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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

258話「アルバイト始めました」



「よし、始めるか」


 開店の準備が整い、俺は今回の人生で初めてとなる店員を始めることにする。まずは、客寄せのために唐揚げを調理するところからだ。


 すでに竈に準備しておいた熱した油に、これまたあらかじめ下味を付けておいたコッカトリスの肉に小麦粉をまぶしてから投入する。


 相変わらず、ジュワーという美味しそうな音を耳にするだけで食欲がそそられるが、今回は店員なので自重するところは自重する。


 ちなみにだが、コカトリスを捜索する過程で大量に出現したコッカトリスの群れがいたため、原材料の肉については俺一人では消化しきれないほどに有り余っている。


 以前オクトパスとマンティコアから、それぞれタコ焼き用のタコ足と焼肉用の肉を回収したことがあったが、今思えば到底俺一人では消化しきれないほどの量がストレージに眠っていた。


 それこそ、あと俺が二百年か三百年ほど生き続けないといけないほどの量で、今回のコッカトリスの肉もキロ単位ではなくトン単位で入手してしまっているため、十分な量がある。少なくとも、今日の販売で肉不足になるということはないだろう。


 俺が肉を揚げ始めると、聞いたことのない音が響き渡っているからか、店の前を通り過ぎる人々がその音に気付いて視線を向けてくるのがわかった。だが、声を掛けてくることはなく、ほとんどの者が過ぎ去ってしまう。


「よう坊主、見ない顔だが新入りか?」

「まあ、今日が初日だからな」

「そうか。ところで、何を作ってるんだ?」


 店員を始めて最初の客は、二十代後半くらいの中年に片足を突っ込みかけている青年だった。鍛え抜かれた体つきは見事なもので、差し詰め体が資本の肉体労働者か冒険者だと予想する。


 おっさ……コホン、青年の問い掛けにいつまでも黙っているのはあれなので、俺は彼の問いに返答する。


「コッカトリスの肉を使った一口唐揚げだ」

「からあげ? 美味いのか?」

「食えばわかる。一つ小銅貨四枚だ」


 今回販売するにあたって、値段をどうしようかという話になった際、また小銅貨一枚でもいいかと考えたが、結局通常ルートで原材料を仕入れた場合における原価を考慮してこの値段設定にした。


 いずれこの唐揚げも商業ギルドにレシピを譲渡するとなった場合、クッキーのように後続との間に販売価格の齟齬が起きないようにするということを鑑みての結果だ。


「美味そうだ。なら、一つもらおうか」

「毎度あり」


 さっそく客としてやってきた青年にセールストークを展開する俺だったが、視界の端でメランダたちがやきもきしているのが映ったが、まだ手伝ってもらう段階ではないので、スルーを決め込む。


 そして、できあがった唐揚げを用意しておいた使い捨てのヴァンガスの葉という笹の葉に似た葉を使って作った入れ物に入れ、それを小銅貨四枚と引き換えに青年に差し出した。


 その入れ物とセットで、この世界の建築などで使われている木材を使用し、爪楊枝のようなものも作製しておいたので、手を汚すことなく食べられるようになっている。


「どれどれ、はむっ。……こ、ここ、これは!?」

「どうだ?」

「うまあああああああああああああああああい!!」

「うおっ」


 青年に唐揚げを手渡すと、さっそく一つを食べ始める。彼が一つ唐揚げを口にした瞬間、あまりの美味さなのか雄たけびにも似た彼の大音声が響き渡る。


 その声のお陰と言うべきかせいと言うべきかは別として、その声に驚いた人々が彼に注目する。ちなみに、俺も驚いた。


「なんだこれは!? 美味い美味過ぎるぞ!!」

「そりゃあよかった」

「おかわりをくれ!!」

「……小銅貨四枚になります」


 あっという間に唐揚げを平らげた青年がおかわりを要求してきたので、こちらも小銅貨四枚を請求する。代金を受け取り、同じように盛り付けて出してやると、勢いよく食べ始める。


「こんな美味い物を食ったのは、初めてだぜ!」

「な、なんだなんだ?」

「美味しい食べ物ですって」

「俺も頼んでみようかな」


 そのあまりの食いっぷりに、周囲の人間も感化され始めたのか、注文してくれそうな雰囲気に包まれ始める。それを見た俺は、すぐさま新しい唐揚げを揚げ始め、ストックを確保する準備を始める。


 俺が新しい唐揚げを揚げ始めたタイミングで、様子を窺っていた客が注文を始めたため、それを黙って見ていたメランダたちも動き出した。


「ご主人様、お手伝いいたします」

「わかった。ちょっと待て」


 俺はストレージから調理用のテーブルを取り出すと、下味を付けた肉の入ったボウルと小麦粉の入ったボウルに何も入っていないボウルの三つを置いた。


 さらに生産率を上げるため竈も三つに増やし、行列ができる前にストックをするような布陣にシフトチェンジする。


「メランダはこんな風にして肉に小麦粉をまぶしてこっちの何も入っていないボウルに入れていってくれ。シーファンは俺と交代で接客を。カリファは客の列整理を頼む」

「「「はい(おう)!」」」


 俺に指示に従い、三人ともすぐさま行動に移った。当然俺は唐揚げを揚げることに専念できるので、幾分作業は楽になるはずだ。


 しかし、最初の青年が美味そうに食べてくれたことが客引きになったようで、立て続けに注文が入る。注文してくれた客が、その場で唐揚げを食べることによってさらなる宣伝となり、瞬く間に行列が形成された。


 元々、唐揚げの販売スペースがメランダたちのクッキー売り場の反対面にあるということもあって、クッキーを求める客の目に入り易い場所となっている。それも相まってすぐに行列ができてしまったようだ。


 メランダたちも、クッキー販売で培った経験によって自分たちの役割を理解しており、細かい指示を出さなくとも自分で判断して動いてくれている。俺はといえば、本当にただ唐揚げを揚げるロボットと化している。……俺的には、接客から製造まですべて一人でやるつもりだったんだがな。


 しばらく四人で客を捌いていると、見知った顔が俺に声を掛けてきた。


「師匠じゃないですか」

「ギルムザックか」

「私もいます」

「あたしも」

「僕も」


 現れたのは、ギルムザック、メイリーン、アキーニ、アズールの四人組冒険者たちだ。相変わらず、俺のことを師匠呼ばわりするところは変わっていない四人だが、俺がいくら指摘してもやめようとはしない。メランダたちといいいこいつらといい、一体彼らの何がそうさせるのか……。


 そんな彼らとの再会を果たした俺だが、当然のことだとは思うので仕方がないといえばそうなのだが、俺が何をやっているのか彼らは問い掛けてきた。


「それで、これは一体なにをやってるんです?」

「見ての通りだが」

「見てわからないから聞いてるんですけど……」


 以前クッキー販売の時にギルムザックだけ会っていたのだが、その時はメランダたちの働きを観察していたため、俺自身がクッキーを売ってはいなかった。だが今回は違う。


 自らが唐揚げを調理する姿を見て彼らが何を思ったのかはわからないが、少なくともSランク冒険者がこんな日雇いのような仕事をする必要性があるのかと思っていることは何となく読み取れた。


「唐揚げを揚げている」

「いや、だから。Sランクのあなたがやる仕事じゃないでしょ?」

「俺がやりたいからやっている。覚えておくといい、ギルムザックよ。男にとって質で仕事を決めるのではなく、自分がやりたいかやりたくないかで仕事を決めろ。それが、どれだけ世間一般的に分不相応な仕事だったとしてもだ」

「師匠……。言ってることはカッコいい感じですけど、絵面に説得力がありません」

「やかましい! 暇なら、お前も一つ買ってけ!」


 それから、ギルムザックたちにも唐揚げを売り付けたのだが、あまりの美味さにおかわりを要求してきたので、満足するまで食べさせてやった。もちろん代金は請求したが……。


 最初の青年といいギルムザックたちといい、どうやら肉体労働者系の職業の人たちにとっては物足りないらしく、他のガタイのいい人たちも一人で三つも四つも注文していたことから、次からはそんな人たち用に大盛も用意しておくことを検討しておいた方がいいかもしれない。


 そんなこんなで、コッカトリスの肉を使った唐揚げは大盛況のうちに終わり、クッキー販売の営業時間と同時刻に店仕舞いとなった。

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