俺が説明しても信じてもらえるかどうかわからなかったため、ここは同じ村の人間であるガルルに説明してもらうことにした。決して、説明するのが面倒だったわけじゃないぞ? ……本当だぞ?


 その後、ガルルの説明によってひとまずは納得した獣人たちから、今度こそ敵意を向けられることはなくなった。


 そこからは、獣人たちの案内で村へと向かい、無事に村に到着する。村という性質上、そのコミュニティの範囲は狭く、俺たちが村にやってきたという情報は瞬く間に広がった。


「ああ父さん。ちゃんとウルルを連れ戻して――」

「ウルル! 無事だったのか!!」

「父痛い。あと暑苦しい」

「ごぼぁ」


 ガルルの言葉を遮ってウルルに抱き着いてきた男がいたが、彼の言動から二人の父親であると予測できたため、ウルルに近寄って行くのを止めなかった。


 その結果、ウルルに抱き着き、彼女の無事を喜んでいる父親のそれだったが、どうやらウルルにとっては腹立たしい行為だったようで、抱き着いている父親の鳩尾に拳をめり込ませていた。


 Sランク冒険者に至るまでの実力を兼ね備えたウルルが繰り出す攻撃は生半可なものではなく、彼女に抱き着いた父親もまた無防備だったということで、いとも簡単に吹き飛ばされた。


「おい、ウルル。今までお前のことを心配してた家族に対して、そりゃないんじゃないか?」

「ご主人様、ウルルの父のこと知らない。父、いつもくっついてきて暑苦しい」

「そ、そうか」


 あまりにもあまりな言動のウルルに若干父親を哀れみつつも、ひとまずはウルルを故郷に送り届けることを僥倖だと思うことにした。

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