ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
256話「しばらく冒険者はお休みします」
十年依頼を達成してから、数日が経過した。あれ以来、冒険者ギルドにちょくちょくと顔を出すようになり、さらに五年依頼二つと十年依頼一つを達成した。
どれも長年放置されていた依頼だけあって一筋縄ではいかない依頼だとメリアンやララミールに聞かされていたのだが、俺の能力を駆使すれば問題ない範囲の依頼ばかりだったため、比較的簡単に達成することができた。
その大抵の依頼が、発見困難な幻や伝説などと呼ばれている素材であったり、そもそも人では到達が不可能に近い場所にあったりなどという類の内容だったため、普通の人間であれば確かに困難な依頼と言えるが、俺からすればそれほど難しいと言えなかったのだ。
こんな依頼ならば、まだナガルティーニャから模擬戦で一本取るという方が俺にとっては困難であり、かなり難易度の高いものだと言える。
それと、やはり俺の予想した通りロックドラゴンの鱗を納品した依頼主から直接会いたいという連絡があったそうだが、もう既に王都を旅立ったとメリアンが伝えてくれたらしい。グッジョブである。
これで、余計な面倒事を回避することができた俺は、その礼という訳ではないが、ギルドに溜まっていた俺なら達成可能な五年依頼や十年依頼をこなしていったというのが、ここ数日の俺の行動内容だ。
「ん、コカトリスの七尾羽だ」
「……」
俺が取り出したのは、数か月前に五年依頼に昇格したという依頼であるコカトリスというモンスターから七尾羽を入手してくるものだった。
この依頼はSランクのコカトリスのオスから、七尾羽を入手するというものなのだが、その条件もなかなかにややこしい。
まず、コカトリスのオス自体がメスと比べて出現率がかなり低く、しかもその出現する時間帯も夜明けから朝方という極限られた時間しか出現しないとのことだ。
それ自体は、出現条件を満たせば普通の冒険者でもコカトリスのオスに遭遇することは可能なのだが、問題はコカトリス自体の強さにある。コカトリスはSランクに分類されており、最低でもAランク四パーティーで挑まなければならないほどの凶暴さを兼ね備えている。
そもそも、冒険者として一流であるAランク以上の冒険者自体が珍しく、ましてやそのパーティーが四組も同じ都市に滞在しているなどという確率は、恐らくコカトリスに遭遇するそれよりも低い。
さらに、例えAランク冒険者四パーティーという条件が揃っていたとしても、コカトリスを討伐できる確率は半々だと言われており、まさに一か八かの賭けに出ることと同義だ。
そういった事情から、今まで依頼を受ける冒険者すら出て来ず、晴れてと言うべきなのか、数か月前に五年依頼に昇格した依頼だったのだが、俺にとっては鳥から尻尾の羽を毟ってくるだけのお仕事であるため、ものの一日で依頼が完了した。
そういう背景があるからか、俺がコカトリスの七尾羽を机に出した時のメリアンの呆れた表情はとても印象に残った。
「では、ギルドマスターの部屋へ」
「またかよ。もうさすがにいいだろう」
「一応ですが、ギルド内でも高難易度に位置する依頼なので、ギルドマスターに報告する義務が発生します」
「ちっ」
そう返答するメリアンに思わず舌打ちが漏れる。彼女も俺がギルドマスターに会いたくない理由を理解しているため、ただただ苦笑いを溢すのみだ。
俺が高難易度の依頼を達成する度にギルドマスターに報告しているのだが、報告が終わる度に俺を誘惑しようとあの手この手を使ってくるのだ。それが鬱陶しくてたまらない。
未だ十二歳というこの体にそういった欲情を抱くような邪な感情は芽生えておらず、例えどれほど魅力的な女性が誘惑してこようともあしらう自信はある。だが、さすがに毎回それに対して何かしらの対処するのは面倒なのだ。
「待ってたわよ~ローランドくん、今日はコカトリスの依頼だったかしら」
「そうだ。依頼は達成した。では、これにて失礼する」
「ちょっと待ってちょうだい。たまには、わたしとゆっくり話してくれてもいいんじゃない? これでも、あなたのために結構頑張ってるつもりなんだけど……」
「……(それは脅迫というもんだろうが!)」
確かに、俺に対して冒険者ギルド……ララミールやメリアンを筆頭に他のギルド職員が俺の情報を外部に漏らさないように尽力してくれていることは知っていた。
その理由というのも、俺が面倒なことに巻き込まれたくないという俺の個人の理由であり、ギルド的にはそのことを考慮する理由は一切ない。だが、それでも俺の事情を汲み取ってくれたギルドの人間によって、俺は平穏な冒険者活動に勤しめていけることもまた事実なのだが、それを脅迫の材料にしてくるのは些かいただけないな。
「その提案を呑んでやってもいい」
「ほんと!? じゃあ、さっそく」
「なら今ここで選べ。俺とのひと時の時間を得る代わりにSランク冒険者が一人活動を休止するか、このまま何事もなく今まで通りの距離でお互い必要最低限の干渉のみで過ごすか」
「……ローランドくんも人が悪いわね」
「先に脅してきたのはそっちだ。俺は同じように返しただけ。お前と一緒にするな。じゃあ、そういうことで、俺は失礼する」
「もう~、せっかくローランドくんを独り占めできると思ったのにぃ~!」
そんなやり取りの後、俺はメリアンと共に受付カウンターへと向かおうとする。その背中に向かって、ささやかな抗議とばかりにララミールの恨みがましい叫び声が木霊する。
その一言に思うことがあった俺は、受け付けに向かっていた歩を止め、徐に首をララミールの方へと向けながら、真剣味のある声で言い放ってやった。
「ララミール。この世界には、俺よりもいい男なんて星の数ほどいる。そんな男にこそ、お前は相応しい。自分の価値を見誤るようなことだけはするんじゃないぞ」
「……あなたよりもいい人なんて、そうゴロゴロそこらへんに転がってるないじゃない」
俺の言葉にララミールが何か呟いている様子だったが、彼女から少し距離があったことで、その呟きが俺の耳に届くことはなかった。
それから、受付カウンターへと舞い戻り、いつものようにメリアンから今回の依頼の報酬を受け取った俺は、しばらく冒険者活動を控えることを告げる。
「やはりギルドマスターが原因ですか?」
「いいや、今回の休止の件に関して直接ララミールが関わってはいない。俺個人がそう判断しただけだ」
ララミールの一件がなくとも、俺はそろそろ冒険者としての活動を抑え、別のことに心血を注ぎたいと考え始めていた。ララミールの一件は、たまたまそれが同時期に重なったというだけで、決して彼女のことが嫌いになったわけではない。
意外と言えば失礼に当たるかもしれないのだが、ギルドマスターとしてララミールは優秀な人物で、今まで受けた依頼の処理を短期間で行いつつ、押し掛けてきた依頼主も相応の理由を付けて俺に辿り着けないように尽力してくれたりと、その仕事ぶりは感嘆に値するものだ。
だが、それを差し引いて、日頃の俺に対する言動が目に余るものがあり、ララミールがナガルティーニャ並みの耐久力があれば思わず手が出ていたほどに、彼女のアプローチがしつこかったのはギルド職員の中だけでなく冒険者の間でも周知の事実だ。
それでも、それを理由に今回の結論を出したと問われればそうではなく、もうそろそろ他のことにも手を付けていきたいというのが正直なところだった。
「では、またのご利用をお待ちしております。まだまだローランド君にしか達成できない依頼はたくさんありますので」
「まあ、その時はよろしく頼む」
そんな風に軽く挨拶を交わした俺は、メリアンに見送られながら次の活動に向けて冒険者ギルドを後にしたのであった。
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