閉じる

ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

266話「一階層のボス」



「えいっ」

「ていっ」

「それっ」


 ダンジョンに潜り始めて数時間が経過する。今の状況は、戦闘経験のない使用人たちを中心にした実践的な戦闘を主に行っているところだ。


 一通り戦闘経験者に戦ってもらってある程度の手本を見せてもらい、次に戦闘経験がない者の番になったのだが、やはりというべきかあまりいい結果ではなかった。


 そもそも、戦うという行為を行ってこなかった者にいきなり戦えと言われてすぐにスムーズな動きで戦闘ができるかといえば、答えは否と言わざるを得ない。
 戦闘経験者の手本を見ていたとはいえ、そのまま同じ動きが再現できるのかといえば、それも否定せざるを得ず、最初のうちはグダグダな戦闘が繰り広げられていた。


 しかし、人間何事も習うより慣れろという言葉もある通り、最初の何回かはぎこちない動きで戦っていた者も、それを十数回と繰り返せば、嫌でも何となくどう動けばいいのかわかってくるものだ。


 そのために今回ダンジョン攻略と称しておいてなんだが、攻略する階層は一階層のみという制限を設けており、ひたすらスライムとの戦闘のみをやらせ続けていた。


 戦闘経験者たちは、すぐにやられる相手に暇を持て余していたが、中にはブランクのある人間もいるため、戦う術を持っていたとしても油断せずに戦う勘を取り戻すよう言い含めている。


 とにかく、まずは非戦闘員だった連中を戦闘に慣れさせることを優先させた結果、今では躊躇うことなく自分の持っている武器を使って攻撃ができるくらいには成長していた。


「ローランド様、あれをご覧ください」

「ゴブリンか」


 しばらくスライム相手に戦わせていると、ここでようやくスライム以外のモンスターが出現する。スライムと同じ最弱に位置するモンスター、ゴブリンである。


 最弱に位置するといっても素人から見れば動きが俊敏で、個体によっては武器も使いこなす場合もあるため、侮っていい相手ではない。しかしながら……。


「とりゃあ! やったぁー。ローランド様、やりましたよぉ!!」

「そ、そりゃあよかったな(効果的とはいえ、メイスを頭に直撃させるとはな)」


 戦闘に慣れていない組であった見習いメイドニッチが放った打撃武器メイスによる攻撃がゴブリンの頭に直撃する。女の子とはいえ、身体強化による攻撃は尋常ではなく、頭が爆散する事態は避けられたが、それでも頭が凹んでしまうという状態になり、そのまま地面に倒れて動かなくなってしまった。


 末恐ろしいのは、そんな状態にゴブリンがなっているのにも関わらず、純粋な笑顔を向けてきているところだろう。元来微笑みというのは、威嚇や敵意から発展したものであるという説があるらしいが、彼女の微笑みを見て、それもあながち間違いではないと思ってしまった。


 幸いなことなのかどうかはわからないが、他の戦闘慣れしていない参加者がそのような事態になることはなかったのだが、それでも徐々に戦闘行為に対して躊躇いが無くなっていっている。元より俺自身それを望んでいたのだが、うら若き女性たちが嬉々としてスライムやゴブリンを狩っている姿は、違和感を覚えざるを得ない。


 さらに参加者たちに戦闘を経験させ、戦闘に対してほとんど躊躇することなく戦えるようになったところで、ちょうど昼時だったのでストレージから食べ物を出してやった。


 それは普段俺も口にしている食べ物であるため、味に関してはかなりのものであり、その場にいた全員が食事に夢中になっていた。


 午後からは、ソロでの戦いをメインに戦わせてみることにした。今まで、一匹のスライムやゴブリンに対して三人から四人のグループで戦わせていたのだが、それを単独……つまりは一対一でやらせてみたのだ。


 俺一人がそれぞれを付きっきりで教えると効率が悪いと思い、戦闘経験者の参加者にも手伝ってもらってなんとか全員ソロでの戦いを経験させることができた。


 それを何回か行ったところで、時刻が夕方に近づいてきたため、今日はこれくらいにして一度街へと戻ることにした。





     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~





 翌日、再びダンジョンへと舞い戻ってきた俺たちは、昨日のおさらいとしてソロでの戦いを行わせたのちに、いよいよ一階層のボスへと挑戦させることにした。


 階層ボスということで、戦う人数は五人から六人のグループを組んでもらい、監督として俺が見届けるようにし、危なそうだったら介入するという形を取ることで、安全にボスと戦えるようにした。


 さらに、そのグループの中に戦闘経験者を入れることで、さらにも増して安全にボスと戦うことができるようになっており、余程のことがない限りは怪我をする心配はない。


「では、これより一階層のボスと戦ってもらう。まずは、ステラ、マーニャ、ニッチェ、モリス、ルッツォの五人で戦ってもらう。今まで戦ってきたことを活かせば問題なく戦えるはずだ。いざとなったら、俺もいるから安心して戦ってくれ」

『は、はい!』


 初めてのボスということで、戦闘経験者以外のメンバーに緊張の色が浮かんでいるが、実際のところは問題ないと考えている。経験者は元暗部のステラとマーニャだが、この二人であればあまり前に出ないように立ち回りながら、他のメンバーに攻撃の機会を作ってくれるだろうという算段で最初のメンバーに選んだ。


 今回は他の冒険者が並んでいるということもなかったので、すぐに戦うことができるのは有り難かった。戦う前にボスがビッグスライムとスライムの群れだということを告げ、最初のメンバーが一階層のボスに挑むため、ボス部屋の扉を潜った。


「はっ」

「えいっ」

「たぁっ」

「えいやー」

「どっこいしょっ!」

「……」


 ボス部屋に入ってすぐにボス戦がスタートする。ボスは事前に告知した通り、ビッグスライムと通常のスライムが数匹いるラインナップで、さらに俺の予想した通り、まずはステラとマーニャが速攻で取り巻きのスライムを撃破していた。


 ボスのみに集中してほしいという彼女たちの配慮なのだろうが、それがいい判断だったようで、他の三人も拙いながらも連携を組んで戦っているようだ。


 危なそうになれば、ステラがビッグスライムの気を引いてタンク役をしっかりとこなし、その隙を突いてそれぞれが攻撃を仕掛けている様子だ。


 ボス部屋にそれぞれの掛け声が響き渡っているが、一人だけおっさん臭い掛け声が響いている。言わずもがなルッツォだ。もう少し、なんとかならないのかとも思ったが、本人は至って真面目に取り組んでいるため、あまり強く指摘できないのが辛いところだ。せめて“よいしょ”でお願いしたい。


 終始有利な状況を維持し続けていたことで、ぎこちない動きながらも危なげなく勝利してしまった。実力的には問題ないとは思っていたが、こうも簡単に撃破できてしまったことに内心驚きを隠せない。てか、ステラとマーニャが強すぎるだけか?


 それから、交代で戦闘経験者組と素人組との組み合わせでビッグスライムを周回してもらい、戦いの経験を積ませていく。一度お昼休憩を挟み、そのあとはひたすらビッグスライムを狩りまくる。


 途中、冒険者が現れたので彼らに先に入ってもらい、こちらが独占しないように考慮することも忘れない。


 結果的に、経験者組一人に対し、素人組四人による組み合わせであれば、ほぼ間違いなくビッグスライムをどうにかできるようにまで成長した。


 余談だが、ビッグスライムの素材を売った報酬は、参加者全員で均等に分けることになった。全員俺に渡して来ようとしたが、金には困っていないし、皆が働いた報酬ということで納得してもらった。


 その日はその作業だけで夕方となってしまったので、今日のダンジョン攻略は終了となったのであった。

「ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く