ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
257話「新作料理ができたので店員をやってみよう」
「さて、まずは料理からだな」
ギルドから出てしばらく歩いたのち、俺は誰にともなくそんなことを呟く。ここしばらく生産活動に従事していなかった身としては、新しく手に入った素材で何かを作るということをやってみたいと考えていたのだ。
衣食住という分野の内、特に充実させておきたい項目は食であり、これは人間が持つ三大欲求に通ずるものがあることが要因となっている。
俺もまたその欲求に抗えるはずもなく、今回手に入れた食材を使って何か新しい料理に挑戦したいと考えた俺は、すぐさま屋敷の厨房へと向かった。
「これはこれはローランド様、本日はどういった御用ですか?」
「ルッツォ。すまないが厨房を借りるぞ」
「っ!? 新作料理ですか!? 私もお手伝いいたします!!」
「いや、まあ。そうなんだが、何故そんなに張り切っているんだ?」
俺の言葉にさも当然のように「そりゃあ、ローランド様の新作料理と聞かされちゃあ、料理人なら誰でもこうなりますよ!」とウキウキな様子で答えてくれたが、中年男性がまるで少年のようにはしゃぐ姿は、なんだか見ていてとても複雑な気分になってくる。
それはともかくとして、しばらくやっていなかった料理ということで、今はそれに意識を集中すべく、俺はストレージからある食材を取り出した。
「ローランド様、この肉は?」
「【コッカトリスの肉】だ」
「コッカトリスですか?」
「そうだ。今日はこれで唐揚げを作っていこうと思う」
ここで、少しこの世界における生物学の話をしよう。知っての通り、この世界は元の地球とは異なり、人類の敵となる生物であるモンスターという存在が数多く生息している。
そして、その生態系は様々で、モンスターの中には下位種と上位種という存在に分類できる種類がある。その中の一つがこのコッカトリスだ。
わかりやすくゴブリンを例にするのであれば、最弱と言われているゴブリンが進化すると、ゴブリンリーダーやゴブリンアーチャーなどの冒険者で言うところの専門職に特化した種族にグレードアップすることがある。それがモンスターの進化だ。
そして、言わずもがな先ほど俺が取り出したコッカトリスもまた上位種に進化するタイプのモンスターで、その進化の派生先にはコカトリスがある。
このコッカトリスは、俺がコカトリスを探している道中に出会ったモンスターであり、どうやらその地域一体がコカトリス系統のモンスターが多く分布する場所だったらしく、その最弱種であるコッカトリスも多く生息していた。
コッカトリスのランクは、Eランクと比較的討伐が簡単な部類に入るモンスターで、それこそ登録したばかりの駆け出し冒険者がパーティーを組めば、問題なく狩ることができるくらいの強さだ。
見た目は、それこそ鶏を丸々太らせた丸い球体に近い体型をしており、地球の記憶がある俺からすれば“デフォルメされた鶏”というのが、正直な感想だ。
攻撃自体もその丸い体を使った転がり攻撃と、くちばしを使用したつつき攻撃というなんともシンプルなもので、特に目立つような行動は取らない。
その攻撃も直線的で、あらかじめ攻撃が来ることをわかっていれば、避けるのはとても簡単であり、寧ろ攻撃を受けた方が悪いとさえ思えるようなお粗末な攻撃方法と言わざるを得ない。
だからこそ、新人冒険者でも簡単に狩ることができるのだが、注意しなければならないことがあるとすれば、コッカトリスは群れで行動するタイプのモンスターであるため、徒党を組まれた場合倒すのが面倒になることがあるので、その点については注意が必要だ。
超解析によると肉は鳥型のモンスターということもあって、淡白で癖がないらしく、新人冒険者でも簡単に狩ってこられるため、よく肉屋で並んでいる肉の筆頭として市民たちにも親しまれている。
そんなわけで、今日はこのコッカトリスを使った簡単お手軽料理【コッカトリスの一口唐揚げ】を作っていくことにする。
唐揚げ自体は、オラルガンドのダンジョンで出会ったサッピーという鳥型モンスターを使って作った経験があるが、ルッツォたち王都の人間に唐揚げを振舞ったことはなかったはずなので、今回は新作の料理として作っていこうと思う。
まず、コッカトリスの肉を女性や子供でも食べやすい一口サイズに切り分ける。切り分けた肉に塩胡椒などの下味を付ける。以前にはなかった醤油も安定して入手できる目途が立っているため、それも合わせて漬け込んでいく。
それに加えてショウガやニンニクなどの薬味系も適量加え、前世の頃に食べていた唐揚げのレシピそのままのものが出来上がった。これはかなりの期待が持てる。
肉に味が染み込む間に鍋に油を敷き、火を熾して調理可能な温度になるまで待つ。その間にルッツォが細かい質問をしてきたのでそれに答えつつ、ある程度味が染み込んだ肉に小麦粉をまぶし、調理可能な温度になった油に投下する。
ジュ―という食欲をそそる音と共に油の中で肉が踊っているのをしばらく眺めながら、中に火が通るまでこんがりきつね色に揚げていき、余熱を取るために一度油から引き揚げ、少し置いておけば完成である。
「さて、どうなったか食べてみよう。……もぐっ、もぐもぐ。っ!? こ、これは!?」
できあがった唐揚げを口の中に入れた瞬間、衣のサクッという音が響き渡り、すぐに閉じ込められていた中の肉汁が溢れ出してくる。十分に下味の付いた味付けと適度な噛み応えのある肉質は、かつて当たり前のように食べていた地球の唐揚げと何ら遜色はなかった。まあ、総じて言えば――。
「美味い」
この一言に尽きるのである。
「ロ、ローランド様、私も食べてもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
「では……もぐもぐ。こ、れは……な、なんという旨味が凝縮されているんだ。外はサクッとしていながらも、中は噛み応えのある肉質と溢れ出す肉汁が口の中全体に広がる。こんな料理があるなんて……」
まるで食レポをするタレントのように饒舌に語り始めるルッツォを尻目に、俺は地球と同じ質の料理を作れたことに心の中でほくそ笑む。そして、あることに思い至り手を顎に当てながら考えを巡らす。
「ふむ、これなら問題なさそうだ」
「ローランド様、この料理を今日の夕食に出してもいいでしょうか?」
「ん? ああ、問題ない」
「ありがとうございます! 他の使用人も喜びます」
それから、ルッツォに唐揚げの作り方を少しレクチャーしたのち、今日の作業を終えることにした。
余談だが、夕食に出された唐揚げは大好評で、あまりの美味さに全員がおかわりを要求したのは言うまでもない。
翌日、朝の支度を終え、ある場所に立ち寄ってから、俺はクッキー販売で通っていた露店が建ち並ぶ区画へとやってきた。
ちなみに、クッキー販売は今も続いており、クッキー一枚で小銅貨一枚という良心的な値段と一番初めに売り出した店ということで、他のクッキー販売店よりも客付きはかなりいい。
以前のように材料が無くなり途中で店仕舞いするという事態にはなっていないものの、連日訪れる客はとどまることを知らず、多くの客が列を成してクッキーを買いに来ている。
「よいしょっと……ここらへんでいいかな」
独り言ちながら、俺は露店区画の空いている場所へ移動する。そして、露店区画の入り口から引っ張ってきた屋台を移動させ設置したタイミングで、見知った顔に声を掛けられた。
「ご、ご主人様。何をなさっているのですか?」
「ん?」
そこにいたのは、クッキー販売をさせるために雇った奴隷のメランダ、シーファン、カリファの三人だった。三人とも……というよりも、クッキー販売を任せている奴隷たち全員が、何故かはわからないのだが俺のことを主人と呼ぶのを止めようとしない。
何度か指摘しているのだが、理解していて敢えてそう呼んでいるか、奴隷たちの意図はわからないが、そんな奴隷の代表格である三人が現れた。
「ここでちょっと新しい商売でも始めようと思ってな」
「新しい商売ですか? 見たところ店を担当する者がいないようですが」
「ここにいるじゃないか」
「「「え」」」
メランダの疑問に俺は親指を自分に向けて示してやると、三人とも素っ頓狂な声が返ってくる。今回は、俺自身が店員となって商品を売ってみようという試みだ。
本来なら、マチャドを連れ立ってまた新しい奴隷と契約してそいつらに店をやらせればいいのだが、たまにはこういったことを経験しておくのも悪くないと考えたのである。
そのタイミングで丁度新しい料理のコッカトリスの唐揚げが完成したため、これを商品として売り出してみようということになったわけだ。
ちなみに、今朝立ち寄ったある場所というのは屋台職人のヘドウィグのところで、新たに何台か屋台を仕入れてきたのだ。
「ご主人直々にやるってのかい? そんなことしなくてもオレらがいるじゃないですか」
「そうですよ。こういうことは、私たちに任せていただければ」
俺が店員をすると理解するや否や、すぐにシーファンとカリファが自分の仕事であると主張する。メランダも口には出さないが、二人に同意する姿勢のようだ。
確かに、彼女たちの言うことは尤もであり、今までであれば彼女たちに仕事を割り振ってしまえば楽な話だ。だが、こうも思う。人生楽ありゃ苦もあるさと……。
圧倒的な力を手に入れた今でこそ、いろいろなことができるようになってきている。だが、それに胡坐をかいて甘えるのはいい傾向ではない。初心忘れるべからずという言葉も存在する通り、こういったこともある程度はこなしておくべくなのだ。
「まあ、とりあえず今日は俺が店員をやる。心配なら見てればいい。お前たちがいなくても、店の方は回るようになってきてるだろ?」
「はあ」
俺の言葉に曖昧な返事をするメランダだったが、それが俺の意志だということを理解すると、あっさりと引いてくれたようだ。
とにかく、どれだけ客が来るかわからないからひとまずはやってみることにして、俺は開店の準備を始めることにした。
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