ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
262話「グレッグ商会へご挨拶」
ソバスを連れ立って、俺はオラルガンドの街を歩く。前回オラルガンドを訪れた時は、あまり街の風景に注視していなかったこともあって、実のところ新鮮味というものを感じている。
王都と比べて迷宮都市という別称があるほどの都市であるからかはわからないが、相対的に冒険者の数が多い気がする。
王都は、国一番の都市ということもあって、一般的な平服を着た人間や他の都市から送られてくる品々を運ぶ行商人やらが多く、逆に冒険者などは王都全体の三割程度しかいない。
しかし、オラルガンドではダンジョンがあるということもそうだが、冒険者にとって王都よりもオラルガンドの方が実質的に仕事にありつける場合が多く、いくら国一番の都市といっても金儲けができなければなかなかメイン拠点として活動するのは難しいというのが現状なのだろう。
それを体現しているのか、王都とオラルガンドのDランク冒険者とCランク冒険者の比率を見ると、王都ではDランクが多く、オラルガンドではCランクが多くなっている。
それもこれも、様々な恩恵を与えてくれるダンジョンがあるからこそなのだが、冒険者が多いだけに王都と比べると治安はいいとは言えないのもまた事実だ。
それでも王都に次ぐ規模の大都市なだけあって、都市を治める領主も治安維持には心血を注いでいるらしく、それこそ頻繁に兵士が見回りする姿も見受けられる。
そんなオラルガンドの街並みを見ながら歩いていると、進行方向から見知った顔が歩いてくる。誰かといえば、ルッツォとモチャの食べ物探求コンビだ。
俺がいない間にルッツォは市場で食材を見に行きたいということで、その護衛としてモチャが駆り出されることとなった。尤も、モチャはモチャで向かう先が食べ物を扱う場所ということもあってか、市場で売っている食べ物に興味があったらしく、両手には肉串が握られていた。
「ご主人様ですのん」
「これはローランド様。こんなところで会うとは奇遇ですな」
「市場はもういいのか?」
「はい、あまり長居するのも良くないかと思い、大体どのような種類の食材があるのかを軽く確認してきただけですから」
「そうか。……モチャはちゃんと仕事してたのか?」
「しましたですのん」
俺の問い掛けに“ひしっ”という効果音が似合いそうな得意気な顔を浮かべていたが、両手に持った食べかけの肉串がその得意気な顔に説得力がないことを証明してしまっている。
モチャのことだから与えられた任務……というか仕事はしっかりとこなすだろうが、それにしたって見目麗しい美女が両手に肉串を持っている姿はなんともシュールな光景だった。
そんなわけで、そのまま俺の自宅に戻るというのもあれということで、二人もグレッグ商会に行くことになったわけだが、ここでやはりというべきか予想すべき事態に見舞われる。
「ご主人の匂いがする……。いたぁー! ごしゅじーん、会いたかった――ふがっ」
「ご主人様に、気やすく近づくなですのん」
グレッグ商会に到着したとほぼ同時に、俺の匂いを察知したウルルが突撃を敢行する。いつものようにひらりと躱そうとしたが、彼女の突進はモチャの手によって阻止されることとなった。それも、ウルルの顔面を掴むという物理技で。
「はっ、離せぇー! 離せぇー」
「ピーピーとよく鳴く獣人ですのん」
ウルルの抗議の声を受け入れたのか、はたまた呆れ果てた末のものなのかはわからないが、モチャの手が彼女の顔から離れた。その瞬間再び俺に向かって突進しようとするウルルの射線に割って入るかのようにモチャが対峙した。
「邪魔だ。ご主人に近づけないじゃないか」
「あなたのような毛むくじゃらを、ご主人様に近づけさせるわけないですのん」
「むむむぅー」
「……」
この瞬間、おそらくだが二人の間で本能的に“こいつは敵だ”ということを悟ったらしく、両者が睨み合いの展開に発展する。当人同士の実力的に出会った当初であるならば、僅かではあるがモチャの方に軍配が上がる。しかし、それはあくまでも俺と出会う前の話だ。
あれから、二人とも俺と定期的に模擬戦のようなものをやるようになってからは、元々持っていた才能が開花したらしく、両者ともパラメータがオールS+に近づきつつある。それを本能的に理解しているからこそ、今もこうしてお互い下手に動けず睨み合っているのかもしれない。
「二人ともじゃれ合いはそれくらいにしておけ。それよりもグレッグはいるか?」
「ここにいます」
俺の一言で、途端に険悪なムードはなくなり二人とも大人しくなる。落ち着いたところで、グレッグの所在をウルルに問い掛けたところ、彼女の背後からのっそりとグレッグが姿を現す。どうやら先ほどの二人の騒ぎを聞きつけてやってきたらしい。
「本日はどうされましたか?」
「ああ、今日はお前に紹介したい人間がいてな」
「ここではなんですので、奥にご案内します」
「いや、そこまで重苦しいものではないからここで紹介する。王都にある俺の屋敷の使用人をしてもらっている執事のソバス、料理長のルッツォ、メイド見習いのモチャだ」
グレッグが応接室へ通そうとするが、こちらとしては軽い挨拶のつもりできたため、その場で三人を紹介する。俺の紹介にソバス、ルッツォ、モチャがそれぞれ挨拶を交わし、グレッグとの顔合わせを済ませた。
「わざわざ王都からお越しとは、どういった用向きで来られたのですか?」
「世話になっているこいつらのちょっとした小旅行と、ダンジョンで自衛の手段を身に着けるための修行だ」
「自衛……ですか? あの、お三人とも屋敷の使用人なのですよね?」
「うちの使用人なら、Aランクモンスターを瞬殺できるようにならないといけないと思わないか?」
「坊っちゃん。あなたは一体何と戦っているのですか……」
「目指せ、戦う使用人! バトルサーヴァント!!」
「訳がわかりません」
俺の意味不明な言動に眉を寄せるグレッグだったが、俺のAランクモンスター瞬殺宣言にソバスとルッツォの二人が難色を示していた。ちなみに、モチャはいつも通りだった。
そんなわけで、グレッグにも挨拶が済んだことだしこのまま自宅に帰ろうと思ったその時、ここでウルルが声を上げた。
「ご主人、ウルルもその修行に連れてって欲しい」
「ん?」
「ウルルもっと強くなりたい。強くなってご主人の役に立つ」
「ふむ」
ウルルの言葉を受け、俺は少し思案に耽る。グレッグ商会の主な従業員は接客のできる一般奴隷で、戦闘には秀でてはいない。だが、ウルルなどの一部の奴隷は、元冒険者や元傭兵などといった戦闘に従事していた経験のある者も少なからずいる。
ここで、うちの使用人と同じくグレッグ商会の従業員たちもグレードアップすることができれば、安全性もかなり増すのではないだろうか? いや、増すに違いない!
「と言っているが、ウルルを連れて行っても問題ないか?」
「問題ありません」
「あ、あの! 私も連れて行ってください!!」
「あたしも」
「あたいも」
「……」
どうやら、少し困ったことになりそうである。
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