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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

277話「ローランド、大公に営業をする」



「ローランド様、お久しぶりでございます」

「やはり、客とはお前らだったか」


 スーナの言伝から一階に降りてきてみると、そこにいたのはアナスターシャだった。


 彼女との出会いは、セイバーダレス公国の王都に入る際、身分証の提示を求められたのでミスリル一等勲章を提示したことが始まりだ。


 その時担当していた門兵が、俺が提示したミスリル一等勲章が本物であるかどうかの真偽がわからなかったため、その判断ができる人間として王族の中から第二公女である彼女が出張ってきた。


 そのことがきっかけで、彼女の母親である大公ともその父である宰相とも知り合うことができたという経緯があるのだ。


「この王都に俺がやってきているとよくわかったな」

「ローランド様? ここは首都でございます。シェルズでは王都と呼ぶようですが、このセイバーダレスでは首都です」

「そうか、まあ王都でも首都でもここがこの国の主要都市に変わりはないだろ」


 などと、久しぶりに会った相手との会話にしては些か妙な話題となっているが、とにかく何故アナスターシャが俺が王都……もとい、首都にやってきているのか疑問だった。


 俺がサリバルドーラにやってきたのは、瞬間移動の能力によるもので、さらに言えばそのやってきたのも一時間ほど前だ。そんな短時間でどうやって俺が首都にやってきているのを知ったのかと首を傾げていると、それを察したアナスターシャが説明してくれた。


「簡単なことですわ。ローランド様がお母様から授与されたミスリル一等勲章には、国内にその勲章を持つ者が入国すると、それがわかるようになっているのです」

「なるほど、どうりで」


 要は、限定条件付きのGPS機能が付いている勲章だったというわけだ。ということは、シェルズ王国からもらった勲章も同じ効果が付与されていると思って間違いないだろう。


 まあ、居場所を知られたところで、瞬間移動で逃げることもできるし、試してはいないがミスリル一等勲章から出ている電波的な何かを遮断する結界魔法などで覆ってしまうという手もある。


 そういうわけで、俺が首都にやってきていることを察知したセイバーダレスの上層部が、俺を迎えにやってきたということらしい。またなにか、面倒臭い依頼を出されるのかと思ったが、アナスターシャの話ではただ挨拶がしたいとのことだ。


「いいだろう。会ってやる」

「ありがとうございます。では、こちらへお乗りください」

「その前に、連れに出掛けることを言ってくる」


 俺はそう彼女に言って、ウルルたちにしばらく出掛ける旨を伝えた。ウルルは付いていきたいと言っていたが、さすがに王族のところへ一緒に連れて行くわけにもいかないため、彼女には残ってもらうことになった。


 それから、アナスターシャの案内で城へと向かい、すぐさま大公と会うことになったのである。


「お久しぶりにございますローランド様」

「ああ、アリーシアもビスタも息災だったか」

「はい」

「ローランド様は、少しだけ背が伸びましたな」


 そうなのだ。普段から俺の近くにいる人間は気が付かないが、十三歳になって俺の身長も百五十センチ台に突入している。この二、三年で是非とも成長させたいと密かに目論んでいる。目指せ、夢の百七十センチ後半!!


 などと脳内で脱線しながらも、他愛ない会話をしていると、話題が俺のことになった。俺がウルルを里帰りさせるために【ウルグ大樹海】に向かっている最中だと言うと、途端に真剣な表情で注意してきた。


「ウルグ大樹海ですか。ローランド様、もしかすると今ウルグ大樹海に向かうのは危ないかもしれません」

「何故だ?」

「実は、ウルグ大樹海は我が国に隣接している大樹海とあって、毎年調査団を派遣しております。今回も二月ほど前に調査を行ったのですが、例年よりも森に生息するモンスターの活動が活発だったとの報告が寄せられているのです。もしかすると、スタンピードの兆候やもしれません」

「スタンピードか」


 前世の地球でも、異常気象や生態系が乱れることによってある生物が大量に増殖したり、異常なまでに個体数を減らしたりするという自然界の減少があった。地球ではそれだけだったが、この世界ともなればその現象がモンスターでも引き起こされる。


 何らかの要因によって普段群れないモンスターが群れ、それによって暴走を引き起こしたり、それとは逆に単独で行動する種類のモンスターの中から異常個体が出現し、その個体を筆頭に様々な種が群れを成すというケースも存在する。


 そして、それらのモンスターの群れに共通するのが、理由はわからないが人のいる場所、特に街や都市を目指して侵攻してくるという特徴がある。
 モンスターの本能からくる行動なのか、それとも人を襲うという何らかの目的があるのか、長年に渡って学者たちがその要因を究明しようとしているが、未だに解明されていないメカニズムだったりする。


 そもそもの話からして、スタンピード自体の遭遇率が低いということもさることながら、詳しいデータを収集しようにも、そういった仕事ができそうなのは生存率の高い存在、それこそSランク以上冒険者が必須となってくる。


 SSランクほどではないにしろ、Sランク冒険者自体の絶対数も少なく、現在確認されているSランク冒険者は、三百人にも満たない。尤も、その三百人のうちの十数人かはうちの使用人たちが占めているのだが、それは触れないことにするとしよう。


「なら問題ない。前に活動していた拠点で、オークキングが率いていた数千のオークの群れを止めたことがある」

「なっ」

「オークキング……」

「それは本当ですか!?」


 俺の記憶が正しければ、俺がまだ今のように化け物染みた強さを手に入れる前のこと、レンダークという都市でオークキングが率いているオークの群れ数千が襲ってきたことがあった。


 その時はオークキングという上位種が率いている群れだったため、スタンピードとは少し毛色が違うかもしれないが、何千という膨大な数のモンスターが押し寄せてくるという点については同じだ。


 あの時はオークの群れの四分の三を魔法で殲滅して、残ったオークをレンダークの冒険者に戦わせていた記憶がある。今となっては懐かしい記憶だが、その時の俺の年齢が十二歳であることから、時間的にはまだ一年も経過していない。


 俺が十三歳になるまでいろいろな出来事があったが、今思い返せば濃密な一年を送ってきたような気がしなくもない。てか、時間経過しない結界を間に挟んでいるので、期間的には実質五年以上が経過していたりする。


「そこでだ。アリーシア、俺に依頼する気はないか?」

「ローランド様にですか?」

「実は、先日成り行きで俺の冒険者ランクがSSランクになったんだ」

「そ、それは本当ですか!?」


 俺の言葉にアリーシアが大きく反応する。反応の仕方が、俺がオークキングの率いるオークの群れを倒したと聞いた時のアナスターシャにそっくりだったため、やっぱり親子なんだなというどうでもいいことを考えていると、アリーシアが問い詰めてくる。


「何をしたんです? SSランクなんてそうそうなれるもんじゃないですよ?」

「特にないな。ああ、そういえば、実質的にSランク冒険者を十数人育てたくらいか?」

「物凄い偉業じゃないですか!!」


 そもそもの話、俺がSSランク冒険者に昇級した理由を聞いていなかったが、思い当たる節があるとすればそれくらいしかない。
 俺の話を聞いて、アリーシアたちは目を見開いて驚いていた。どういうことかと、さらに追及するとアリーシアが説明してくれる。


「いいですか。そもそもSランクに所属している冒険者は、全冒険者ギルドを合わせても三百人もいません。その中で、十人以上ものSランク冒険者を育てるなどということができる実力を持っているということは、SSランクになる十分な根拠になります。そ、も、そ、も、Sランク冒険者自体が、何か一つの偉業を成し遂げなければ簡単に昇級したりしません。それこそ、ほんの一握りの選ばれた人間しか到達することが困難な称号なのです! SSランクに至っては、世界で三人しかいないんですよ! 三人ですよ三人!!」

「お、おう」


 彼女の力強い説明に、一瞬たじろいだが、そのお陰でSランクとSSランク冒険者の凄さが想像以上に伝わった。特に、SSランクに関しての説明はわざわざ三本指をこちらに突き出してくる始末だ。


 アリーシアの説明で、最高位冒険者の凄さは理解できた。だからといって、特別な認識を持とうとも思わないし、精々がちょっと面倒臭い依頼を押し付けられるランクと思う程度だ。


「とにかくだ。俺に依頼を出せ。内容は、【ウルグ大樹海】でスタンピードが起きているかどうかの確認と、仮に起きていた場合のスタンピードの鎮圧だ」

「はあ。マンティコアを討伐したローランド様なら問題ない依頼とは思いますが、よろしいのですか?」

「ああ、寧ろ出してくれるとありがたい」


 彼女に依頼を勧める理由として、スタンピードが起きていた場合のタダ働き防止の保険を掛けておきたいからだ。


 こういったパターンでいうなら、このままウルグ大樹海に行ってスタンピードが起きていたから対処したとしても、報酬金などは支払われず、精々がモンスターの素材を売ったお金のみというあまりにもあまりな報酬となってしまう。
 言うなれば、自分の労働に対する報酬を自分自身で作っているような何とも無駄な行為に思えてしまう。


 そういった思いをするくらいなら、多少面倒事を抱え込んでも、報酬がある依頼をあらかじめ出してもらうことで、“俺は依頼を出した人間のために仕事をしたんだ”という言い訳にも似た大義名分を得ることができるのだ。


「じゃあ、交渉成立ということで、終わったら結果を報告しに来るから」

「は、はあ。わかりました……」


 なんとも気の抜けた生返事を聞きながら、俺はアリーシアたちに挨拶を済ませ、そのままウルルたちのいる宿へと戻って行った。


 余談だが、アリーシアたちと話している中で、俺の縁談についての話が出た。その時に第一公女のアレスタと第二公女のアナスターシャ両方を勧められたが、丁重にお断りしたのは言うまでもない。これ以上、ハーレム要員を増やしてなるものか……。


 そして、俺が訪ねてきていたことを知ったアレスタが「なんで呼んでくれなかったのよぉー!!」という叫び声を上げたことも付け加えておく。

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