ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
243話「販売開始」
「よし、今日から販売開始だ」
『はい』
俺の言葉に、奴隷全員が元気よく答える。料理組にクッキーの作り方を教えてから、さらに丸一日が経過した。その期間何をしていたのかといえば、クッキーの品質を向上させていたのだ。
やはり元日本人としては、中途半端な品物を提供するよりも、できるだけ品質の高いものをと考えてしまうのが性分のようで、料理組にはさらにクッキー作りの練度を上げてもらった。
そのお陰で、料理組のほとんどが同じ品質でクッキーを作製できるようになっており、その点に関しては俺がいなくとも問題ない。
接客組と護衛組については同じくマチャドから接客の作法と模擬戦を続行してもらった。護衛組からは俺と手合わせしたいという申し出があったが、あまりに実力差がありすぎて練習にならないという理由で断った。
兎にも角にも、これでようやくクッキーを販売する運びとなり、今こうして露店が建ち並ぶ区画へと赴いている。
「お、新入りか?」
「ここは何処で店を出してもいいのか?」
「基本はそうだが、大体出店する場所が決まってるやつもいるから、誰も出してない場所を選ぶことになってる」
目についた露店の店主に声を掛け、露店を出す時のルールなどを聞き、誰も出店していない場所を教えてもらう。
「教えてくれてありがとう。これはうちで扱うクッキーという食べ物だ。今回の礼として受け取ってくれ」
「じゃあ、遠慮なくもらうよ」
俺は彼に礼として奴隷たちが作った庶民のクッキーを渡すと、露店が出ていない場所でなるべく人通りが多い場所を選らぶ。
目ぼしい場所を見つけると、さっそくそこに向かって歩いて行く。その後ろを奴隷たちがぞろぞろと追随している。目的の場所に到着すると、ストレージから屋台を取り出し、奴隷たちに声を掛けた。
「今からお前たちに仕事を始めてもらう。まずは感覚を掴んでもらうため、最初の内は二十人全員でやってもらうが、慣れてきたら必要人数を三分割して、時間帯ごとに働いてもらうのでそのつもりで頼む」
「承知しました」
「かしこまりました」
「了解でさ」
俺の言葉にメランダ、シーファン、カリファが順に答え、他の奴隷たちもそれに倣う。
あれから料理組・接客組・護衛組の三つの組の代表と、クッキーを売る奴隷の中で代表一人と副代表二人を選出することにしたのだ。組の代表はそのまま“組長”と名付け、奴隷全体の代表を“奴隷長”と“副奴隷長”と呼ぶように決めた。
組長はそれぞれ先の三人が務め、それと兼任する形で奴隷長をメランダ、副奴隷長をシーファンとカリファの二人にやってもらうことにした。シーファンとカリファの二人をまとめられるのがメランダだけというのもあったが、我ながらなかなかいい選出だと思う。
尤も、それほど難しい業務をさせるわけではないので、大した肩書きではないが、その分給金に上乗せする形を取ればいい。ちなみに、まだ彼女たちには給金を出す話はしていない。
それとクッキーの値段についてだが、庶民でも簡単に手に入り易くするため、クッキー一枚につき小銅貨一枚というとてもリーズナブルな値段設定を取っている。その分、薄利多売で数を捌かなければ利益が出ないため、黒字になるかは奴隷たちの頑張りに掛かっている。
そして、奴隷たちの給金だが、最初から高給取りにしてしまうとあれなので、まずは役職を持たない一般奴隷を小銅貨五枚として設定し、その内の小銅貨二枚を奴隷を購入する際の金額と相殺させ実際は小銅貨三枚を給金として手渡す。
それに加えて、役職を持つ三人についてはメランダを大銅貨五枚とし、その内の三枚を相殺して大銅貨二枚に、シーファンとカリファを大銅貨三枚の内大銅貨二枚を相殺し、大銅貨一枚とした。
商会に勤める奴隷と比べると少し給金が少ないが、そもそも奴隷の身で給金が支払われること自体が稀であるため、小銅貨一枚でも奴隷たちにとっては有り難いのだ。
「お、なんか珍しいものを売ってるのね」
「いらっしゃいませ。こちらは、クッキーという甘いお菓子を売っております。試しに一枚食べてみますか? もちろんお代はいりません」
「あら、気前がいいのね。じゃあ一枚もらうわ」
販売を開始してすぐに妙齢の女性が食い付いてきた。最初に接客したのは、接客組代表のシーファンだ。まずはどういった商品を扱っているのか説明し、味は変わらないが見た目の問題から商品にならない形の崩れたクッキーを試食品として無料で提供する。
こうすることで、クッキーというものがどういった食べ物であるかを知ってもらえるし、形は悪いが味は同じであるため、食べればその美味さも伝わるのだ。
「いただくわ。……もぐもぐ。こ、これは!? ……店員さん、これはお幾らなのかしら?」
試食品のクッキーを一枚口にした女性が目を見開き驚愕する。そして、まるで獲物を狩る猛獣のような目つきで問い掛けてくるのを冷静にシーファンが対応する。
「はい、こちらのクッキーは正規品がこちらになっておりまして、この大きさ一枚で小銅貨一枚です」
「な、なんですって!? こんなに美味しいものが一枚たったの小銅貨一枚!」
同じ女性としてこのクッキーという食べ物の価値を理解しているのか、シーファンがしっかりとした口調で説明する。そんな彼女の説明に女性が大声を上げる。その声を聞いて、何事かと行き交う周囲の人間もこちらに注目しているようだ。
「お客様、ご購入されるのでしたらまとめ買いがおすすめです」
「まとめ買い?」
「はい。こちらの料金表をご覧いただければお分かりいただけると思いますが、こちらのクッキーはですね。一枚購入で小銅貨一枚ですが、十枚購入すれば小銅貨九枚、三十枚購入すれば大銅貨二枚と小銅貨八枚、五十枚購入で大銅貨四枚と小銅貨七枚という風に、購入する枚数が多ければそれだけお得になっております」
「あら、本当だわ。じゃあ、五十枚ちょうだい」
「ありがとうございます。では、大銅貨四枚と小銅貨七枚になります」
シーファンの説明に女性は納得すると、迷うことなく五十枚の注文をする。お金を受け取ると、すぐに五十枚のクッキーが入った紙袋を女性に手渡す。
「こちらが商品になります」
「早いのね。ありがとう。ところで、この店はいつもこの場所でやっているのかしら?」
「今日が初めてなんですよ」
「そうなのね。また来るわ」
「ありがとうございました」
そんな軽い会話をしたのち、女性は満足気に去って行った。俺はそれを観察しながら周囲の様子を窺いつつ、メランダに指示を出す。
「メランダ。追加でクッキーを焼いた方がいい」
「え? ですが、まだまだたくさんあると思いますよ?」
「……そうだといいがな」
俺は行き交う人々に視線を向けながら、そう返答する。そして、俺の予想は見事に的中する。
「わ、わたしも二十枚もらうわ」
「俺は三十枚だ」
「私は五十枚で」
「は、はい。少々お待ちください」
最初の女性客とのやり取りを見ていた人が、女性が満足気にクッキーを買って行くのを見て購買意欲に駆られたようで、次々と注文が入る。女性が去り際にさっそく一枚を紙袋から取り出し、美味しそうにクッキーを頬張っていたことも購入の決定打となったようだ。
そこから物珍しい屋台ということで、足を止めてくれる客に試食品を提供し、その美味さを理解した客が購入するという流れが形成され、瞬く間にクッキーが売れていく。
「……もうそろそろだな。メランダ、追加のクッキーを焼け」
「は、はい」
飛ぶようにクッキーが売れていく状況を目の当たりにしたメランダは、今度こそ俺の指示通りクッキーを焼き始めた。そのタイミングで、クッキーを求める客の列ができ始めるのであった。
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