ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

255話「依頼達成」



 王都へと帰還した俺は、すぐに冒険者ギルドへと向かう。すぐにメリアン経由でララミールの元へ行くと、彼女が座っていた執務机にぶっきらぼうにストレージからロックドラゴンの鱗を投げ寄こしてやる。


 カランコロンという音を立てながら、いきなり机に転がった鱗に驚きながらも、それが普通の鱗でないことを瞬時に悟ったララミールが、目を見開きながら問い掛けてくる。


「ローランドくん? こ、この鱗って……」

「ロックドラゴンの鱗だ」

「ま、まさかとは思ったけど~、ホントに十年依頼のロックドラゴンの鱗を取ってくるなんて~」


 高難易度と言われている十年依頼の素材を取ってきたことに驚いた様子のララミールだったが、すぐにいつもの口調に戻ると、しげしげと俺が持ってきた鱗を観察し始めた。


 しかしながら、その鱗が本当に依頼主が必要としているものであるのかわからなかったのか、メリアンに依頼主の確認をしてもらうため指示を出していた。


「じゃあ、今日のところはこれで帰ってもいいよな?」

「いいけど~、ローランドくんこのあと暇ってことよね~? ならお姉さんといいことしな――」

「では、失礼する」


 ララミールがそのあと何を言おうとしていのかがわかったので、俺はすぐさま部屋を後にする。後にした部屋からは、彼女の恨みがましい声が聞こえたきたのだが、そんなことは俺の知ったことではないので、無視を決め込んだ。


 何はともあれ、依頼主による確認が取れないことには、こちらとしてもできることがないので、あとは確認が取れ次第報酬をもらうだけだ。


 受付カウンターに向かうと、ちょうど依頼主に連絡する手続きをしていたメリアンがいたので、声を掛ける。


「メリアン、ちょっといいか?」

「はい、なんですか?」

「もし、依頼主の確認が取れたら、誰が依頼を達成したとかは依頼主には教えないでくれ」

「どうしてですか?」

「面倒臭いことになりそうだからだ」


 元々、依頼主と依頼を受ける冒険者との間には、ギルドが間に入ることで依頼内容の齟齬によるトラブルなどを回避する役割を担っている。だからこそ、基本的に依頼主は直接冒険者にコンタクトを取るということはしない。


 しかしながら、今回は依頼の内容が内容だけに、依頼を達成した人物がどういった人物なのか知ろうとする可能性があり、それによってさらなる面倒事が舞い込んでくる可能性があるのだ。


 であるからして、今回の依頼が達成できたとしても、誰が依頼を達成したとかいう情報を依頼主に漏らさないよう釘を刺すことにしたのだ。


「お相手の方は貴族ですから、難しいとは思いますが、もしそうなったら本人が会いたくないという旨は伝えておきます」

「それでいい」


 相手が貴族である以上、強権を利用して無理にでも俺に会うという暴挙に出ることができる。そこから専属の護衛として勧誘されたり、さらに難しい依頼を振ってきたりなどの面倒事があるかもしれないが、そこは自分でなんとかするしかない。


 とにかく、冒険者ギルドにこちらの意向は伝えたため、あとは依頼主の確認を待つばかりだ。メリアンとはそこで挨拶をして別れ、俺はギルドを後にした。




 ~ Side ???? ~


「旦那様、冒険者ギルドから使いが参りました」


 ローランドが十年依頼を達成したその日の夕刻、とある貴族の屋敷に冒険者ギルドの使いがやってきた。


 それを知らせるのは、その家の重大な雑事を任せられている老齢の男性で、彼はその家の家令を務めている。一方、彼が報告している相手こそ、彼の主人であり、十年依頼を出した張本人の貴族である。


「冒険者ギルドからだと? ……通せ」

「かしこまりました」


 家令の男性が仕える男もまたそれなりの年齢を重ねており、見た目では四十代から五十代の間といったところだろう。家令の男性が、冒険者ギルドの使いを連れてくるために部屋からいなくなったところで、彼はため息を吐く。


「どうせ、十年依頼を受けた冒険者がいるといういつもの報告だろう。ギルドもそういうところは存外に律儀と見える」


 ここ数年は彼が出した依頼を受ける者はいなかったが、久しぶりの依頼を受けてくれたというのに、男の顔は芳しくない。それも当然の話で、彼が冒険者ギルドに依頼を出したのは、かれこれ十年も前の話であり、その間依頼が達成されたという話はおろか、彼が指定した納品してほしい品ではないかと思しき話すら舞い込んでこない始末だ。


 男が納品してほしい品というのは、ローランドが受けた十年依頼のロックドラゴンの鱗であり、彼はどうしてもその素材を欲していた。


 何故かといえば、今から十年以上前の話にまで遡る。四十を前にして、彼は自分がそう長くない時を過ごさずして寿命を迎えることを悟ってしまった。


 その際、自分が何か歴史に残るような偉業を成し遂げたいと思い至った彼は、冒険者ギルドに例の依頼を出した。なぜ彼が件の素材を求めたのかといえば、ロックドラゴンという存在は、昔から伝え聞かされてきた御伽噺に登場するドラゴンで、この世界の人間であれば誰でも聞いたことがある話として有名だ。


 であればこそ、その鱗を手に入れコレクションとして持つことで、歴史上で唯一ロックドラゴンの鱗を持つ貴族としてその名前を残そうとしたのだ。


 ところが、彼が依頼を出してから既に十年以上の時が経過しており、その間に依頼を受けた冒険者の数は両手の指におさまりきるかどうかといった具合だが、その誰もが依頼を達成することを諦めてしまい、依頼を受ける冒険者も年々減少していった。


 男とて、自分が出した依頼がどれだけ無理難題であるかは理解しているつもりだが、たった一度の人生のうちの我が儘として願う内容としては実に子供染みたものだ。


 だが、その依頼は予想以上に難航し、もはや自分が生きている間に達成されることはないのではないのかと近年では諦めていたのだが、ここにきて事態が急変する出来事が起こる。


「……今、なんと申した?」

「は。あなた様が冒険者ギルドに依頼した依頼を達成し、例の品を持ち帰った冒険者がおりまして。確認のために人を寄こしていただきたいのですが」

「……」


 男は得も言われぬ喜びに打ちひしがれた。半ば諦めかけていた自身の夢が叶うかもしれない。そんな絶好の機会がやってきたのだから、嬉しくないはずがない。


「報告感謝する。すぐに確認のために冒険者ギルドに人を寄こす。ご苦労だった」

「は。それでは、私はこれで失礼いたします」


 報告するべきことを報告した冒険者ギルド使いは、すぐに部屋を後にした。


 その後、すぐに冒険者ギルドに確認するため家令を使わし、十年依頼を達成した冒険者が持ち帰ったという素材を確認したところ、それは彼が望んでいた品物であったことは言うまでもない。


 こうして、男の願望は達成され、彼の部屋にはその後御伽噺に出てくるロックドラゴンの鱗が飾られることとなったのであった。


 余談だが、彼が依頼を達成した冒険者に一言礼を言おうと冒険者ギルドに問い合わせてみたが、本人はすでに王都を旅立った後で名前も告げなかったと聞かされた。

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