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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

251話「クッキー教室」



 屋敷を後にした俺は、すぐにローグ村へと向かった。まずはローグ村の村長に話をするべく、村長の家に向かおうとしたのだが、その前にマークが動いた。


「ちょっと、村長を呼んできます。兄さまはここで待っていてください」

「ん、ああ」


 俺的にはこちらから村長のところへ行こうとしたのだが、マークの厚意を無下にするのもどうかと思ったので、その場で待つことにした。


 ちなみに、村へと向かう道中、父ランドールに向けた息子モードが意外だったようで、二人揃って「あんな態度できたんですね」と言われてしまった。


 一応言っておくが、確かに俺は前世をプラスすれば爺と言われる年齢になるが、この世界だけならまだ成人してないピチピチの十二歳なのだ。いいか、大事なことだからもう一度言うが、ピチピチの十二歳なのだ。


 まだ大人の階段も登っていないし、そういうことはあと数年はないだろうとたかを括っている。それほどまでに若い……というか、幼い年齢なのだ。参ったか、この野郎!


 などと、誰に向かってドヤ顔をしているのか訳の分からないことを内心で考えていると、マークに連れられた村長がやってきた。村長は、俺の姿を見つけるとにこやかに挨拶してくる。


「これはこれはロラン様、ようこそおいでくださいましたですじゃ」

「ああ、村長も息災のようだな」


 という具合に他愛のない挨拶を交わす。村長とは、流行り病の一件以来和解が成立しており、俺がネガティブキャンペーンをやっていたような頃の邪険さはなくなっている。
 それは、他の村人たちも同じで、今ではすれ違ったら頭を下げられるようなくらいの信頼関係まで回復していた。


 俺は挨拶もそこそこに、今回村にやってきた用件を話すことにする。


「さっそくだが、今日は村長に決定事項を伝えに来た」

「決定事項? 何ですかな?」

「ああ。とりあえず、これを食べてみてくれ」


 そう言って、俺はマークたちにやったようにクッキーを手渡しながら、村長に試食を促す。村長も怪訝な表情を浮かべながらも、クッキーを一口でパクリと食べると、目を見開いて驚きながら感想を述べる。


「これは美味いですのう。して、この食べ物が一体なんだというのですじゃ?」

「これはクッキーという名の食べ物でな。ゆくゆくはこの村……いや、この国の特産品となる食べ物だ。だから先駆けとしてこの村でクッキーを生産してもらい、この村の特産としてもらいたい」

「ほうほう、なるほど。仔細は理解しました。さっそく女衆を集めて作らせましょうぞ!」


 俺が説明をすると、すぐに理解した村長が動いてくれ、料理のできる女衆を集めてくれることとなった。こちらとしても、そのつもりだったので手間が省けた形となった。当然断る理由はないため、村長に任せることにする。


 村という狭いコミュニティ故か、すぐに村の女衆が集まり、彼女たちにクッキーの作り方を教える運びとなった。集まった女衆の年代層は様々で、成人したばかりの少女から果てはもうそろそろお迎えが来そうなほど腰の曲がった老婆までだ。


 俺は即席で竈と作業用に大きめのテーブルを数個ストレージから取り出し、ふるいやボウルなどの必要な調理器具も出していく。こんなこともあろうかという訳ではないが、マルベルトでクッキー販売を行うことを想定し、必要な調理器具はある程度買い足していた。


「では、これよりクッキーの作り方を教える。一度で覚える必要はないが、しっかりと見て覚えるように」

『はい』


 女衆の元気な返事を聞きながら、俺は一つ一つの工程を口に出して説明する。ただのクッキーなので難しい工程はそれほど無く、短い時間でできあがってしまった。


「といった感じだ。食べてみろ」


 俺はクッキーの作り方を説明するために見本として作ったクッキーを女衆に振舞う。クッキーを食べた女衆たちは、目を輝かせて口々に美味しいという感想を漏らしていた。


 だが、それと同時になんとしてもこの甘味の作り方を覚えねばという強迫観念にも似た思念が伝わってきて、少し恐怖を覚えた。しかし、教えていくうちにそういった感情も次第に真剣に取り組む姿へと変貌していき、最終的には全員がクッキーの作り方をマスターした。


 常日頃から家の台所を任されている女衆だけあって、ちょっとしたアドバイスだけですぐに臨機応変に修正ができたため、それほど手間を掛けずにクッキー教室は終了となった。


 これでこの村にも日常的にクッキーが出回ることになるが、一つ懸念すべきは材料の問題だ。クッキーの材料は小麦粉、卵、砂糖なのだが、この村の人々にとって卵と砂糖が贅沢品になっている以上、いくら作り方を覚えたからといって日常的にクッキーを作ることが難しい。


 そこで、俺は村長に進言して小麦の栽培量を増やすことと、新たに畜産業として鶏の飼育と砂糖の原料となるサトウキビの栽培を追加するべきだと提案する。だが、サトウキビについては首を横に振り受け入れを拒絶した。


「何故だ?」

「ロラン様もご存知の通り、砂糖は我々下々の者にとっては贅沢品ですじゃ。その素となるサトウキビを栽培すれば、他の領地の貴族様が黙ってはおりますまい」

「なるほど、了解した。であれば、小麦の栽培と鶏の飼育については問題なければこの村で量産体制を強化してもらい、砂糖については行商人などから仕入れるという形でどうだ?」

「それで問題ないですじゃ。ですが、このことをランドール様は了承しておられるのでしょうか?」

「ああ。事前に了解は得ている。だから、安心してやってくれ」


 領主であるランドールの許可があることに、村長や他の女衆も安堵の表情を浮かべる。領民にとって絶対的な存在である領主の後押しがあるということで、女衆たちはクッキーを量産する方策について話し合い始めた。


「となってくると、問題は卵と砂糖よね?」

「小麦は、バゼッタの旦那が育ててたわよね?」

「ええ、明日から馬車馬のように働かせるから」

「卵は鶏の飼育だから、ゼラーの旦那が適任よね」

「そうね、死ぬ気で働いてもらわないと」


 などという旦那たちが少し可哀想な発言が飛び交っていたが、これもクッキーを広めるための人柱だと思って、俺は彼女たちの発言を黙認することにした。


 余談だが、その後の村の様子は、男衆の妻たちによってクッキーをローグ村の特産品にするべく、夫たちを馬車馬のように働かせるという光景が広がっており、その報告を聞いた俺は女性の美容と甘味に対する執着の凄さを改めて実感するのだった。






     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~





 村の女衆にクッキーの調理法を伝えた俺は、そのまま領主の館へと戻ってきた。すると、どこからか俺が戻ってきていることを聞きつけたクラリスが、俺を待ち構えていた。


「ロランちゃん、おかえりなさい」

「ただいま戻りました」


 そう言いながら、俺に近づきふわっと優しく俺の頭を抱き抱える。母から漂う甘い香りと顔全体から伝わってくる柔らかい感触は、まさに母の温もりそのものだった。


 しばらく、彼女の好きにさせていたが、ローラの「お母様だけズルいです」という何がズルいのか問い詰めたくなるような理解不能な不満の声に意識を引き戻された俺は、母から逃れるように距離を取る。


 名残惜しそうな声を出しながらも、母が俺の今回の来訪理由を問い掛けてきた。


「それで、今日はどんな用で来たのかしら?」

「かくかくしかじかだ」

「まあ! クッキーを広めるためにですって!?」


 説明が面倒だったので適当に言ったのだが、さすがは母親というべきかなんというべきか、俺の適当な説明で理解したようだ。そして、その説明でもマークとローラの二人も頷いていることから二人も俺の説明を理解しているらしい。……解せぬ。


 それから、お土産と見本と称して庶民クッキーの入った紙袋を母に手渡し、今日のところは帰ることにした。三人からは泊って行けと言われたが、やるべきことがあるということで断ると、無理に引き留めようとはしなかった。


「ロランちゃん、ここはあなたの家なんだからいつでも帰ってきていいのよ」

「じゃあまた来る」


 それだけ告げると、俺は三人と別れた。家を出た以上あまり頻繁に帰ってくることは憚られるが、たまに顔を出すくらいならばいいかと思いつつ、一度王都へと戻ることにした。

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