ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

264話「新規登録と雑用」



 使用人たちを鍛え始めて早一か月と少しが経過した。徐々にではあるが、彼らも確実に強くなっている。


 まずは戦闘組以外の使用人たちだが、この一月の間に魔力制御と魔力操作がレベル2にまで上昇している。それに加え未だレベル1ではあるものの、それぞれの適性に合った属性魔法と身体強化を体得しており、駆け出し冒険者として最低限の能力を身に着けたと言える。


 この適性に合った魔法というのは、彼女らが魔法制御と魔力操作の二つを発現させたときに同じくレベル0の魔法として生えてきた属性魔法のことを指しており、まずはその魔法を習得させた方が効率が良いということで、今まで修練に励んでもらった。


 次に元々戦闘技術を持っていたソバスたち使用人と、ウルルを含めたグレッグ商会の従業員の戦闘組もまた目覚ましいレベルアップを遂げており、魔力制御と魔力操作の平均レベルは4に到達していて、最もレベルの高いソバスに至ってはレベル6になっている。


 それに加え、新しく適正でない魔法の習得と身体強化のレベル向上をやらせた結果、元はDランクからCランク冒険者程度の強さだった連中がBランクの下位クラスにまで強化される成果を上げている。


 もちろん、模擬戦などの実践的な修練も取り入れることで、本番を想定した動きもできるようになっており、低階層のモンスターであれば問題なく蹂躙が可能なレベルにまで強化されている。


 その中でもやはりというべきか、モチャとウルルの成長率は頭一つ抜きんでており、お互いにライバル視していることもあってか、この二人に関してはAランクモンスターでも相手どれるほどにまで成長していた。


 一か月という長い間王都を空けていることについてだが、毎日付きっきりで使用人たちの修行に付き合っているわけではないため、王都の様子を確認しに行くくらいの余裕はある。


 特に何か大きな問題は起こっておらず、留守を任せている人間で十分対応可能であると判断し、ここ一月の間ずっと彼らを鍛えることに心血を注いできたのだ。


 しかしながら、いくら忍耐力のある使用人たちも、定期的な休息は必要だということで、一週間のうち丸一日を休みにし、半日を修行半日を休みにする半勤半休をさらに一日導入することで、十分な休息を与えている。疑似的な週休二日制――二日のうちの一日の半分は修行をしているが――である。


「諸君、ここまでよく頑張って修練を積んだ。いよいよ、本格的なダンジョン攻略に向けてまずは冒険者登録を行うこととする」

「ローランド様。大丈夫でしょうか?」

「以前のお前たちであれば、一階層のモンスターでも危うかった者もいただろうが、今のお前たちであれば単独で十分に対処が可能だと判断した。問題ない」


 魔力制御も魔力操作もなく、基本的な属性魔法や身体強化すらなかった状態の彼女らであれば、何もできずに死んでいたかもしれない。尤も、仮に無力な状態でダンジョンに挑ませたとしても、そうならないよう俺が介入していただろうがな。


 とにかく、ある一定の基準を満たしたと言っていいい彼女らに今必要なのは、本番の戦闘実践であり、ひたすら同じことを繰り返す修行は個人的な自主練として行ってもらう段階にまで来ている。


 そのためのダンジョン攻略であり、ダンジョンに入るためには冒険者ギルドでの冒険者登録が必要という流れになるのは自然なことだ。そういうわけで、俺は全員を引き連れて冒険者ギルドへと向かったのである。


「いしゃっらいま――。ああー、ローランドくんじゃないですか?」

「お前は確か……ニコル」

「サコルですよ!! 一個減ってるじゃないですか!!」

「そんなことはどうでもいい。こいつらの冒険者登録を頼みたい」

「そんなことって……私の名前なんですけど」


 俺たちを出迎えてくれたのは、かつて世話になったギルド職員のサコルだった。確か、俺と同い年の十二歳で栗色の髪に青い瞳を持った少女だ。


 おれのあまりにもあまりな言葉にへこんだ様子のサコルだったが、すぐに元に戻り、俺の後ろにいる使用人たちを見て問い掛けてくる。


「この方たちは?」

「王都にある俺の屋敷で働いている使用人たちだ。一月前からこっちにやってきている。目的はダンジョンだ」

「なるほど、だから冒険者登録をしたいのですね。わかりました。では、お一人ずつお並びください」


 俺の説明に納得したサコルは、すぐに登録の手続きを取ってくれた。人数が少し多いので、他の職員にも協力してもらい、全員分のギルドカードが発行される。


「それにしても、まさかローランド君がSランク冒険者になっていたなんて驚きですよ」

「まあ、成り行きってやつだな。気付いたらSランクになっていた」

「普通はなりたくてもなれないんですけどね」


 手伝ってくれた職員の中に巨乳眼鏡お姉さんことムリアンがいた。相変わらず見事というほかないプロポーションを持つ彼女に内心で称賛しながらも、全員の登録が完了したということで、俺たちはギルドを後にしようとしたのだが……。


「待ってローランド君。ギルドマスターがあなたをお呼びよ」

「またこのパターンかよ」


 いざダンジョンに挑もうという矢先、出鼻を挫くようにムリアンからそんなことを告げられる。ちくせう、ダンジョンに行かせろよ。


 このまま逃げてもよかったが、後々になって強制的に面倒事を押し付けられてもあれなので、一応話を聞くためにムリアンと共に俺はギルドマスターの執務室へと向かった。


「久しぶりじゃのう」

「そっちこそ、まだ生きていたのか?」

「ふん、まだまだ現役じゃからな。あと百年は生きるぞい!」

「あんたなら、本当に実現しそうで怖いところだな」


 などといきなりな会話を展開した相手こそ、オラルガンドのギルドマスターであるイザベラだ。イザベラとの他愛もない会話もそこそこに、ここで彼女が真剣な表情を作って俺に頼み込んでくる。


「聞いてるよ。Sランクになったんだってのう」

「まあ、成り行きでな」

「ふん、お前さんの実力なら妥当なところじゃわい。そこで、お前さんにやってもらいたい依頼がある」

「内容は?」

「これらじゃ」


 そう言って、イザベラが取り出したのは依頼書の束だった。よくよく見てみると、その一つ一つはかなり前に記載されたものであり、少なくとも五年は経過しているもののようだ。


「ここでも五年依頼や十年依頼が溜まっているらしいな」

「お察しの通りじゃ。一つ頼めんか?」

「依頼の数的には一つじゃないんだが?」

「もちろん報酬は出すし、受けたい依頼だけで問題ないぞい? こちらとしては受けてくれるだけでもありがたいからのう」

「わかった。暇を見つけてやっておく」

「助かる」


 それから、ちょっとした雑談をしてイザベラとはそこで別れた。受付カウンターに戻った俺は、冒険者登録の済んだソバスたちを引き連れ、ダンジョンへと赴くことにしたのであった。

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