ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

265話「ダンジョンへ」



「では、これよりダンジョン演習を開始する」


 俺の一言で、ダンジョン攻略が始まった。冒険者ギルドで新規登録を終えた使用人たちを引き連れて、さっそくダンジョンでの実践訓練を開始することにする。


 オラルガンドのダンジョンについて改めておさらいすると、このダンジョンは全三百階層あり、ランクに応じて攻略可能な階層が定められている。詳しい一覧は以下の通りだ。



 F 三階層まで

 E 七階層まで 

 D 十五階層まで

 C 二十階層まで

 B 三十階層まで

 A 五十階層まで

 S以上 制限なし



 俺とナガルティーニャを除いた人類史上における最高到達階層は八十六階層で、かつてのSSSランク冒険者が所属していたパーティーが到達したということは以前にも話したはずだが、そのダンジョンの二百五十階層で、数年ほど修行のためナガルティーニャと共に生活をしていたという経緯がある。


 その修行の期間の間は体の成長し続けていたが、彼女が張っていた結界の効果によって時間の概念が捻じ曲げられていたため、結界の中と外では時間の流れが異なっているというのを本人から聞かされたことがある。
 だからこそ、今も十二歳でいられるわけだが、それよりも問題は今回のダンジョン攻略が上手くいくかどうかである。


 今回、念のために参加者全員が【魔力制御】と【魔力操作】を使って、既に発現していた属性魔法と身体強化をレベル1以上にするという、戦闘で必要となってくるスキルを最低限覚えるまでダンジョン攻略を控えるようにしていた。
 だが、この一月の間で俺が定めていたその最低条件を全員がクリアしたため、今回のダンジョン攻略が実現したのである。


 最低条件といっても、参加者の中には戦闘に慣れていない素人も含まれているため、まずは戦うことに慣れてもらうというそれほど難しくはないところからやっていこうと俺は考えている。


「まずは手本として戦闘に慣れている者から戦ってもらい、次に戦闘に慣れていない者も完全な安全を確保した状態で戦ってもらう。何か質問は? ……なければ、これよりダンジョンアタックを開始する」

『はい』


 俺の号令によって、いよいよダンジョン攻略が始まる。四方を岩壁に囲まれた洞窟のような通路をしばらく歩いていると、お目当てのモンスターが姿を現す。
 モンスターといっても、駆け出しの冒険者でも十二分に戦うことが可能なスライムで、しかもその数も二匹と少数だ。


「二匹か、とりあえずそうだな。ソバスとミーア辺りに戦ってもらおうか。他の者は、二人の戦い方を見ておくように」

「かしこまりました」

「承知しました」


 俺の言葉にソバスとミーアがそれぞれ答える。ソバスの戦闘スタイルはどうやら肉弾戦のようで、両の拳を目の高さで構えるオーソドックスな戦闘スタイルだ。
 一方のミーアは腰に下げていた鞭を取り出すと、地面に一度それを叩きつけ素振りのようなルーティーンをする。内心で、女王様だと思ったのはここだけの話だ。


 スライムは、未だ敵意を向けられていることに気付いていないのか、緩慢な動きでその場に佇んでおり、最弱モンスターらしい挙動をするのみだ。


「はっ」

「それっ」


 ソバスはそんなスライムの懐に瞬時に飛び込み、腰だめに溜めた拳を正拳突きを繰り出すように前に突き出す。それに対してミーアは、少し離れた位置から巧みに鞭を操り、強烈な一撃をスライムに与えていた。


 そんな攻撃を受けてスライムが生き残っているはずもなく、ドロップアイテムを残した状態で消滅してしまった。以前来た時は、割に合わないということでほとんど相手にしなかったスライムだが、こんな機会でもなければ相手にすることは金輪際ないだろう。


 二人の戦闘結果に参加者の中には感嘆の声を上げる者もおり、目を丸くして驚いていた。尤も、元々彼らのステータスを理解している俺からすれば、この程度の相手に苦戦するようなことはあり得ないので、本当に戦闘の手本を見せてもらうためにやってもらったという意味合いが強い。


「うん。とまあ、このような感じで戦ってもらうことになる。戦いのコツとしては、躊躇せずに攻撃するということだ。未知の相手にそれをするのはなかなか大変だと思うが、今回で徐々に慣れていってくれ」

『は、はい……』


 そんな俺の指示に、不安気な表情を浮かべながらも、戦闘慣れしていない参加者たちが頷く。戦闘を行うにあたってまずは、相手に遠慮せず攻撃するということが大事だ。


 今回の場合、相手が最弱のスライムということで、致命的なダメージを負わされることはないだろうが、それでも襲い掛かってくる相手に対して攻撃をするというのは、慣れていない者にとってはとても勇気のいることだと思う。


 だからこそ、怪我のないように最弱のスライムを相手にしている訳だし、まずはそういったところから慣れさせる必要があるということも理解しているつもりだ。かくいう俺も、初見の相手には慎重に戦うからな。


 それから、しばらく一階層を練り歩き、何回か戦闘慣れしている者に戦ってもらった。ある者は拳や爪などの肉弾戦を挑む者もいれば、剣や短剣などの武器を使用して仕留める者もいた。


 意外だったのは、誰も魔法を使って倒す魔法使いのような人間がいなかったことだ。そのことについてソバスに聞いてみたところ、基本的に一般的な戦いに従事する冒険者などは、自分の拳や武器を使って倒すことが多く、魔法使いタイプの冒険者は珍しい部類らしい。


 そして、ただでさえ荒事に慣れていない一般人などのほとんどは魔法を使った戦闘をやったことがないため、必然的に己の拳や武器を使った戦闘になってしまうのだとも聞かされた。


「尤も、一般の人間で魔法を自在に操れる人も少ないですから、余計に魔法での戦闘という考えに至らないのですよ」

「なるほどな。でも、魔法を使って倒せれば便利だと思うぞ。使うのは自分の魔力だけだからな」

「ローランド様。それはローランド様くらいの魔法の才能があって初めて言えることです。普通の人間は、まともな魔法を一回使えれば凄いとされていますから」

「そんなものか」


 そうソバスに聞かされ、改めて自分との違いに気付かされた。今思えば、当然といえば当然のことではあるが、仮に魔法を自在に使える才能があれば、一般人は全員普通の仕事をせずに魔法を使った仕事をしているだろう。


 だが、それは魔力制御と魔力操作の重要性を理解せずに魔法を使っているからであり、この二つの能力をしっかりと鍛え上げれば、ちゃんとした魔法を使うことは不可能ではない。
 要は、魔法を使うにあたって大事なことは才能如何よりも、魔法を使う際に重要なことを知っているか知っていないかなのである。


 今回のことでそのことに気付いた俺は、今後のカリキュラムにそれも教えていこうと改めて考えつつ、ひとまずはダンジョン攻略に集中しようと思うのだった。

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