ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

246話「給金配布と根回し」



「えっ、ご、ご主人様。い、今なんと仰いました?」

「何度も言わせるな。俺はお前らの主人じゃない。あと、お前たちに給金を出す」

「給金がいただけるのですか?」


 俺は彼女たちに奴隷としてではなく従業員として雇い入れた旨を話し、少ないがちゃんと給金が出ることを説明した。


 まさか、給金がもらえると思っていなかったのか、その場にいた奴隷全員が驚きの表情を浮かべている。それだけ、奴隷に給金を出すという件が異例中の異例なのだと理解できる。


「ああ。だが、奴隷としてお前たちを買っている以上、一般の従業員と同額の給金は出せないし、かなり少量とはなるが、給金は間違いなく支払うつもりだ」

「給金をいただけるだけで十分です」

「それと、お前たちの給金の一部をお前たちを買った時の代金と相殺させてもらう。そして、代金が相殺し終われば希望者は奴隷から解放するつもりだ」

「そ、それは本当なんですかい!?」


 俺の説明にカリファが詰め寄る。少々戸惑いながらも「ああ」と頷いてやると、嬉しそうな顔をする。それは他の奴隷たちも同じようで、中には涙を流して喜んでいる者もいた。


 俺としては、奴隷解放後も従業員として働いてもらいたいところだが、そこは彼女たちの自主性に任せるしかない。自分たちの意志に反して奴隷になった者もいるだろうし、故郷に帰りたいと願う者もいるだろうからな。


 とにかく、彼女たちにはしばらくクッキー販売の事業に従事してもらい、奴隷代金相殺後はどうしたいのか改めて意志を聞くことにしよう。


「じゃあ、まずは奴隷長のメランダからだ」

「は、はい」


 俺がメランダに声を掛けると、緊張した面持ちで前に出てくる。そんな彼女に内心で苦笑いを浮かべつつ、皮袋に入った給金を渡してやる。


「これからも奴隷長として期待している」

「この命に替えましても、役目を全う致します」


 そう言いながら、メランダは片膝を付き両手で給金を受け取る。少し大袈裟な気もしなくはないが、やる気があるのはいいことなのでここは敢えて何も言わない。


 ちなみに、当初の予定通りメランダには奴隷代金を引いた大銅貨二枚を与え、副奴隷長のシーファンとカリファには大銅貨一枚を与える。それ以外の役職を持たない奴隷は、一律小銅貨三枚を与えた。


 メランダ、シーファン、カリファの三名については、奴隷長・副奴隷長の他に○○組の組長という役職を同時に兼任しているが、いずれ組長は他の奴隷に譲ってもいいので、給金については奴隷長と副奴隷長の役職に合わせた金額にしている。


 給金については一般的な従業員よりも少ない金額であるが、それでも働いたことで報酬が出ることが稀な奴隷たちにとっては嬉しいようで、全員が笑顔を浮かべていた。


「全員給金は受け取ったな。では、今日は本当にご苦労だった。明日もまた同じような感じになるだろうが、頑張ってくれ」

『はいっ!』


 給金がもらえたことで奴隷たちのモチベーションが上がっているらしく、今日一番の大きな返事が返ってくる。屋台をストレージに仕舞うと、俺は屋敷に戻りマチャドと奴隷たちはコンメル商会へと帰って行った。





     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~





 屋敷に戻った俺は、そのままソバスを呼び付ける。すぐに部屋へとやってきたソバスが用向きを聞いてきた。



「お帰りなさいませ。何か御用でしょうか?」

「ソバス。夕食の前にステラとマーニャ、それにモチャを呼んできてくれ」

「……かしこまりました」


 俺が挙げた名前で、どんな用件なのかを大体察したソバスは三人を呼びに行くため、すぐに部屋を後にする。数分後、扉がノックされ、ソバス、ステラ、マーニャとモチャ、それに何故か呼んでいないメイド長ミーアまでもがそこにいた。


 ミーアについては、居てもらっても問題ないため、彼女がここにきたことはスルーしてソバスに声を掛けた。


「ソバス、ご苦労」

「執事として当然でございます」

「うん。でだ……ステラ、マーニャ、モチャ。お前たちが呼ばれた理由はわかるな?」

「はい。標的は誰ですか?」

「は?」


 どうやら、俺が暗殺したいと思っていたらしく、三人ともシリアスな顔を浮かべている。いやいや、やらんて。


 だが、三人ともやる気に満ちているようで、ステラは手をワキワキとさせながら指の骨を鳴らし、マーニャは懐に仕舞っていた投げナイフをお手玉のように操り、モチャは胸の谷間から取り出した五寸釘のような針を指の間に挟んで戦闘態勢の構えを取る。


 普段からそんな殺伐としているのかと呆れた視線をソバスとミーアに向けてみたが、二人とも首を横に振っているので、いつもこんな感じではないようだ。


「誰が暗殺をしてこいと言った」

「……違うのですか?」

「違う」

「残念です」

「ですのん」


 俺の返答に、マーニャとモチャが残念そうな顔を浮かべる。そんな回りくどいことをしなくとも、正面突破でやればいいだけの話であるため、そもそも暗殺するという行為自体が俺の中で無意味なのだ。


 では、一体何故彼女たちを召集したのかといえば、今後起こりうる問題についてあらかじめ対応策を講じておくためだ。


「いいか、お前たちには今後クッキー販売の屋台の営業を妨害してくる輩から、妨害の指示をした依頼主を特定する任務に就いてもらう」

「妨害があったのですか?」

「いいや、まだない。だが、こういったことには必ずといっていい程営業を邪魔してくる馬鹿どもがいる。お前たちはそんな奴が現れた時に、そいつから黒幕を吐かせろ」

「ローランド様、一つよろしいですか?」

「なんだ?」


 これから起こることが予想される事態の対処の指示を俺が出すと、ステラが問い掛けてきた。何か質問があるのかと思って聞き返すと、とんでもないことを言ってきた。


「その営業を妨害してきた輩から黒幕を吐けとのご命令ですが、吐かせた後は殺してしまってもいいのでしょうか?」

「ダメだ。今後の見せしめという意味でも生かして返す必要がある。ただし、黒幕を吐かせる方法は一任するからそれで我慢しろ。できれば、五体満足で返してやれ」

「そうですか、残念ですがそれで我慢いたします」

「髪の毛を切り刻んでハゲにしてしまいましょう!」

「軽く爪を剥ぐですのん!」


 見た目は愛らしいというのにも関わらず、口にしている言葉が殺伐としている彼女らに、若干残念な気持ちになりながらも、ひとまずはこれで今後の根回しは済んだ。


「というわけだから、この三人にはしばらく屋敷の仕事を回さないように。人手が足りないのであれば、ソバスとミーアで相談した上で新しく人を入れても構わない」

「その点は問題ありません」

「今いる人手でなんとかなりますので、問題ございません」


 俺の口にした懸念にソバスとミーアが大丈夫だと返答する。二人がそう言うのであれば、問題はないのだろうと判断し、この話はこれで終了する。


 そのあと、夕食を食べその日は早めに就寝することにした。

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