ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

274話「新たな騒動」



「さて、どうしたものか」


 イザベラから話を聞いたのち、俺は冒険者ギルドを後にした。あれからさらに詳しい話を聞くと、実際にSSランクの冒険者たちに会うのは少なくとも一か月後とのことらしい。


 その理由としては、彼らが一所におらず遠方にいる場合があるということだ。そもそもSSランクの冒険者という存在は我が強く、その実力から見ても品行方正な人間ではない。


 今回の招集もごねられる場合があり、応じなければ冒険者ランクの剥奪という条件の下で招集させるというものらしいのだ。つまり、俺だけでなく今回のお相手であるSSランクの冒険者たちも乗り気ではないということだ。


 当人同士が会いたくないというのならば、そのまま会わなくてもいいのではないかとも思うが、これが組織というものに属するしがらみなのか、過去の形式に則ったものである以上ギルドとしても今回の件については乗り気ではないが致し方なしというスタンスのようだった。


 そんなしがらみなど捨ててしまえと心の中で悪態を吐いたのは、俺でなくてもそう思ってしまわなくもないだろう。ともかく、SSランク冒険者と会うまでまだ今しばらくの猶予があるということは間違いない。


 ちなみに、集合場所はこの国シェルズ王国王都ティタンザニアの冒険者ギルドとなっており、基本的にSSランク冒険者が誕生した国の王都で会うことが通例らしい。


 そんなこんなで、数か月先の予定が決まってしまった形にはなるものの、その間ずっと何もせずに過ごすというのはあまりに無駄が過ぎる。ということで、何か暇を潰すことはないかと考えたが、今まで通り修行か生産活動をするかのどちらかという結論になってしまった。


「とりあえず、新商品の売れ行きを見に行くか」


 ひとまずは、新たに追加した大きさの異なるスプーンとフォーク、トング、サンダルの売れ行きを確認しに行くため、俺はグレッグ商会へと足を運ぶ。


 グレッグ商会にやってくると、入り口からでもわかるくらいの大声が響き渡っており、何か揉め事が起きている様子だ。


「オイラと一緒に村に帰るんだ!」

「やだ。ウルルはここにいる! 村には帰らない!!」


 どうやら揉め事の中心人物はウルルらしく、なにやら男と口論している様子だ。そして、男の特徴として彼女と同じくけもの耳に尻尾が生えている。


 このままでは騒ぎが大きくなると判断したグレッグが、ウルルと彼を応接室へと連れて行こうとしたところで、彼と目が合う。


「これは坊っちゃん」

「なんか揉めているようだな。俺も参加していいか」

「はい、もちろんです」

「ん? なんだこの子供は? お前は一体誰だ。これは俺とウルルの話で、お前には関係な――」

「それ以上ご主人様を馬鹿にするなら、いくらガルル兄でも許さない」

「ぐっ」


 グレッグが俺の参加を認めると、怪訝な表情で男が俺に言及する。しかし、男が話しているのを遮るようにウルルが割って入る。その体からは溢れんばかりの殺気が迸っており、さすがはSランク冒険者まで昇級しただけはあると内心で感嘆する。


 ちなみに、冒険者として生きていけるようになった奴隷たちや使用人たちに「もううちで働くのを辞めるか?」と言ってみたところ、即座に全員が首を振って拒否した。
 奴隷たちに関しては、すでに自分の購入金額以上の報酬を得ているため、いつでも奴隷から解放することができるようになっていたが、どうやら彼女たちにそんなつもりはなく、これからも働かせてほしいと懇願された。


 使用人に至っては、「仮に我々があなたより強くなったとしても、我々はあなたにお仕えいたします」と言いながら片膝を付いて平伏する始末だ。
 一体どこでこれほどまでの忠誠度が高くなったのだろうか? ……まさか、ご飯じゃないだろうな?


 とにかく、店の用心棒としてこれ以上ないほどに強くなってしまった奴隷たちの中でも、ひと際強くなったウルルの殺気を受けてまともに立っていられるはずもなく、男は片膝を付いて蹲ってしまう。


「それくらいにしておけウルル。あまり人に殺気を向けるものじゃない」

「わかった」


 そんな状況下、ウルルを嗜めることで何とかその場を取り繕うと、俺たちは応接室へと向かった。


 通された部屋に入り設置されていたソファーに各々が座ると、開口一番男が声を上げる。


「急にいなくなったと思ったら、いつの間にか奴隷に落とされているとは思わなかった。今まで辛かっただろう。こんなところは辞めて俺と一緒に村に帰ろう」

「帰らない。ウルルの居場所はここ。ご主人様の来る場所ウルルが守る」

「何故わかってくれない! お前がいなくなって俺も弟も妹も父も母もどれだけ心配したことか!!」

「ちょっといいか?」


 再びウルルと男がヒートアップしてきたので、それを止める形で俺が割って入る。もう、大体のことは予想できているのだが、予想はあくまでも予想でしかないため、情報を確定させるため、男に問い掛ける。


「俺はローランドという実質的なウルルの雇い主なんだが、あんたは?」

「……俺はガルル。そこにいるウルルの兄だ」

「そうか。まずは事情を話してくれないか? 話はそれからだ」

「……わかった。実は……」


 ガルルの説明によると、このシェルズ王国の隣国にあるセイバーダレス公国。そのセイバーダレス公国をさらに西に進んだ先にある【ウルグ大樹海】と呼ばれる途方もなく広大な森が存在している。


 そこは人の文明があまり入っておらず、主に獣人などの原始的な種族がまばらに集落を作って生活しているだけの場所なのだが、ウルルたちはそこで日々過ごしていた。


 ところが、森の奥へと出掛けたウルルがいつまで経っても帰ってこなかったことを心配したガルルたちが捜索したものの、結局彼女を見つけることはできなかった。


 そこで家族の中で最も嗅覚の鋭いガルルが森の外へとウルルを探しに出掛け、見事彼女を探し出すことに成功したのはよかったが、自分もトラブルに巻き込まれてしまい、再び彼女を見失ってしまったらしい。


 そして、トラブルを対処し、ウルルの匂いを追って行った結果、ここに辿り着きウルルを見つけることができたということらしい。


「というわけだ」

「なるほど、ようやくウルルを見つけたというのに、当の本人が帰りたがっていないという訳のわからない状況になっているということか」

「……」


 俺の言葉にガルルが無言を貫く。沈黙は是であるということなのだろう。そして、短い時間ではあるが、俺とウルルとの関係が主従の関係だということを理解したガルルは視線で訴えかけてきている。“お前からも何とか説得してくれ”と……。


 元々人間の国であるシェルズ王国やセイバーダレス公国などでは、亜人に属する獣人族を見かけることは珍しく、その希少性から奴隷として売買されることがままあると聞いたことがある。
 おそらく、ウルルはそれ目的で誘拐されてしまい、奴隷として売られてしまったのだろうと推測できる。そして、かく言うガルルのトラブルというのもそれ関係なのだと何となく察する。


 どちらにせよ、ウルルが自分の意志に反して親元を離れている以上、せめて自分の身が安全だということを一度故郷の家族に伝えるべきではないだろうか?


 そのような結論に至った俺は、ウルルとガルルにある提案をすることにした。

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