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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

263話「it's a SHUGYOU」



「では、始め」


 グレッグ商会へと挨拶に行った翌日、俺の一言で修行を再開する。その中には、尻尾をひらひらとさせるウルルの姿もあった。


 あれから、グレッグと話し合った結果、交代で抜けるシフトにすれば業務に支障が出ないように調整するということになり、今は先駆けとしてウルルと二人の従業員と一緒に参加している。


 三人とも、元は戦闘を生業としていたところもあって身体強化については問題なかったが、魔法使うために必要な魔力制御や魔力操作関連のスキルが弱かった。そこで、うちの戦闘ができる使用人のグループに混じってもらいつつ、基本となる魔力制御と魔力操作のスキルを育てていくという方針で教えることとなったのだ。


「……」

「……」


 だが、困ったというかなんというか、戦闘ができる使用人グループにはモチャがおり、ウルルとは相性が悪いようで、今も真面目に取り組んではいるものの、お互いに無言のせめぎ合いをしているようだ。


 差し詰め“お前には負けん”という敵対心からくるものなのだろうが、それで周りの雰囲気が悪くなるのは避けたいところだ。まあ、あっちにはソバスとミーアがいるからなんとかしてくれるだろう。


 とりあえず、今日も未だ魔力制御と魔力操作が発現していないグループを教えることにし、しばらく様子を見ることにした。


「んー、んー」

「ニッチェ。魔力を操るのはただ力めばいいというわけじゃない。そうだな、イメージとしてはここの内部が空洞になっていて、そこに丸い球のようなものがあると想像してみろ」

「……はい」

「想像できたら、その球を優しく両手で包み込むように持ち上げて、左右に動かしてみるといい」

「やってみます」


 俺はできるだけわかりやすい説明でニッチェにアドバイスをする。俺のアドバイスに従って、目を瞑りながら頭の中でイメージを膨らませているようだ。


「あっ、できました。これが魔力なんですね」

「できたか。どれどれ」


 ニッチェの言葉を受け、俺は彼女のステータスを確認する。するとそこには確かに魔力制御と魔力操作のスキルが発現していた。だが、レベル自体はまだゼロであるため、実際にスキルが適用されるのはもう少し修練を積んでからになるだろう。


 この世界のスキルレベルは最低は1で最大は10のMAX表記となっている。だが、たまにレベル0と表記されることがあるのだが、これはその人が持っている才能のような位置付けとなっている。


 つまり【魔力制御Lv0】という表記があった場合、魔力制御というスキルを習得できる可能性があるということになるのだ。そして、仮にレベル0のスキルがなかったとしても、そのスキルに準ずる行動や修練をすることでスキルが生えてくることもある。


 もちろん元々表記されていない分、スキルが使えるようになるまでの時間が掛かるし、最後まで目的のスキルが発現しないという可能性もあるが、そうなったらそうなったで別の能力を開眼させればいいだけの話であるため問題はない。


「よし、たった今【魔力制御】と【魔力操作】のスキルが発現したようだ。今度は、そのイメージをもう少し強く持ちながら続けてみてくれ」

「わかりました」


 ニッチェの他にも苦戦している使用人を見てやりながら、ゆっくりと確実にやらせる。すると、ニッチェの他にも徐々にではあるがコツを掴み始めた者が出始め、他の使用人たちにもスキルが生え始めた。


 しばらく、自主練と称して思い思いに好きなように修練させることにし、次に戦闘組のところへと足を向ける。


 戦闘組については、始めから魔力制御と魔力操作が発現しているか、身体強化のスキルを持っている者が該当する。故に、修練の内容も非戦闘員組よりも少し難易度が高いトレーニング内容となっている。


 まず、魔力制御と魔力操作を持っていない者に関しては、同じようにスキル発現の修練をやってもらい、すでに持っている者はさらにレベルを高めるためのトレーニングをするよう指示してある。


「どうだ」

「まだ感触が掴みきれません。朧気ながらではありますが、魔力の感覚はわかるので、もうしばらく励んでみます」

「焦る必要はない。確実にできるようになっていくことを意識してみてくれ」

「むむむむ」

「ウルル、それはただ唸ってるだけだ。魔力の流れが意識できていないぞ」


 というような具合で、魔力制御と魔力操作の二つのスキルを持っていても、それを意識してコントロールするトレーニングを日頃からやっている者は少ない。それが証拠に、この二つのスキルレベルが最も高いソバスですら体内の魔力を自在に操ることができないでいる。


 こういった魔力をどうこうするという感覚は、おそらく無意識で行っている場合が多く、それを意識するということ自体が難しい行為なのではないかと彼らのトレーニング風景から推測できる。


 だからこそ、それを強く意識させることによって魔力というこの世界独特の技術を向上させる手助けとなり、ゆくゆくはそれが魔法や身体強化という実践的なスキル上達の下地となるのではないかと俺は考えている。


 結局、この日は一部の者がレベル0のスキルを発現するだけに至った。だが、確実に進歩はしているため、焦らずじっくりとやっていこうと決意を新たにする俺であった。





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 そんなこんなで、ソバスたち使用人の修行が始まって十日ほどが経過した。彼らの上達技術はそれほどよくはなく、まさに牛の歩みといったところなのだが、それでも何とか全員が【魔力制御】と【魔力操作】のスキルを発現させることに成功した。


 元々発現していた者に至っては、レベル4にまで上がっており、実践レベルで最低限必要なレベルにまで到達したと言える。


「では、これより各員の適正を確認し、それぞれに見合った属性の魔法習得と魔力を使った身体強化の修練に移行する」


 欲を言うのならば、魔力制御と魔力操作のスキルは今後高度な魔法を発動させるのに必要な技術となってくるため、最低でもレベル3は欲しいところだったが、この二つのスキルは普段の生活の中でもできるトレーニングであるため、各々による自主練としてやってもらうことにした。


 そして、今回からは各々が適正となる基本的な属性魔法と身体強化の習得にシフトすることになったのである。


 具体的な方法は、言葉にするのは簡単で実際に行うとなると難しい部類のものであり、一言で表すのならイメージ修行だ。


 魔力を使って何か物理的な現象を引き起こす技術……人はそれを魔法と呼び、ファンタジーではよく取り扱われているが、魔法はれっきとした物理学に則った現象なのだ。


 現代の地球では魔力という概念自体が存在しなかったが故、魔法は空想上の技術として扱われてきたが、ここではそれが当たり前のように存在している。
 そして、魔法というものが科学という枠組みに組み込まれているのであれば、習得する方法は至ってシンプルな思考と試行の繰り返しの作業となってくる。


 スポーツなども科学的な要素を取り入れることで、さらに上のレベルにまでパフォーマンスを引き上げるという方法があり、所謂スポーツ科学という呼び方で呼ばれている。


 魔法もまた同じであり、魔法が物理的なもので表現できるのであれば、魔法を習得する方法もまた科学的アプローチを取り入れることで、一般的に習得困難な技術と言われている魔法を簡単に覚えることも可能なのである。


 尤も、その思考と試行の作業は同じことを淡々と繰り返す単調な作業であり、まさに根気と努力が必要とされる要素を孕んでいる。まさにスポーツ根性と呼んでも差し支えない。


 しかしながら、この世界の人間の気質なのかどうかはわからないが、今回参加している人間全員誰一人として弱音を吐いたりせず、ひたむきに魔法習得に向け取り組んでいる。


「いいか、魔法というのは頭の中でイメージしたものを魔力を使って表現する技術だ。だから、頭の中で想像できてないものはいくら魔力を使っても表現できない。逆にイメージがしっかりしていると、大体のことは魔法で実現できてしまう」

「な、なるほど」


 という具合で、ルッツォが相槌を打つ。おそらくは半信半疑といったところだろうが、俺が魔法というものに触れてきて最終的に抱いている感想としてはそこに尽きる。


 とにかく、しばらくは頭の中でイメージしたものを魔力を使って体現する修練法を徹底させ、結果が出るのを見守ることにする。


 そんな方法を続けることさらに数週間後、結果として使用人とグレッグ商会の従業員すべての人間が何かしらの魔法を発現することができたのであった。

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