ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
276話「ショートカットと来客」
「着いたぞ。ここが、セイバーダレスの王都【サリバルドーラ】だ」
「……」
俺の言葉にガルルが唖然とする中、俺は久しぶりにやってきたセイバーダレスの王都の景観を楽しむ。楽しむといっても、シェルズ王国の王都とそれほど建築様式が変わらないため、あまり新鮮味はないものの、雰囲気自体がシェルズ王国とは少し違っていてそれが何とも趣深い。
ガルルとの模擬戦以降に起きた出来事については、早々にガルルが負けを認め、ウルルが俺に従っている理由が理解できたようで、模擬戦以降は敵意を向けてくることはなくなった。
結局のところ事情説明が必要になると考えた俺は、ウルルの要請に従う形で彼女の故郷まで付いていくことにしたのだ。決して、SSランク冒険者が出揃うまでの暇つぶしではないことはここで言及しておく。
ちなみに、ソバスたちについてはオラルガンドに残ってダンジョンで自主トレーニングをするか、一度ティタンザニアに戻るかという選択肢を与えると、王都の屋敷が気になっていた様子で、全員が王都に戻りたいと言ってきたので、王都に戻ってもらった。
ソバスたちの実力的に、当初の目標であった“Aランクモンスターの単独撃破”も達成できており、冒険者ランクもSランクに昇級しているため、長かった社員旅行のような使用人育成計画もこれで終了ということになった。
目的地である【ウルグ大樹海】については、できる限り時間を短縮できた方がいいということで、シェルズ王国からセイバーダレス公国までの道中を瞬間移動でショートカットしたため、実質的にガルルの体力を回復するためと旅の準備をするのに使った一日しか時間が経過していない。
本来であれば、シェルズ王国からセイバーダレス公国の王都まで少なくとも徒歩で数か月は掛かる道のりだったが、それが僅か一日で済んでいる。改めて、転移系の能力がぶっ壊れていることを思い知らされると同時に、この能力を手に入れられたことは僥倖だったとこの世界の神に感謝した。……いるのかどうかは知らんがな。
そんなわけで、一応ウルルたちの故郷までの旅の物資を整えた状態でシェルズ王国を出立したのだが、旅らしい旅をまだ行っていないため、物資の補充は全くと言っていい程に必要はない。
「どうする? このままお前らの故郷に向けて進むか、一応、宿を取って一泊していくか」
「ウルルはどっちでもいいです」
「お、俺も」
俺の問い掛けに質問の内容を理解しているのかしていないのか、呆然としたまま空返事のような答えが返ってくる。実際のところ焦るような旅ではないし、実質数か月の道のりを一日で踏破しているため、それこそ慌てる必要性はまったくない。
「じゃあ、一日だけ泊まっていこう。こんなことがないと、なかなか来れないだろうからな」
「わかりました」
「あ、ああ」
再び空返事が返ってきたものの、一応俺の言葉は聞こえているらしいので、そのまま今日泊まる宿を探すべく、俺たちは王都の大通りを歩いて行く。
目的の宿を見つけた俺は、すぐに受付を済ませようとしたがここでちょっとした言い合いが発生する。
「ダメだ。俺との二人部屋だ」
「いやだ。ご主人様と一緒に寝る」
宿を取る際、一人部屋と二人部屋を確保したのだが、部屋割りについて意見が対立してしまう。俺としては、俺が一人部屋でウルルとガルルの兄妹が二人部屋のつもりだったのだが、ここでウルルが俺と二人部屋を使うとごね出したのだ。
出会った当初は十一歳だったウルルも、今では十二歳となっており、未だ成人はしていない。しかしながら、彼女が獣人故なのか、はたまた育ち盛りなのかはあずかり知らぬが、明らかに以前よりも女性らしい体つきに成長している。
特に顕著なのは太ももから臀部にかけての肉付きと、そして何よりも目覚ましい胸部装甲のレベルアップだ。以前はBだったそれも、今ではDに迫る勢いにまで来ており、走ったり激しく動いた時にはその未熟な果実をふるんと揺らすようになっていた。
俺としても、まったく知らない人間ではないし、仮に同じ部屋で寝たとしても何も起きないのだが、世の中に絶対ということはないだろうし、何より今俺が言っていることは俺視点での話であるため、ウルルが夜伽と称して夜這いをかけてくる可能性もある。
個人的には、仮にウルルが襲ってきても頭にチョップを落として撃退する自信はある。だが、できることであればそういった面倒なことに労力を使いたくはないので、大人しく兄と同じ部屋で泊まっていただきたいというのが俺の見解だったりするのだが……。
「ウルルもやっと赤ちゃんが作れるようになった。だから、頑張る」
「何を頑張るんだ!! お前が頑張ることは、父さんたちに無事を伝えることだろうが!!」
(その情報は聞きたくなかったな……)
一方は色情、また一方は情愛。どちらも同じ情だというのに、こうも品が違うのかと内心で呆れてしまう。そんなことはともかくとしてだ――。
「ウルル。俺はお前と寝所を共にする気はないぞ?」
「そ、そんな!」
「第一にだ。どう考えても、一人部屋が俺で二人部屋がお前らに決まっているだろ」
「……」
まるで絶望の淵にでも叩き落とされたような顔をするウルルに、吹き出してしまいそうなのを堪える。そんなあからさまな態度を取られると、申し訳ないを通り越して面白いんだが……。一方のガルルといえば、俺のドが付くほどの正論にゆっくりと頷いている。
結局のところ、ウルルの願いが聞き届けられることはなく、一人部屋は俺、二人部屋はウルルとガルルということで決着する。その様子を見守っていた受付をしていたスサーナと、騒ぎを聞きつけてやってきたスーナの親子はといえば、「あらあら、若いっていいわね~。わたしも今日あたりあの人と久々に……」とウルルの熱に当てられていたり、「こ、これが愛なのですね」などと訳のわからんことを呟いていた。
それからは俺の精神的な疲労が増してしまう結果となり、街へと散策に出る気にもなれず、昼食までダラダラと過ごそうかと考えていた。だが、その思惑は招かれざる客の手によって阻まれてしまった。
「ローランドさん、スーナです」
「なんだ」
「今、表にローランドさんの知り合いだという方が来ているのですが」
「なに?」
スーナの言葉を聞いて、俺は怪訝な表情を浮かべる。それは仕方のないことで、シェルズ王国の王都であればそれも納得だったが、ここはセイバーダレス公国の王都なのだ。知り合いらしい知り合いなどいる訳がない。いるとすれば、公国の上層部である。
そもそも、俺がセイバーダレス公国に赴いた理由は、シェルズ王国の第一王女であるティアラが俺との縁談を無理矢理進めようとしたことが原因で、一時的に隣国へと避難するという措置を取ったためだ。
元々、シェルズ王国以外の国にも多少の興味があり、俺の人生の目的でもある世界を見て回るという趣旨にも合致していたため、セイバーダレスにやって来たという経緯があったのだ。
紆余曲折の結果、セイバーダレス公国を苦しめていたSSランクモンスターのマンティコア討伐依頼を公国のトップである大公に依頼され、その結果二個目のミスリル一等勲章を授かることになったのである。
「わかった。会おう」
「わかりました」
そして、宿に訪ねてきた人物は俺が予想していた人物であったと同時に、新たな騒動の幕開けを予感させたのであった。
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